天然翻弄伝説&ひとりじめ伝説

突然、翔太の職場にやってきた爽子。いきなりの行動に戸惑う翔太だが・・・。爽子が
やってきた理由とは??


短編です。ずっと前に書いてUPしていなかったものを見つけたのでとりあえず出します。
二人は結婚していて、まだ子どもがいない時。ギャグです。以下からどうぞ↓

















「爽子!?」


仕事を終えた翔太が会社から出てくると爽子はエントランスの前で白い息を舞わせて
立っていた。翔太は思わず目を疑う。ゴシゴシと擦ると顔を歪ませ爽子の前まで駆け
寄る。


「・・え??なんで?」


翔太はかなり驚いていた。携帯で連絡を取り合って会社の近くのカフェなどで待ち合
わせしたことはあったが、会社前で待たれることは今までなかった。それも何の予告
もなしに・・・


「もしかして携帯・・連絡くれた??」


爽子はぎこちない様子で、頷いた。


「わ、ごめんっ・・今仕事終わったとこ、なんかあった??」


翔太は慌てて携帯に手を伸ばすが爽子の様子がおかしいのに気づき、動きが止まる。


「良かった・・翔太くんに会えて」
「・・・」


ドッドッドッと翔太の脈が速くなる。頭の中でブーブーッと危険信号がサイレンが鳴
っているような気がした。なぜならどう考えても一大事のような気がするからだ。


(何か緊急事態・・・?)


今にも泣きそうに佇む爽子に焦りを感じながらも本能的に手を伸ばそうとした翔太の
背後から声を掛けられる。


「おっ!風早くんのスクープ発見!!」
「マジで??」
「わっ女だっ??愛人??」


一人がそう言うとワイワイと野次馬が次々にやって来る。翔太の人気の高さが伺えた。
定時を過ぎているが残業組が束でやってきた。普段私生活を見せない翔太の珍しい姿
に皆興味津々だ。翔太は思わずため息をつく。


「ご、ごめんなさいっ・・っ」


翔太は申し訳なさそうに恐縮して言う爽子に複雑そうな目を向けると、ぎゅっと手を
握った。そして社員達をギロッと睨む。


「奥さん!」
「え・・・」
「俺の奥さんだからっ!!じゃ、お疲れさまでした」


くるっと背中を向け、爽子の手を強引に引くと振り返りもしない翔太を皆呆然と眺め
た。女子社員達はぼーっと二人を憧れの眼差しで見つめる。


「わぉ・・すごいもん見た。なんか」
「愛妻家って本当みたいだな」
「いかにも見られたくないってカンジだったもんな」
「確かに隠しておきたいタイプかも」
「うん・・大和撫子っぽいな」


それぞれの呟きに皆、刻々と頷く。会社では見せない照れた顔を見られた翔太はその
後、しばらくからかいの対象になるのだった。


* *



「驚いたよ・・早く帰るとは言ってたけど会えなかったらずっと待ってるつもりだっ
 たの?」
「ごめんなさい・・会社に押し掛けたりして・・ご迷惑を」
「いや、迷惑とかじゃないけど。ほら、」


翔太はぎゅっと爽子の手を握りしめた。爽子は大きく目を見開き翔太を見つめる。


「手が冷たいから」


突然押しかけて来たにも関わらず、自分の身体を労わる翔太に爽子は泣きそうになる。
二人は帰り道、手を繋ぎながら歩いた。


「でも、いつもこの帰り道は早く爽子に会いたいって・・そればかりだから思いがけ
 なく一緒に帰れて嬉しいかも」
「翔太くん・・あのっ」
「とりあえず、なんか食べる?」
「・・・」


すると爽子は立ち止って俯いたまま無言になった。会社に迎えに来る時点でかなり重
要な用事だとは分かっていたが、こんなに不安そうな爽子はあまり見たことがない。


「あのね・・翔太くんに謝りたくて」
「え・・・」


翔太の心臓がどくんっと大きく動いた。頭の中で”謝りたい”という言葉がこだまする。


ビービーッ


危険信号のサイレンが回っている。
頭の中で「謝りたい」→「好きな人が出来た」と勝手に変換される。


(うそだろ・・?)


ドッドッドッ


翔太は本能的に一歩後退して爽子との距離を開けた。辺りは真っ暗なので爽子の表情は
はっきりとは見えない。でも爽子を見る余裕もなかった。爽子が何かを言う前に違う話
題を振った。


