「Once in a blue moon」(59)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 の続きです。
 

☆ 蓮は同僚の葬式に参列するために仲間達との会合を欠席する。麻美は仲間達と合流し、
食べに行くことになったが・・・。



















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 59 ‥…━━━☆
























わいわい・・がやがや


「麻美ちゃん、飲んでる?」

「あ、はい」


ぼーっとしている麻美に昌は声を掛けた。麻美は蓮のことを考えていた。今どうして

いるだろう・・・と。折角だから仲間達に会って欲しいと言われて来ているが、正直

蓮が心配でならなかった。麻美はこの夜、何度目かとなる深いため息をついた。


「・・・・」


そんな麻美の様子を庄司は遠目から見ていた。庄司は昨年麻美に会った時、自分でよ

ければ相談できるようにと、メールアドレスを教えていた。その後一回だけ麻美から

メールが来た。 ”結局本当のことは蓮しか分からないのだから今そのままの蓮を受け

止めていきたい”という内容のメールだった。一つ乗り越えられたように見えた。

でも実際、あのどこまでも深い海底のような目の彼を受け止めることは出来るのか。

そんな不安を庄司はずっと持っていた。


(何か嫌な予感がする・・・)


庄司は今朝からの胸騒ぎが蓮の出来事に関係しているように思った。亡くなった人物

と蓮がどういう関係かは分からない。でも今日は会えないということだ。

庄司はざわつく気持ちをアルコールで紛らわせた。そして視線を上げた時、斜め前の

翔太と目が合った。反射的に目で挨拶する。すると翔太はビールを持って庄司の隣に

やってきた。


「先生、どうですか」

「あ、すみません。頂きます。でも、先生は止めてください」


庄司が苦笑いして言ったが、翔太は笑って聞き流すとグラスにビールを注いだ。

あまり接点のない二人は殆ど話したことがない。庄司はいつかゆっくり話したいと思

っていた。もちろん翔太が沙穂の好きだった相手で、爽子に完敗したと感じてきれい

さっぱり想いを引くまでの一連の出来事を全部知っている。そして何より興味をそそ

られるのは、滅多なことで影響を受けない蓮が心動かされた男だということ。


チンッ


二人はにっこり笑ってグラスを合わせると、ぐいっとビールを飲み干した。グラス全

部飲み干してぷはぁっと息を吐くというぴったりと合った動作に二人は思わず笑みを

零す。そして翔太が切り出した。


「蓮から庄司先生の話が時々出ます」

「え?そうなんですか?あまり関わりないんですがね」

「会った時間の長さとか蓮には関係ないんじゃないですか?」


なるほど・・・と庄司は翔太が言うのを聞いていた。蓮が信頼を置いている人物だと

知っている。だけど実際どんな人間なのだろうと?と庄司が色々思考を巡らせている

と翔太はいきなり核心に触れた。


「・・・蓮はまだ苦しんでいるような気がするんです」

「・・・・というと?」


彼はそのことを話したかったのだと分かった。自分と同じで蓮に何か感じている。そ

してとても大切に思っている。


「俺の考えすぎだと思うんですけど、瀬戸さん・・・あ、彼女ですが、出会ってから

 少しずつ変わってきました。影のような部分がなくなってきたような気がします」

「それは良かった」

「でも、何かまだ迷っている気がして・・・」

「なぜそう感じるんですか?」

「いや、分りません。俺の勘です。だからって言うのも変ですが、蓮は先生なら本音

 を話せるのかなって思いまして、もし時間があったら話を聞いてもらえたらって。

 こんなのアイツが求めてないし、要らないおせっかいだって知ってます。でもアイ

 ツ自分から何もしないと思うし」

「はは・・・翔太さんはよく蓮さんのこと分かってますね」

「さぁどうだか・・・。本当は何も分かってないんじゃないかって思いますよ。俺だ

 から言えないこともあるだろうし。ただ、まだ俺に罪悪感を持ってる。それだけは

 分かります」


そう言って翔太は苦笑した。翔太は庄司が仙台での出来事を知っていることを蓮から

聞いていた。そして少なからず蓮の支えになっていたことを後から知った。


「蓮さんは、誰よりも幸せになって欲しかったんでしょうね。翔太さんと爽子さんには。

 だから自分が絡んだことをずっと悔やんでいたんでしょう」

「・・・はい。でも蓮のおかげで今とっても幸せですから」


翔太は満面の笑顔で微笑んだ。そのくったくのない太陽のような笑顔にこちらもつら

れて笑顔になる。


あぁ・・・分かる。


庄司は蓮の気持ちが今、何となく分かった。何が何でも壊したくないという気持ち。

少なからず沙穂の気持ちも。そんなことを考える自分に庄司はふっと笑った。


「蓮さんは翔太さんと爽子さんに憧れているんじゃないでしょうか?」

「憧れ?・・・それはないだろうけど」


翔太は言葉を切ると、爽子を見つめて穏やか顔で微笑んだ。


「誰よりも俺の気持ちを理解してくれていると思います」

「・・・そうですね。きっと誰よりも」


庄司はここにいない人物を思い浮かべると胸の奥が痛んだ。

誰よりも理解しているからこそ、まだ苦しんでいるんだろうか?

庄司は麻美にも話を聞きたかったが、この場では無理そうだった。そして翔太には

改めて蓮に話を聞くことをその場で約束した。


しかし・・・まさかその機会がすぐにやって来ることになるとは予想もしなかった。

その時蓮はある人物と会っていた。そう、ここにいる誰もが知っているあの人物と。

庄司はこれが胸騒ぎの原因になっていたことを後で知ることになる。





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あとがき↓

いつものお得意の脱線。というか、同時進行で。庄司目線を書きたいもんで。次は
蓮の場面に戻ります。いろいろ修正したいけど、とりあえずUPしまくります!!