「Once in a blue moon」(77)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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72 73 74 75 76 の続きです。
 

☆仙台の夜を境に変わっていくのは蓮と麻美だけではなく、爽子と翔太もだった。
蓮が去ったあと二人は・・・?


















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 77 ‥…━━━☆











「あ、ゆづきちゃんのおかあさん!」
「京香ちゃん!!」


ある日、爽子が庭の手入れをしていると、近所に引っ越ししてきて結月と仲良くなった
同い年の女の子が家の前を通った。爽子はぱぁぁと顔を輝かす。


「ゆづちゃん呼んでこようか?」
「ううん!いい」
「??」


京香ははっきりと爽子にそう言った。きょとんとする爽子に京香はそっと近づくと、
耳元でこそっと言った。


”『だってゆづきちゃんしゃべられないでしょ?だからおもしろくないもん』”


どきっ


爽子は思わず固まってしまった。そう言えば最近遊びに行かなくなったと思っていた。


(そうだったんだ・・)


愕然としている爽子に京香はさらに続けた。


「それに・・・」
「ん?何かな?」


言葉を区切った京香を不思議に思い、爽子は京香の目の高さまでしゃがんで聞くと、
言いにくいというより、なんと言ったらよいか分からない風に首を傾げて言った。


「なんかふしぎなの」
「え?」
「ゆづちゃん、よくわかんない!」
「・・・」


京香は”じゃあね!”と5歳児らしく快活に手を振ると走って行った。爽子は上げた手
を下ろせずにぼーっとその小さな後姿を見送る。
自分もかなり分かりにくかっただろうが、そんな自分から見ても結月は言葉がない分、
分かりにくいと思う。また一人で遊んでいる時、まるで誰かと遊んでいるように不思
議な世界観がある。そして最近さらに心を閉ざしている。


(ゆづちゃん・・・)


爽子は結月のいる家の方をせつない表情で見つめた。そして自然に蓮のことを思い浮
かべる。


(蓮さんに何を感じていたのだろう)


小さい頃から蓮が大好きだった結月。二人の間には何か特別な絆を感じていた。それ
は翔太がやきもちを焼くほど・・・。
あれから2ヶ月が過ぎた。蓮は翔太に”何も言わなくてごめん。ちょっと旅に出る”と
言う短いメールを送り姿を消した。アパートも解約していた。


(そして・・翔太くんは何を感じているのだろう・・)


翔太は変わらない様子で爽子に接しているように見えるが、何かが違うと感じる。それ
は誰よりも心配していた蓮のことを話題に出さなくなったからだ。それが二人の関係に
溝を作っているとかそんなんじゃない。高校の時、お互いの想いを出せずにすれ違って
いたあの頃のようなこともない。恋人から夫婦になって守るものが出来て、恋愛感情以
外にも家族愛のようなものが築かれていると思う。だけど・・・


「聞かなきゃ・・わかんないよね」


爽子はホウキを持ちながら小さなため息をついた。


だけど、なぜか躊躇してしまう。仙台にいた頃、私は彼に大きな傷を残してしまった。
この鈍感さから傷つけた。もう、これ以上傷つけたくない・・それに蓮さんへの気持ち
は田口くんとは違う・・・。


爽子はあれから二か月経ったが、いまだに蓮の気持ちに戸惑っていた。蓮がいなくなっ
た今、自分の中で考えることしか出来ない。まだ何も蓮と話していないのだから。
そんな毎日を送る中、麻美から一通の手紙が届いた。
届いたのは1週間前ー


* *



あの仙台旅行の後、蓮がいなくなってから風早家は変わらずの日常が続いている。季節
は夏から秋に移り変わり気温もぐっと下がった。まるであの夏の日は遠い昔のような気
さえする。爽子は麻美を気にしながらも時間が必要だと思い、たまにメールはしていた
が会いに行くことはしなかった。そんなある日、届いた麻美からの手紙。
その内容に驚嘆する。


そこに書かれていたのは会社を辞め、海外留学を決めたということ。そしてその日にち
を見ると、すでに旅立っていることが分かった。消印から見て空港から出したことが分
かる。側にいた結月も心配するほど爽子は呆然としていた。そして読み進めると、麻美
の想いが正直に書かれてあった。麻美らしい決断だった。


『いろいろ・・考えたけど、もし蓮が戻ってきて私も同じ環境だといけないと思った。
 私のためにも蓮のためにも・・・。それは、私が吹っ切れてないってこと。成長して
 いない私は同じように蓮を責めて、貪欲に求めるだろうってね。以前は失恋のための
 留学とかする女を軽蔑してた。”自分がないのかって(笑)”どれだけ子どもだったの
 かと思うよ。今は。それだけ本気で恋してたんだ・・って見方が変わった』


本気の恋に出会って違う世界が動き出した麻美ちゃん・・・


『蓮と私の未来は繋がっていると思ってない。だから私は新たな一歩を踏み出したいと
 思うの。直接爽子さんにそう言えなかったのもまだ私が割り切れてないから。いつか
 ちゃんと会えると思うから、もう少し時間を下さい。最後に・・・』


最後に書かれた言葉に爽子はどくんっ・・と胸に衝撃を受ける。


『爽子さんは・・・蓮のことをどう思ってますか?今度会う時、その答えを聞かせて下
 さい。今は面と向かって聞く勇気がない小心モノの私です』



* *



蓮さんをどう思っているか?


それは好きに決まっている。翔太くんの大事な人で、一緒に居ると温かい気持ちになれ
る人。自分のことよりも私たちのことを思ってくれる。私たちが幸せであるようにとい
つも願ってくれる人。男性としてもとても魅力的だと思う。そんな人が私を・・・?
心が揺れないわけない。でもどこかで冷静に受け入れている自分自身がいて不思議だ。


ぎゅっ


「どうすればいいか・・わかんないよ」


爽子は持っているホウキをぎゅっと握りしめた。


大切なのは翔太くんも蓮さんも同じだろう。大切過ぎるから苦しい。だから何も言えな
いのだ。翔太くんとの今の微妙な空気を破る気はなかった。二人で話しても何も分から
ない、真実は蓮さんの中にしかないのだから。でも私が蓮さんの気持ちと向き合うこと
とは話が別だ。私は心のどこかで恐れている。考えることを。あの感覚を思い出すこと
さえも。それは・・・


「蓮さん・・」


どくん、どくん・・・



爽子は胸の鼓動が早くなるのを感じながらせつない目で秋空を見上げた。






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あとがき↓

更新が遅くなってすみません。また開いちゃった。しばらくは続けて更新できそうです。
よろしくお願いします!