「ちょっ・・とりあえず帰ろうよ。ね、そうだっそこのケーキ屋、旨いんだよ。あっ店
 閉まってるか、あ・・そうだ、本屋行かなきゃ、」
「翔太くん??」


きょとんとする爽子を越して、ずんずん先を翔太は歩いて行く。慌てて爽子が後を追い
かける。


「翔太くんっ・・?どうしたの?お話、聞いて」
「いや、それだけは聞けない」
「えっ・・どうして?」


翔太の頭の中でマイナスな思考がぐるぐると回る。とにかく考えたくないとばかりにず
んずんと早歩きをする翔太と爽子の距離がどんどん開いていく。


「−たくんっ・・・翔太くんっ!!」


その時、爽子は思いっきり叫んだ。翔太は思わず立ち止まる。そして恐る恐る振り返る
と身体を震わせてふるふると涙を堪えている爽子の姿があった。


「・・・!」


その姿にたまらなくなった翔太はポリポリと頭を掻くと、申し訳なさそうに爽子の元ま
で戻り、頭を垂れて黙り込んだ。するとふわっと爽子の香りが翔太の鼻孔を霞める。


(−えっ・・・)


爽子は翔太に近づき、背中に手を回す。翔太はいきなりの爽子の行動に戸惑いながらも
何の疑いもなくその華奢な小さな体をぎゅっと抱きしめた。そして沈黙の中、爽子が
ボソッと言う。


「やっぱり」
「・・・」


(ーえ?)


「ん?なんか言った?」


耳元で聞こえる爽子の声に翔太は頭を傾げる。


(やっぱり?)


すると、爽子の手が首元に伸びる。訳が分からず目が点になりながら爽子の動きを感
じた。そして・・・


ブチッ


(・・へ?ブチッ?)


何かを引っ張る音と感覚。その時やっと理解する。爽子は愛の抱擁をしたのではない。
ただ、あるものを取ろうとしていたことに。


「やっぱり・・タグがついたままだったっ・・・ごめんなさい〜〜〜〜っ」


再び爽子を直視すると、首元のシャツからタグを外して翔太の前に掲げると申し訳な
さそうに瞳を潤ませている姿が目に入った。


「今朝、私のプレゼントのシャツを着てくれて嬉しいなぁと思っていたのだけれど、
 夕食を作っていると突然、タグのことを思い出して・・そうだっ!外してないって
 それでですね・・電話してもかからなくて、気になり出したら止まらなくなって」


しぃ〜〜〜ん


蒼白な顔で焦燥感いっぱいに言う爽子にまだ身動きが出来ずに固まっている翔太。
いつもは会社を出たところで携帯に電源を入れるが今日は爽子を見つけて入れるのを
忘れていたことに気づく。


(あ・・・)


翔太はごそっと携帯が入っているポケットをぎゅっと握った。


「ごめんなさいっ・・・恥ずかしい思いをさせてしまって・・・っ」
「いや・・ばれてたらすでに取ってるはずだし」
「あ・・・」


二人はしばらく無言で見つめ合った後、爽子はほーっと長い息を吐いて”良かった〜!”
と安堵の表情を浮かべている。そんな爽子を見て良かったのは自分だと翔太は思った。
相変わらず少しズレているけど一生懸命な爽子に気持ちが温かくなる。


「あははは〜〜っ」
「翔太・・くん??」


マイナス方面に一気に落ちかけた自分に翔太は失笑する。爽子のことになると、どん
な些細なことでも動揺している自分は高校の時から全く成長していないと思った。
そして何年一緒にいても・・・


「ったく・・勝てる気しないな。全然」
「えっ?」


翔太はもう一度ぎゅっと爽子を抱き寄せた。


「−翔太くんっ?・・「−好きだよ」」
「えっ・・///」


翔太の吐息を感じながら耳元で囁かれた言葉に爽子は冬だというのに一気に全身が熱
くなるのを感じた。


「とりあえず、ありがと」
「ううん・・大事にしてしまったみたいで、ごめんなさいっ・・」
「・・一緒に帰れて嬉しいよ」


そう言って爽やかに笑う翔太に爽子もほっこりする。二人はにっこりと笑い合った。


「爽子のごはん食べたい」
「・・食べて帰りたいんじゃなくて・・?」
「あっ・・その、えっと・・でも何か作ってるんじゃないんだっけ?」
「うんっ・・今日はハンバーグだったのだけど」
「やった!!・・じゃ、帰ろっか」
「??」


翔太は戸惑い気味の爽子を誤魔化すようににっこりと笑い、そっと自分より一回り小
さな手を優しく握ると家路に向かって歩き出した。澄んだ冬の夜空に舞う二人の白い
息を眺めながら翔太は先ほどの同僚の顔を思い出してぽつりと独り言のように漏らす。


「でも、ま・・いっかぁ。あいつらにいつか見られると思ってたし」
「え・・・」
「いんや、こっちの話」
「??」


いくつになっても翔太の”ひとりじめ”伝説は健在であった。そして爽子もまた、翔太
天然翻弄伝説は結婚後も続くのであった。



<おわり>

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あとがき↓

なんでこんなの書いてたんだろ?多分1年前ぐらいに書いたやつ。文章変なのでちょっ
と直してUPしました。翔太は会社勤め。爽子は専業主婦。あ、これってHalfmoonの
設定ですね。長編が終わって寂しいので二次を書いて補おう。と思っている今日この頃。
君トドは来月発売ですね。楽しみ♪