「Once in a blue moon」(84)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
こちらは 「Once in a blue moon」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45
46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71
72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 の続きです。 

☆ 走り出した結月の前に現れた男性とは・・・?













・‥…━━━☆ Once in a blue moon 84 ‥…━━━☆














バタバタバタッー


がらっ


「・・っはぁはぁ」


息を切らしながらものすごい勢いで翔太が向こうから走ってきた。


「しょ、翔太くんっ・・!!」
「・・っ!」


翔太の姿を見つけると爽子は素早く立ち上がり駆け寄った。爽子の顔は青く小刻みに震
えていた。頭を垂れ、堪えるように翔太に近づく。翔太は廊下の向こうにいる小さな存
在に気づきはっとする。


「ゆづ・・・」


ここは病院。結月は茫然と表情のない目をしてそこに立ち尽くしてた。
翔太は爽子をそっと抱きしめると、優しく体を離し結月の方へ歩いていった。そして、
結月の目の高さまでしゃがみこむと真剣な表情で見つめた。


「良かった・・・」


ぎゅっとその存在を確かめるように抱きしめる。強く、強く感情のままに。翔太の目に
は涙が浮かんでいた。そして恐る恐る爽子を見上げると、ごくっと生唾を飲み込んで聞
いた。


「・・蓮は?」


やっと聞けた一言に爽子は視線だけそっと向こうの扉に移す。そこは手術中の文字が赤
く光っていた。


* *


「はい」
「あ、ありがとう・・」


翔太は自動販売機で飲み物を購入して爽子に渡した。
今は何も喉を通らないと分かっていても長い待ち時間に何もせずにいられなかった。
外回り中、珍しく爽子から電話が入ったのが1時間前。突然の電話、電話の向こうで上
擦った声の爽子。その信じられない内容に翔太の携帯の持つ手も震えた。


(蓮が車の前に飛び出したゆづを助けようとして車に引かれた?)


一瞬、そんなことあってたまるか・・・と現実ではないかのように薄ら笑いしていた。
でもそれは夢ではなかった。どうやってここまで来たのか分からないほど、ただがむ
しゃらに病院に向かった。


「ゆづは?」
「え・・あぁ、空いている病室お借りしてる」


精神的に疲れているはずなのだが神経が高ぶっていたのだろう。じっと蓮を待っていた
結月がやっと眠った。二人は無言で手術室前のベンチに座っていた。しばらくして俯い
ていた爽子から嗚咽が漏れた。


「爽子・・?」
「うっ・・うぅ」


翔太は爽子の気持ちを察するとたまらなくなり震える肩をトントンと優しく叩いた。爽
子はぎゅっと翔太の袖を掴むとさらに嗚咽が止まらなくなる。


「しょった・・くんが来てくれて・・安心したのっ・・うぅ」
「爽子・・」
「怖かったの・・すごく、怖かったっ・・」


翔太は爽子の後頭部に手を回し、そっと自分の胸に引き寄せると優しく抱きしめた。
爽子の気持ちを一番分かるのは自分だと自負している。同じ親として何にも代えられな
い大切なもの。そこに偶然蓮は現れたのだろうか?


「ごめん・・なさい。私がゆづちゃんから目を離してしまってっ・・・」


翔太はブンブンと頭を横に振った。そして抱きしめる手に力を籠める。
結月を咄嗟に押し出して自分が車に引かれた。出血している横たわっている蓮の姿を見
た爽子と結月はその光景を一生忘れられないだろう。


何の運命のいたずらか?


思わず翔太は頭の中でそう呟くと爽子の頬にそっと手を当て自分の方に顔を向かせた。
爽子の真っ赤な目を翔太はせつない表情で見つめると涙で濡れた頬に触れる。


「・・蓮はそういう男だよ。いつも自分は後回し」
「・・・」


翔太の憂いの含んだ目を爽子はじっと見つめる。


「俺・・3日前に会社の人から聞いたんだ。蓮が帰ってきてること・・」
「!」


爽子は驚いた表情で大きく目を見開いた。二人の間に沈黙が走る。お互い同じ想いのま
ま言葉を発せなかった。”蓮は自分たちに会いに来たのだろうか・・・?”
でも今はそんなことより蓮が無事であること、それだけだ。二人はぎゅっと手を握り合
うと手術中と表示されている赤い看板を見つめた。
その時がバタンッと手術室のドアが開いた。二人は反射的に立ち上がる。すると中から
看護師が出てきて深刻な表情で叫んだ。


「どなたかO型の血液型の方いらっしゃいますか!?」
「「ーはいっ!!」」


爽子と翔太は同時に手を挙げた。そう言えば3人とも血液型がO型だった。


「れ、蓮は!?・・っ彼はどうなんですか!」


翔太がすごい勢いで看護師に言い寄ると看護師は少し躊躇した後、急ぎ気味に言った。


「良い状況ではありません、だから輸血が必要なのです」
「・・・っっ!」


二人はぐっと黙り込んだ。そして翔太は強い意志のある目を看護師に向けた。


「俺の血をお願いします。いくらでも・・だから蓮をっ・・」
「それでは手術室にお入りください」


翔太はふーと小さく深呼吸をすると爽子に視線を移した。


「俺にさせてもらえないかな?」
「えっ・・・」


翔太の真剣な瞳を爽子はじっと見つめるとゆっくりと頷いた。翔太も目で頷くと落ち着
いた様子で手術室に入って行った。


「翔太くん・・・」


爽子はぎゅっと胸の前で手を合わせると、祈るように翔太の後ろ姿を見送った。







「Once in an blue moon」 85 へ















あとがき↓

昼ドラ続きます(笑)しかし蓮にいろいろあり過ぎですね。まぁ、話を進めるために
仕方ない。