「Once in a blue moon」(107)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。

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98 99 100 101 102 103 104 105 106 の続きです。
☆ 爽子と蓮が会うことを複雑な気持ちで見守っていた翔太の本音とは・・・?爽子目線です。













・‥…━━━☆ Once in a blue moon 107 ‥…━━━☆














蓮さんに向き合えたあの日の夜、私は翔太くんと向き合おうと決めていた。
私の課題は言葉で言い表せない感覚をいかに翔太くんに伝えるか・・だ。少しでも間
違って伝わると彼を傷つけてしまう。


それだけは絶対、嫌・・・


翔太くんの哀しい顔はもう見たくなかった。今でも稀にフラッシュバックのようにや
ってくる悲しくて苦しい記憶。胸が張り裂けそうな想いはもうしたくない・・させた
くない。その想いでいっぱいだった。


かちゃっ


「!!」


爽子が頭の中でぐるぐると考え込んでいた時、翔太は帰ってきた。爽子は思わずごく
っと唾を飲み込むと緊張気味の顔をパンパンっと手で叩き、覚悟を決めたように玄関
に向かった。


「翔太くん、お帰りな・・・」


ガバッー


(・・え?)


その時、何が起こったか一瞬分からなくなるほど勢いよく視野が真っ暗になる。


「・・った。良かった・・・」
「え??」


爽子は翔太に抱きしめられていた。ぎゅうっーと力を籠めて抱きしめる翔太に戸惑い
ながらもあまりにも締め付けられ息が出来なくなった爽子は思わず咳き込んでしまう。


「っ・・ごほっ「−あっ!!・・ごめんっ」」


翔太は申し訳なさそうに身体を離すと、叱られた子どものようにしょぼんと爽子を見
つめる。


(あ・・かわいい)


なんて思ってしまった自分に爽子は恥ずかしくなった。強く抱きしめられ、じっとす
がるように自分を見つめる翔太に先ほどまで頭でぐるぐる回っていたことや覚悟して
いたことなどが一瞬でぶっ飛んでしまう。今も決して慣れない、翔太に見つめられる
こと。いや一生慣れないだろう・・・
視線に耐えられず口を開いた爽子に翔太は言った。


「あ、あのっ・・・///」
「もっかい・・抱きしめていい?」
「え?」


爽子の返答を待たずに再び翔太は爽子を抱きしめた。今度は優しく、いつものように
包み込むように。そしてそっと爽子の艶やかな長い髪を撫でる。


(どうしたの・・かな?)


いつまでも続く熱い抱擁に爽子はいつもよりドキドキが止まらなくなった。いきなり
の翔太の行動、翔太の温もり、大好きな匂い。こんな時なのにその熱さに溶かされそ
うだ。彼はいつの時でも愛をいっぱい感じるような抱きしめ方をする。大切に壊れ物
を扱うように・・・そして耳元で翔太の吐息を感じた。


「爽子が・・帰って来なかったらどうしようって・・玄関開けるのが怖かった」
「・・・?」


(・・・え)


一瞬何を言われているのか分からなくて頭の中が真っ白になる。私はこの時初めて知
る。翔太くんは本気で私が蓮さんのことを好きだと思っていたこと。二人が向き合っ
てしまった日が最後の日になるんじゃないかということ・・・


* *


「どうぞ・・」
「・・・」


とりあえず食事より何より話したいというので爽子はお茶を差し出すと、リビングで
翔太とテーブルを挟んで向き合った。項垂れて無言のままソファーに座っている翔太
に息を飲む。


(翔太くん・・)


翔太くんは私が蓮さんと話したことを知っていた。この日行くことも言ってなかった
のだが、蓮さんから電話があったようだ。蓮さんが翔太くんを傷つけることを言うわ
けもなく、と言ってこの日のことを電話でさらっと話すことも出来ないはずだ。すべ
て”感覚”の話なのだから。実は今日の帰り際蓮さんに言われた。


『翔太には全部言わない方がいい』
『え?』
『翔太はあんたのこと人間的に好きだけど、やっぱ・・男と女だからさ』


人間的に好きだけど男と女・・?その言葉の意味を考え込んで眉間に皺がよっていた
私の頭を蓮さんはポンポンっと叩いて言った。


『・・俺には十分伝わったから。そこは翔太に共有してもらわなくていいと思う。と
 にかくあんたは翔太に対する想いをそのまま伝えればいい・・』


私の気持ちは伝えられる。それで分かってくれるのかどうか不安だっただけ。でも蓮
さんの深くて優しい目が私を後押しする。


「あの・・っし、「−俺、」」


爽子が口火を切ろうとした時、同時に翔太の声が被さった。翔太の目が爽子と重なる。
少年のように澄んだ目が真っ直ぐ爽子を見つめていた。


「俺、やっぱダメだわ・・」
「え?」


そして項垂れてくしゃっと髪を掴むとため息と共に翔太は言った。


「相手は蓮だって言うのに、やっぱ今日心もとなくって、仕事が手に付かなくって・・
 いや、蓮だからかな」
「!」


翔太はそう言ってせつない目で自嘲気味に笑った。爽子は”え・・”と一瞬固まり、考え
込むように眉間に皺を寄せ言った。


「今日・・私が蓮さんに会いに行くの・・知ってたの?」
「・・今朝、ゆづと家出た時、ゆづが道端に咲いていたタンポポを積んで爽子に渡しに
 一回戻ったじゃん。それでピンと来た」
「すごいなぁ・・翔太くんもゆづちゃんも」


