「Once in a blue moon」(109)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 の続きです。

☆ 庄司と向き合えなかった蓮が今伝えたいこととは・・・?




















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 109 ‥…━━━☆












「あの頃、自分でも自覚してなかった感情に苦しんでいた俺を見抜いてましたよね」


蓮のいきなりの直球に庄司はぴくっと目線だけ上げる。すべて正直に想いを吐き出し
合ったと言ってもいきなりのディープな内容に翔太も思わず息を飲んだ。


「美穂も・・そうだったんだと思います」


そして蓮は視線を落とし、沈んだ表情になると翔太の方を向いて言った。


「・・10年前のあの事件はすべて、俺が原因なんだ」
「・・・」
「美穂をそこまで追い込んだのは・・俺だ」


”あの事件”で翔太も庄司もすぐに分かった。美穂が爽子の前にナイフを持って現れた
事件だ。それぞれが心のどこかに傷として残っている。


「あの時誤魔化してたけど、すべては俺が抱えてしまった気持ちが根源で皆を巻き込
 むことになった。美穂は病気だったけど、そこは見抜かれていたというか・・」


言葉ではっきり言わなくてもそれが何を指示しているか翔太も庄司ももちろん分かっ
ていた。翔太はあの時、”なぜ蓮の彼女が爽子を狙うのか?”と漠然と聞いたことを思
い出した。無意識に絶対考えたくない可能性を消し去るために言葉で安心感を得よう
としていたのかもしれない。


「今から考えたら、最初から美穂が彼女にこだわるのも、そうだったのかもしれない」
「・・・」


庄司はそのことに気づいていた。そして妻である沙穂もまたその美穂の女の本能に気
づいていた一人だ。未だ暗い陰を残すその出来事を蓮はずっと引きずっていた。全て
が解決したと思われた今も・・・


「翔太・・・謝って済む問題じゃないって今も思ってるけど・・悪かっ「−い」」


蓮が苦しそうな表情を浮かべてぎこちなく発した言葉を翔太が遮った。


「ーーもういいじゃん。あの時〜だったら・・っていう”たら、れば”は蓮嫌いだろ?
 守りたいものを必死に守ろうとしていたのは蓮だけじゃない。皆、ギリギリのとこ
 ろでもがいてた・・あの頃」
「・・翔太」
「蓮が簡単な想いじゃないのはもう十分分かったし、俺が譲れないことも十分伝えた
 つもり。だから、”未来”の方が俺たちには大事だと思う」


庄司はこの二人のやり取りに目を細める。改めてあの頃の蓮の無機質な目が今はまる
で違うことを心から嬉しく思った。


「蓮さん・・もう自分の気持ちを否定してはだめです。だって折角、”肯定できる相手”
 に巡り合ったのですから」
「!」


庄司の言葉に蓮はハッとする。爽子と話して感じたこと。それは・・苦しかった恋心
さえも自分の大事な気持ちとして受け入れて欲しいと言うこと。それが自分を認める、
受け入れるということだと気づいた。


「ダメだな・・まだ慣れてなくて」
「え?」


翔太が不思議そうに聞き返すと、蓮は穏やかな表情で微笑んだ。


「自分を大事にすること。翔太と約束したのにな・・」


蓮と翔太はふっと笑い合う。
人生忘れ去りたい過去もあるだろう。でも過去があるから現在もあり、未来へ繋がっ
ていく。決して幸せな生い立ちではなかったかもしれない。でも蓮の周りにこの仲間
達がいて、蓮がその人達を必要とし、必要とされる限り大丈夫だと庄司は思った。
決して蓮は運が悪い人生じゃない。そのことに本人自身が気づいた時、自分の全てを
受け入れている、肯定しているということなのだろう。


「蓮さん・・美穂さん頑張って働いてますよ」
「・・そうですか」
「例え、あの時病気だったとしても蓮さんに執着して周りを傷つけたことにいつか心
 底から罪悪の気持ちを持てる日が来るでしょう。その時は受け止めてあげて下さい」
「・・はい。そうなって欲しい。そして美穂には幸せになって欲しいと・・心から思
 います」
「・・そうですね」


そして麻美も・・・と蓮は思った。美穂は何年経っても正直に生きられていない俺を
許せなかったのかもしれない。麻美の隣にいる俺が滑稽に見えたのだろう。


「麻美さんも・・」


庄司はまさに蓮が頭に思い浮かべていた人物の名を口にした。蓮は穏やかな表情で頷
いた。自分を愛してくれた人達。今ならその愛を疑うことはない。


人には必ず気持ちがある。そして男と女である以上、そこに恋愛感情が生じるのが普
通だろう。様々な感情が絡まり合ってもなお、こうして関係を続けていける。それが
人生において大切な関係なのだと蓮は実感していた。
すっかり夢の中の太陽、酔いまくって怪しくふらふらと歩き回っている昌、それを介
抱している光平、楽しそうに料理を作り続けている爽子、にこやかに携帯をいじって
いる沙穂、そして目の前で温かく話を聞いてくれる庄司と翔太。この面々をぐるっと
見渡すと蓮は自然に笑顔が零れた。


「今夜満月だって。画像が友達から送られて来た。わぁ・・ほんとだわ。目が醒める
 ような満月!!」


沙穂がカーテンを開けてそう叫ぶと皆一斉に窓に目を向ける。
そこにはくっきりと光る丸い月が浮かんでいた。


蓮は思った。例え Half moon  の片割れが特別な誰かに繋がっていないとしても、
沢山の人が欠片を持って補ってくれる。それが何より自分にとっての特別。


”Once in a blue moon ” だということを・・・











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あとがき↓
というわけで次ラストです。明日UP出来ると思います。明日はたっぷりあとがきを
書きたいと思ってます。読みたい人だけ読んでもらえれば!かなり長い話になった
ので思い入れもひとしお・・・ぐすん。反省もいっぱいあるけどねぇ。この回でラ
ストでも良かったんですが、次はエピローグという感じの話です。