「Once in a blue moon」(48)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
こちらは 「Once in a blue moon」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46
47 の続きです。
 

☆麻美の口から庄司の名が出て、内心動揺する蓮。なぜ蓮は動揺しているのか・・・?


















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 48 ‥…━━━☆





















「庄司先生は本当にいい先生だね。見ず知らずの私の話をゆっくり聞いてくれた」

「・・・・」

「あそこで先生に会えて良かったと思った」


ドクッッ・・・


麻美はその時の光景を思い出すように遠い目をして言った。

俺は気づいたら麻美を凝視していた。こんな時感情が外に出ない人間で得したと思う。

密かに早まる脈の音をリアルに感じながら、内なる動揺を本能的に隠していた。意識

的に俺は普通を装っていた。


「美穂さんのこと・・・一番知っている人だと思ったから」

「・・・・」

「・・・知りたかったの。美穂さんのこと、いや、蓮のことをちゃんと」


麻美は暗い表情で視線を落として言った。しばらくの沈黙の後、蓮が静かに聞いた。


「・・それで納得できたのか?」


二人は見つめ合う。麻美はかなりの間の後、”うん”と頷いた。それは明らかに納得で

きていない表情だった。

美穂との過去に引きずるものなんかない。でも俺の胸の奥の疼きは何かを畏れている。

その疼きと庄司先生の目が思い浮かんだ。


「美穂さんとのこと・・・つらかったよね。簡単に聞ける内容じゃなかった。どれだ

 け蓮がつらい思いをしたんだろうって思ったら・・」

「もう、終わったことだよ」

「うん・・・っ」

「・・・・・」

「・・・・・」


何か言いたげな麻美の言葉を蓮は何も聞かずに待っていた。二人の間にピリッとした

緊張感が走る。蓮は麻美から視線を外さなかった。すると俯いていた麻美が決心した

ように顔を上げ、涙を浮かべながら満面の笑顔を見せた。


「っ・・・美穂さんも、庄司先生も蓮の幸せを願ってたよ。皆・・・そうだった」

「え・・・」

「蓮に迷惑を掛けた分、幸せになって欲しいって・・・」

「・・・・・」

「皆、蓮が大好きなんだねぇ・・」


”皆、蓮が大好きなんだねぇ”


麻美の言葉が蓮の頭の中でリフレインした。自分を囲む様々な人が浮かんで笑ってい

た。そして何よりその言葉の中に麻美の気持ちがこもっているような気がして温かい

気持になった。


「・・・自分のこと美穂に言った?」


麻美はゆっくりと首を横に振った。


「私が蓮の彼女だってことは知らないと思う。・・何か勘付いてたかもしれないけど

 その時は偶然会ったことになってる」

「・・・そっか」

「・・・・うん」


蓮は不安そうでぎこちない表情の麻美をじっと見ると、優しい笑みを浮かべた。


「もう大丈夫?」

「え?」

「もう聞きたいことないか?・・・あとは俺に聞けよ。俺、お前の彼氏だろ?」

「蓮・・・っ」


麻美はたまらず蓮に抱きついて”ごめんなさいっ・・・”と号泣した。お互いぎゅっと

抱きしめ合う。やっと二人の間に以前の空気が戻った。蓮は麻美を抱きしめながら

やはりここに来て良かったと思った。向き合って良かったと・・・。


「本当は・・・蓮がここに来てくれてものすごく・・嬉しかったのっ!」

「麻美・・・」


緊張感が溶けるような温かい感覚。こうやって素直に気持ちを言ってくれる麻美に俺

はやはり救われているんだと思う。そこには本当の”愛”が見えるから。


でも、それは安堵感だということに俺は見ないフリをしていたのだ。本当の意味で向

き合ったのではない。その時はただ、心の奥にある”畏れ”に目を瞑って心を通わせて

いるつもりに過ぎなかったことを後から麻美を通じて知ることになる。



* * *



「翔太達も気にしてたからまたあの家、一緒に行こ」

「・・・・」


その夜、蓮は麻美の家に泊まった。ベッドにまどろみながら蓮が聞くと、しばらくの

間の後、麻美は”うん”と頷いた。


「なんか落研止めたって聞いたんだけどほんと?」

「あ・・・知ってるの?」

「うん、翔太に聞いた」

「・・・・」


麻美は蓮に顔を見られないように身体を密着させて言った。


「・・・なんか、落ち込んじゃって。あんなことした自分自身が嫌になってやる気が

 何もかもなくなったの」


麻美の言う事を蓮は肯定も否定もせずに聞いていた。


「?」


そのまま黙り込んだ麻美を蓮が不思議思うと、麻美は顔を伏せたままぽつりと呟いた。


「爽子さん・・・元気・・かな?」

「あぁ、お前あの時来なかったからな。元気だったよ。なんで連絡しないの?」

「うん・・・メールはしてるよ。爽子さんも忙しくなったんだってね、仕事始めたって」

「そーらしいな」

「私、爽子さんにも自分が恥ずかしくて会えなかったの。爽子さんって私の憧れだから」

「!」


麻美はがばっと起き上がると蓮の顔をしっかり見て言った。やたらと真剣な顔で自分

を見つめる麻美に唖然となった蓮だが、すぐに優しく微笑んで言った。


「・・・お前らしーな。彼女には別に言う事ないじゃん。別に悪いこともしてねーし」

「・・・だね。じゃ、また風早家の美味しいご馳走頂きに行こうかな!」

「うん」


蓮は麻美を見てにっこりと微笑んだ。まるで何もなかったかのように前に戻った二人。

そんな麻美に蓮は安心したように眠りについた。


スースー


寝入った蓮を麻美は虚ろな目で見つめるとそっと蓮の髪に触れ、呟いた。


「・・・言えなかった・・・っ」


その瞳は涙を流すでもなく、ただ虚無感にあふれていた。



妖しく光る月明かりがカーテンの隙間から麻美を照らす。その顔は今までの麻美では

ない、愛憎感じられる”女の顔”だった。






「Once in a blue moon」49 へ



















あとがき↓

まだまだ頑張る・・・60話ぐらいまでは一気にいきたい。ってどこまで続くのか!?