「Once in a blue moon」(98)

※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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の続きです。 

☆ 次第に向き合っていく二人。爽子はある覚悟を持って蓮に会いに来ていた。爽子目線です。












・‥…━━━☆ Once in a blue moon 98 ‥…━━━☆














この感情をどう伝えたらいいのだろう。出会った頃から自分の中にある蓮さんへの気
持ち。あったのに気づかなかった気持ち・・・


翔太くんに素直にあの夜のことが言えなかった理由。それがずっと自分の中で引っか
かっていた。そして自分の心とじっくり向き合った時一つの答えが出た。


「ううん・・・私の意思でここに来たの」


強い意思を感じる爽子の言葉に蓮は複雑そうな表情を浮かべた。


(あ・・・)


感情が揺れている。いつもポーカーフェイスに見えていた蓮さんを間近で見つめると
様々な感情が動いているのが分かる。素直に気持ちを表してくれる翔太くんとは違い、
蓮さんはあまり表面に出さない。でも困ったことはなかった。そうか・・・
私はずっと蓮さんのことを、表情より何より”心”で見ていたことに今、気づいた。
憂いを感じる瞳の奥は優しさを秘めていることを知っている。出逢った頃から変わら
ない、私が大好きな瞳・・・


とくん、とくん・・


爽子はどきどきと鼓動する胸を落ち着かせるように小さな深呼吸をして蓮を見上げた。


「あのね・・上手く話せるか分からないけれど、聞いてもらえるかな?」


蓮はしばらく間の後、静かに頷いた。


「ありがとう・・」


爽子はベンチに座っている蓮の隣にそっと腰かけ、ゆっくりと話し出した。


「翔太くんと遠距離になって電話でしか繋がれなくなってね・・それで初めて蓮さん
 の存在を知ったの」
「・・・」
「もう10年前のことになるんだなぁ・・」


感慨深く言う爽子を、蓮はじっと見つめて話に聞き入っていた。


「・・離れ離れになってすごく寂しかったけれど、翔太くんにとって蓮さんの存在が
 大きいと知って、なんだか嬉しくなったの」
「・・嬉しい?」
「えっと離れたことは寂しいのだけど、翔太くんが安心できる生活を送っていると知
 って嬉しいというか、蓮さんと会えて良かったというか・・」
「・・・」
「それで、翔太くんの話の中の蓮さん・・・どんな人なんだろう?会ってみたいなぁ
 ってどんどん自分の中で想像が膨らんでいった」
 

爽子が”こ、こわいよねっ!!”と焦った様子で言った言葉には突っ込まず、蓮は冷静
に聞いた。


「・・・で?期待外れだった?」
「えっ!?・・そんなわけないよ。想像通りの人だったよ」


爽子は拳を握りしめて力強く否定した。蓮は思わず眉を顰める。


「・・想像って?」
「温かい、心の大きい人だなぁって」
「・・へぇ。そう思ってたんだ」
「う、うんっ!!翔太くんもいつもそう言ってた」
「はは、あいつは俺を買い被り過ぎなとこあるもんな」
「・・買い被りじゃないよ。私もそう思う。沢山・・・救われたよ。私」


爽子は真っ直ぐ蓮を見つめて言った。蓮の瞼が密かに動く。


「本気で翔太くんと私の幸せを考えてくれていたよね・・いつも。美穂さんとのこと
 で悩んでいた時もずっと・・・」
「・・・」
「それからね、蓮さんと初めて会った時、なんていうか・・ホッとしたの」
「え・・?」
「あ、ホッとしたって変だよね。なんて言ったらいいんだろう・・あの時、仙台の皆
 さんとお店で会って、緊張でガチガチだったから」
「・・から?」
「うん・・だから、蓮さんが居てくれてホッとしたの」
「初対面なのに?」


今でもはっきり覚えているあの瞳。あの温かさ。


「言葉で上手く伝えられないのだけれど・・蓮さんの目が”大丈夫”と言ってくれてい
 るような気がして。あぁ・・ずっと会いたかった人だって、会えて嬉しいって・・」


爽子を見ていた蓮の目が今度は確かに揺らいだ。爽子はその時の気持ちを思い出すよう
にそっと目を閉じた。

目を閉じると温かくて優しい感覚が胸いっぱいに広がる。
私はきっと知っていた。会う前から蓮さんと言う人を。そして会ってから分かったこと。


「繋がっている・・って思ったの」
「!」


年齢、男女、周りを取り巻く環境、そんなものは関係なくて、ただこの人はきっと自分
のことを分かってくれる、受け止めてくれるという不思議な安心感を感じた。それは今、
ふと出た言葉・・”繋がっている”という言葉で表現することが一番ピッタリくると思った。


