「Once in a blue moon」(75)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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73 74 の続きです。
 

☆蓮の懺悔?&暴露の回。後半麻美目線です。


















『あの夜・・・7年前になるかな、翔太が仙台にいた頃・・』


もう、その瞳に嘘をつきたくない。もう、繰り返したくないと思った。
自分を大事に思っている人をちゃんと信じること。人が当たり前に出来ることが出来
ない俺は欠陥人間だ。それなのにこんな俺に純粋な目を向けてくれる人。
全部、伝えよう


・・もうこれ以上、彼女を傷つけたくないから。


蓮は穏やかに話し始めた。





・‥…━━━☆ Once in a blue moon 75 ‥…━━━☆










ずっと心に秘めておこうと思った想い・・・
今もリアルに思い浮かぶ彼女の泣き顔。


何でこんなことになったんだろうと思った。一番巻き込みたくない人間を巻き込んで
俺を追い詰める。神の悪戯か、それとも俺自身の戒めか・・・。


『俺は、二人をものすごく傷つけてしまったんだ』


俺の恋愛なんて翔太にも彼女にも知って欲しくなかった。それは見せかけの恋愛だと
と気づかれたくなかったのだと後から思った。俺はどこかで翔太と同等でいたかった
のかもしれない。それはエゴだ。突っ走る光平に言っていたことは全部自分に言い聞
かせている言葉だった。
沙穂の事情を知ったことで、二人の誤解が膨らんでいく。分かっていたのに焦燥感を
覚える中、どうしても本当のことを翔太に言えなかった。本物の恋愛を目の当たりに
してどれだけ自分の恋愛が偽りかを知った。他人を気にしないと言いながら、十分気
にしている自分に笑うしかなかった。それほど、純愛を見てしまった。

そして彼女のきれいな涙・・・
あの夜・・・急いで翔太の家に駆けつけると、すでに翔太は居なくて目を真っ赤にし
た彼女が一人アパートに残されていた。傷つけたのに、それなのに・・彼女の純粋な
涙に陶酔してきっている俺がいた。


”好きだから・・・つらいです。好きなのに・・・”


どういう子だと思った。黒沼爽子という女(ヒト)
純粋に俺が美穂を好きだと思っている。俺はあんたみたいに純粋に人を愛することな
んか出来ない。人が皆そうだと思っているような口ぶりに本来の俺なら薄ら笑いしか
出来なかっただろう。でもその時俺は確かに感じた。すーっと胸の奥のどろっとした
ものが消えていく感覚を。


あぁ・・こんなに苦しい。こんなに乾いていたんだ


彼女に会うまで気づかなかった。この恋愛が苦しかったことに。当たり前だと思って
たことは当たり前ではなかったことに・・・。


『彼女に出会って、心が乾ききっていることを知った。知ってからは、その渇きを癒
 そうと水を求めていることに気づいたんだ』


その感覚は彼女以外に感じたことはなかった。今から考えたらそれこそが恋愛感情だ
ったんだと思った。でも絶対二人を守りたかった。


『翔太から奪いたいとか自分の方を向いて欲しいとか・・・そんなじゃないんだ。
 ただ惹かれた・・・それだけ』


* *


”ただ惹かれた”


私はその言葉を聞いた時、究極の愛の言葉だと思った。ずっと自分が求めていたのは
こんな気持ちだった。考えるんじゃなくて勝手に走り出す想い。
この人は爽子さんに出会い、初めて本当の恋を知った。本気の恋の純粋さ、情熱、そ
して・・危うさを体感してしまい、心が震えたのだ。憧れて風早さんたちのことを見
ているだけだったのにいざ自分が感じてしまったらそれから逃れられなくなったのだ。
あの感覚を他の人で体感できるわけはない。心の底から痺れるような愛しさ。男と女
だから人間愛だけじゃなく強烈に惹かれる炎のような気持ちが生まれるのだと。そし
て蓮はもともと純粋なのだろう。子どものようにその感覚を吸収した。


