「Once in a blue moon」(108)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 の続きです。
☆ 蓮の快気祝いは続く。皆が酔いつぶれる中、蓮が話したい相手とは・・・?




















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 108 ‥…━━━☆















「ゆづ、上に連れて行くよ」
「あ・・ありがとう」


結月をひよいと抱き上げた蓮に爽子は頬を緩ませて軽く会釈した。
蓮の快気祝いは夜まで続く。この日は皆風早家で泊まることになっていた。仕事があ
る庄司も朝一番の飛行機で戻ることになったので久々に全員が揃い、夜通し飲み明か
すことになった。目を擦りながら頑張っていた結月もさすがに22時になるとソファー
でウトウトし始めた。そんな結月を寝かすのはいつも蓮の役目だっただけに、久々に
見た光景に爽子と翔太は嬉しそうに目を細める。それぞれがあちこちで酔いまくって
いる中、翔太は庄司の隣で飲んでいた。


「あの時は・・いろいろ、すみません」
「あ・・いえ・・僕は何も。全て解決して良かったですね」


仙台出張のことだと庄司はすぐに察した。そして庄司の言葉に翔太は目を見開く。


「何で分かるんですか?」


すると庄司はふっと笑って言った。


「蓮さんの顔見てると分かりますよ。風早さんの顔もね」


翔太もにっこりと微笑む。そしてチンッとグラスを重ねた。庄司の全て悟ったような
その表情がそれ以上何も聞かないことを物語っていた。だが翔太はどうしても庄司に
聞いて欲しかった。


「すべて・・腹ン中お互い出しました。そのきっかけをくれたのはゆづです。信じら
 れないかもしれないけど」


蓮の話は不思議だった。夢としか思えない。でも例え夢だとしても蓮が笑ってる。そ
してゆづが笑ってる。その事実が全てなのだと翔太は思った。


「・・いや、不思議な子ですよね。子どもだからというだけでなく。人の心が分かる、
 特別な人だと感じます」
「先生も・・分かるんですね」
「そんな能力はないですが、蓮さんを変えるなんてすごいとしか言いようないですよ」
「確かに」


二人は思わずぷっと噴き出して笑い合った。


「ゆづに言葉をくれたのは蓮なんです。命の・・恩人です」
「・・そうですか。お互い大切な存在なんですね」
「はい・・」


頷きながらも少し複雑そうな顔をした翔太を庄司は見逃さなかった。庄司の鋭い視線
に気づいた翔太は一瞬ハッとしたようにまずそうな表情で言った。


「いや・・その腹ん中全部出しても割り切れない想いはやっぱ残るというか」


翔太は爽子の言った”恋愛感情よりも大切”という言葉が心のどこかに引っかかってい
た。薄々は思っていたことだが蓮だけじゃなくて爽子も同じ感情を持っているという
ことだと思う。そのことを考えてしまうと留めなくマイナス方向へ行きそうな気がし
てそれ以上掘り起こすのはやめた。そんな時、100%独占しようとする自分に嫌気
がさしてしまう。でも複雑な気持ちがあるというのが正直なとこで・・・


「・・やっぱなぁ・・って感じで。あっ・・!」


思わず独り言を漏らしてしまった翔太は再びハッと現実に戻り庄司の方を恐る恐る
見る。すると庄司は動揺もせず、にっこりと微笑んでいた。翔太は照れたようにガ
シガシと頭を掻く。


「先生は・・っとに誤魔化しきかないですよね」
「はは・・何も言ってませんよ。でも、そういう敏感なところ蓮さんによく似てま
 すね」
「え・・・」


翔太の驚いた顔がすぐに破顔する。そしてふーっと未だ自分の心に派生している複
雑な思いを吹っ切るように息を吐くと真っ直ぐとした目を庄司に向けた。


「例え、命の恩人でなくても・・蓮は俺にとって大切なんです。そこに何の揺るぎも
 ないです。爽子にとってもそうなんです。ゆづにとっても。だから、そうやって俺
 達は一緒に生きていきます」


庄司は嬉しそうに微笑むとグラスをもう一度持ち上げる。二人は再びチンッとグラス
を合わせた。


「先生」


そして蓮もまた庄司に伝えたいことがあった。振り向くと蓮の姿あった。


「あれ?もう寝たんですか?ゆづさん」
「限界だったみたいです」
「そーだよな。夜に弱いんだよゆづ。その上に今日はかなりはしゃいでいたから」
「かくんっといったよ」
「じゃ、まぁまぁどーぞ」
「あ、ありがとうございます」


庄司はソファーの場所を詰め、蓮の席を確保すると空いてるグラスにビールを注ぐ。
横では太陽が”もう飲めないよぉぉ〜食べられないよぉ〜”と横たわっている。光平は
飲み過ぎた昌の介抱に忙しい。沙穂は実家に電話していた。周りの様子をちらっと見
ると蓮は庄司に向き合った。


「先生・・忙しいのに来てくれて本当にありがとうございます」
「さっき聞きましたよ。こちらこそ、蓮さんに会えて良かったです。こんなご馳走も
 頂だけたし」
「俺、席外そうか」


二人きりにさせようと翔太が立ち上がろうとすると蓮は手を前にして制止した。


「翔太にも聞いて欲しいんだ」
「・・・」


翔太は蓮から視線を外さないまま、再び腰を下ろした。


「先生、以前俺に言いましたよね。”肯定できる相手に巡り合えるように”と。覚えて
 いますか?」
「・・もちろん」
「俺は今までも沢山の人達に支えられていたことに気づきました。すでに巡り合って
 いたのだと。それを気づかせてくれたのは・・・」


蓮はそう言うと、翔太と遠くの爽子を見つめた。庄司は目を細めてそっと頷いた。


「先生もその一人です。俺はこれから人を信じて生きていこうと思います」


庄司と翔太の顔が綻ぶ。その顔を見て蓮も照れたように少し口角を上げた。
蓮は全て見透かされているようで怖かった庄司の目を今は真っ直ぐ見れる自分が嬉し
かった。いつしか庄司に会うことさえ避けていた。


「あの頃・・先生には気づかれそうでずっと・・怖かったです」


庄司と翔太は蓮の正直な目をじっと見つめ、その後の言葉に耳を傾けた。蓮が庄司に
話したいこと、それは長い間向き合えなかった10年前の出来事だった。







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あとがき↓
カウント2です。仙台の仲間達に一人一人スポットを当てるとまとまらなくなるので
それはさらっと。(かつてのエセ主人公の光平ごめんね)蓮×庄司は少しだけ次回に
振り返ります。