”何も言ってなかったのに”と妙に感動している爽子を翔太はじっと見つめるとほんの少
し口角を上げて言う。


「だって爽子ばかり見てるんだもん。いや、爽子しか見えてないのかな。今も昔も」


その時の翔太くんの目が少し寂しそうに感じたのはその後の話で分かった。翔太くんは
蓮さんが私に恋愛感情を持っていたことを本能的に知っていたと言った。それなのに見
ないようにして蓮さんを傷つけていたこと、そして実際向き合ったのに全部受け入れら
れていないこと・・・


「でもっ・・蓮と一緒に居たいんだ。大切なんだ」


真剣な翔太の目、想い・・・爽子の胸にその言葉が温かく広がっていった。その想いは
まさに自分が伝えたいことだった。感覚の話を伝えようとする方が無理だったのだ。
難しく考える必要はない。翔太の言葉、それだけで良かったということを。


「私も・・同じだよ」


大きく見開いた翔太の目が少しずつ緩んでいく。その時、すべての感情を飲み込みなが
らも二人は同じ想いを共有していた。そして爽子は今の気持ちを正直に伝えた。


「恋愛感情よりも・・何よりも蓮さんが大切なの」


爽子は目に涙をためて翔太に気持ちを届ける。翔太に伝えたい大切なことを・・・


「あの夜、蓮さんの気持ちをゆづちゃんを通して知ったの。それで・・迷って、どうす
 ればいいか分からなくなって、翔太くんとも向き合えなくなった」


翔太は初めて知る事実に唖然とし、爽子に真剣な眼差しを向ける。爽子はそんな翔太の
目をしっかりと見据えるとすーっと息を整えて言った。


「翔太くんのことが・・好き・・っ」
「ーっっ」


いきなりのストレートな愛の告白に翔太は目が点になって固まる。


「えっ・・・」
「あっ・・///」


言ってから一気に恥ずかしくなった爽子は頬を染めながら目を潤ませた。
言いたいことは色々あるが上手く伝えられない。誤解して欲しくない、この想いを分
かって欲しい・・・爽子はぎゅっと目を閉じると祈るように蓮の言葉を思い浮かべた。


『翔太に対する想いをそのまま伝えればいい』


爽子はもう一度息を深く吸い込むと、ゆっくりと目を開けた。その目が捉えるのは翔
太の優しくて温かくて、そして熱い眼差し。


翔太くん・・・


私はその目にずっと守られてきた。沢山の愛情を感じるその目に。
言葉で伝えられない感覚をどう伝えようとか、翔太くんを傷つけてしまうんじゃない
かとか、そんな自分の不安よりも大切なことを私は知っている。伝えたいと思う。


「・・愛して・・ます」
「・・っ!」


爽子は大きな目に涙をためてぐっと堪えるように翔太を見つめる。翔太の温かい眼差
しはすべての感情を飲み込んで、爽子を受け入れてくれているように思えた。その目
に爽子はためていた涙が溢れだす。


「うっ・・しょっ・・」


翔太はいつものように爽子の涙をそっと拭って言った。


「・・うん。分かってる・・分かってた」


言葉を噛みしめるように言った後の翔太の顔は明らかに破顔していた。気持ちが通じ
合っている感覚を感じながら二人は笑い合う。


(ありがとう・・蓮さん)


爽子は心の中でそう呟いた。
そしてこれからも翔太の笑顔を見られるように何が起こっても気持ちを届けていこう
と誓った。



* *


結局、それだけしか伝えていない。ただ”好き”という気持ち。しかし翔太もそれ以上
聞くことはなかった。でも・・感覚も何も確かに伝えられることはそれだけなのだ。
爽子はあの日の翔太を思い出すと何度でも頬が緩んでしまう。出逢った頃から何も変
わらない。色々な感情を素直に出してくれる翔太くん。好きだなぁ・・と思う。


「−ちゃん?爽子ちゃんってば」
「は、はいっ!!」
「何ぃ?爽子ちゃん、思い出し笑いはスケベなんだよ」
「あっ///そのっえっと・・」


昌に言われて爽子はあたふたと包丁を振り回す。その行動に沙穂と昌が焦って制止す
る。沙穂は呆れたようにふーっと息を吐いて言った。


「相変わらずねぇ・・爽子ちゃん。今も風早のこと大好きなんだね」
「・・・うん」


爽子は頬を染めてそう頷いた。またまた相変わらずの素直な反応を二人は微笑ましく
眺めていた。







「Once in a blue moon」108 へ


<おまけ>
あの後、感極まった翔太が食事もせずに爽子を押し倒したことは言うまでもない。
そしてベッドの中の爽子の悪魔の囁きどうぞ↓


「ちょっと・・ショックだったかも」
「え?何が」
「翔太くんが今夜本気で私がここにいないと思っていたこと・・」
「あっ・・いや、それはさ、俺の中の異常な独占欲のせいでっ・・」
「こんなに好きなのに・・」(ぽろっ)
「えっ!?・・///」


がばっ


そして再びラウンド2へと続く(笑)な〜〜んてね♪














あとがき↓
この回、入りきれなくてとても長くなってしまいました。言わせたい言葉がいっぱい
あるんですよね・・そしておまけ書いときました。翔太はそこまで物わかりよ過ぎな
いよな・・と妄想した結果、最悪な展開も頭にあったということで。翔太って結構思
いこむと揺るがないと言うかとことんまで落ちていきそうな気がしませんか(笑)
さ、カウントダウン3です。いよいよ・・終わりだなぁ。