「ごめんなさいっ・・こんなこと言ってよく分からな・・「−るよ」」


微動だにしない蓮を見て、焦ったように言った爽子の言葉が遮られた。


「!」
「・・分かるよ」


確信のあるしっかりとした口調で言った蓮を爽子は真剣な目で見つめる。二人の間に同
じ空気が流れる。


「以前、言ったことあったよな。”波長が同じ”って」
「う、うん・・」
「初めて会った時から思ってた。俺も」
「!」
「あんたが思っていたように、ずっとどこかで繋がっている感覚があった」


そして蓮は言葉を区切ると、爽子に温かい眼差しを向けて言った。


「・・ゆづに出逢った時、正直・・あんたの子だって思った」
「・・・っ」


爽子はきょとんっと驚いた表情をすると次第にくしゃっと頬を緩ませ、笑顔になった。


「嬉しい・・」


胸いっぱいに広がる気持ち。この時思った。ゆづちゃんは言葉が必要なかったのかもし
れない。言葉で確認し合わなくても感じ合えたら十分で、それ以上貪欲に求めることを
しなかった。でも私は違う・・・なぜなら知ってしまっているから。


「言葉で分かり合えることが・・こんなにも嬉しいこと、私知ってる」


翔太くんに教えてもらったこと。大好きな人と気持ちが通じた時の幸せな気持ちを私は
知っていたのにずっと逃げていた。あの夜から・・・


「けれど・・一歩踏み出す勇気がなかったの」
「・・・」
「・・蓮さんとはずっと繋がっていけると勝手に思っていた」


表情を曇らせて言う爽子を蓮は凝視するように真剣な目で見つめた。


「そうやって・・・自分を誤魔化していた」


蓮さんとなら形がなくても繋がっていけると思っていた。でもそうありたかったのは形にな
ってしまうのを心のどこかで恐れていたから。自分の気持ちに恐れていたから・・・


「そう気づいた時、何もかも分からなくなって・・翔太くんとも向き合えなくなっていた」


蓮はその言葉に眉を顰めて驚いたように爽子を見つめた。爽子は”でもね・・”と発した後、
苦しげな表情から明るい笑顔に変わった。その様子に蓮はさらに困惑した様子で顔を歪めた。


「でも、今は違うよ。だから、こうやってここにいるの」


穏やかな顔で言う爽子に蓮はまだ戸惑いを隠せない。


「・・それ、どーいう意味?」
「蓮さんに向き合う覚悟が出来たって・・意味です」
「・・・」
「ちゃんと言葉で伝えたいと思ったから・・・そんな時ゆづちゃんに言われた」
「・・なんて?」


爽子は長い髪を風になびかせながら光の中、微笑んで言った。


「”蓮さんとお話してって。蓮さんが・・待ってる”って」
「え・・?」
「待ってるって・・・」


爽子がそう言って蓮を見上げると、蓮は一瞬時間が止まったように動かなかった。そし
て脱力するように手で顔を覆うと大きなため息を吐いた。


「まいったな・・全部お見通しか」
「え?」


蓮の独り言を爽子は聞き返すが、蓮は何も言わずに複雑そうな笑みを浮かべていた。


「俺も・・ゆづがいないと、今ここにいない」


蓮がそう言うと爽子も”私も”と頷いてぎゅっと拳に力を籠め、蓮を見上げた。


「私・・・」


あの夜、ゆづちゃんは大切なことに気づかせてくれた。そこにあるゆづちゃんの想いが分
かった時、私は蓮さんに、そして翔太くんに向き合える覚悟が出来たのだ。


「・・蓮さんのこと、恋愛感情で好きです」




二人は無言で見つめ合う。爽やかな風が二人の間を吹きぬけた。









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あとがき↓

わわ・・また日が経っていた。ダメ人間だわ。世の中はGWだというのに。(だから?)
とりあえず爽子の爆弾発言で次回へ!!