そんな蓮をどうして責められよう。


『分かるよ。その気持ち』
『!』


麻美が言うと蓮の目が大きく見開かれる。麻美は目を細めて笑みを浮かべた。


『止められないことって・・この世にあるんだね』


蓮は麻美の言葉を噛みしめるようにしばらく見つめると、遠い目をした。そして
”だから・・怖くなった”と小さな声で呟いた。


『絶対守りたかったのに・・大切だったんだ』


絶対守りたいものを自分が壊してしまう危うさを抱えて生きていくほどつらいことは
なかっただろう。そんな蓮の苦しみが分かるのに私はやはり聞かずにはいられなかった。


『じゃ・・やっぱり私に爽子さんを重ねていた?』
『え?』
『だって・・・同じ長い髪じゃない。最初は美穂さんかと思ったけど・・』


彼はいつも優しく私の髪に触れる。その扱いに愛情を感じた。だけど蓮を疑い始めて
からはそれがものすごく辛いものになった。


『・・ごめん、全部否定できない。髪に触れている時・・・思い出してたかもしれない』


なんて正直なんだと思った。一回心を許すと、隠すことをしない。ある意味馬鹿正直。
蓮は固まっている私の表情を見てか、少し申し訳なさそうに視線を外した。
こんなとこあったんだ・・・と新たな蓮を発見した。

最後になって本当に色々な部分を見せてくれる。


(もっと知りたくなるじゃん・・・)


美穂さんが少し羨ましくなった。なぜなら爽子さんの前に出会っているのだから。
本物の恋に出会う前ならもう少し違ったのかな。でも結果は同じだったのだろうが。
そんなことを考える自分はまだ未練いっぱいなんだけど。


『美穂さんの言うこと・・ほんとだったんだね』


私は嫌味でも責めるでもなくさらっと言ったつもりだったが、蓮は苦しそうに視線を
落とした。


『・・ごめん』
『謝らないでよ。確かにあの夜はきつかったけど』


ちょっと笑えなかったかな。固い笑いに蓮の表情がさらに曇る。でもあの夜は本当に
どん底だった。美穂さんの敵対心いっぱいの目がずっと頭から離れなくて。美穂さん
も不安になっただろう。精神を病んでいたら尚更恐ろしいことになっていたことが予
想できた。蓮が自分を責めても仕方ない。全部自分が蒔いた種なのだから。


『美穂さんは最初から気づいていたの?』
『・・・・分からない』


その時、蓮の返事に一瞬間があったように思ったが特に違和感は感じなかった。
美穂さんは私と同じ。美穂さんが言ったように私たちは爽子さんにはなれない。そし
て今も蓮が好きだということ。蓮に幸せになって欲しいということ・・・。
これからどうするの?とは気軽に聞けない。きっと蓮自身もどうすればいいか分から
ないような気がした。だから、今私かできることは一つだけ。


蓮を解放すること・・・


蓮が幸せになるにはまず私が蓮を解放して、蓮自身が今の自分を受け入れなければ未
来はない。今から考えたら北海道に転勤になったことは蓮の試練であり、乗り越えな
ければならない課題だったのだ。蓮がこれから生きていくための課題。でもまだ乗り
越えられていない蓮にそんな軽々しい言葉はかけられなかった。
まだ、何も解決していない。旅の途中・・・
人の幸せは恋愛だけじゃない。でも蓮はやっぱり誰かを愛し、愛されて欲しい。本当
は誰よりも愛を求めているような気がするから。
もし出来るなら私が幸せにしたかった。


最後に蓮は言った。


『初めて自分の想いを全部言った・・・ありがとう』


”ありがとう”と言いたかったのは私。でも涙が溢れて言葉にならなかった。






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あとがき↓

というわけで、「あの夜」とは「Half moon」の51話目でした。あの時も蓮は爽子
が好きなつもりで書いてたんですけどね。結局モテモテの爽子。何角関係になってた
んだか(汗) 美穂の想いももう少し後で補足するつもりです。