「Once in a blue moon」(94)

※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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☆ 蓮の本当の気持ちを知り、ようやく本音で向き合った二人。その後の翔太は・・・?














・‥…━━━☆ Once in a blue moon 94 ‥…━━━☆











「それじゃ、行ってきます」
「あ・・あの、翔太くん・・」


ピチピチッと小鳥がさえずりまだ日が昇ってすぐの早朝、翔太は玄関で靴を履くと爽子
の方を振り返って言った。昨日は酔いつぶれて帰って来て、早朝から仕事に行く翔太を
爽子は心配そうに見つめる。


「大丈夫。二日酔いではあるけど今日は仕事行かなきゃ」
「え?今日・・?」
「あ・・・」


翔太はまずったという表情で口が開いたまま動作が止まる。しかしすぐに落ち着きを
取り戻し冷静に言った。


「爽子に・・話したいことあるんだ。今日の夜、時間くれる?」
「も、もちろん・・!何でも聞くよ」
「ありがとう・・」


翔太はそう言っていつもの笑みを浮かべると、優しい眼差しで爽子をしばらく見つめる。
そしてもう一度”行ってきます”と言って爽やかに背中を向けた。その眼差しに爽子の胸
がトクン・・と鳴った。


「いってらっしゃい・・」


爽子はそう返して見えなくなるまで翔太の背中を見送った。上げた手をなかなか下ろ
せずせつない感情が胸いっぱいに広がる。


(話・・・)


爽子は宙に浮いた手をゆっくり下ろしながら昨夜のことを思い浮かべた。


* *


昨夜、24時を回った頃・・・


がらっ


『ただいま〜』
『お帰りなさい・・翔太くんっ!?』
『ん??爽子、やっぱ今日もかわいぃなぁ・・・ひっく』
『だ、大丈夫っ??』


玄関で倒れ込んだ翔太に爽子は驚く。午前様な上、こんなに酔っぱらった翔太を見る
ことはまずないからだ。いきなり飲んで帰ることも、夕食をいらないとメールをして
くることもかなり珍しかった。爽子は焦ったようにあわあわと翔太の身体を揺さぶる。


『しょ、翔太くんっ・・ここじゃ風邪引くよぉ。起きて。うぅぅ〜〜っ』


頑張って翔太を背負おうとするがやはりびくともしない。


(ど、どうしよう・・)


爽子が困り果て悩んでいると翔太の目がカッと開いた。そして真顔で爽子を見つめる。
突然の行動に爽子がぎょっとすると、驚きも束の間翔太に抱きしめられる。


『しょ、翔太くんっ??』


その力は強く、爽子が抵抗しようとしてもびくともせず、全く身動きが取れない状態
になった。


『しょ・・うたくん?眠っちゃった?』


不安になってきた爽子は翔太の顔を必死で覗きこもうとすると爽子の胸に顔を埋め、
もごもごとくぐもった声が聞こえてきた。


『え?何て?』
『・・・ら』
『え?聞こえないよ・・?』
『ないから・・・ぜったい・・なんて、ない』
『・・・え?絶対・・?』


そして翔太はガバッと顔を上げて熱を含んだ瞳で爽子を見つめると、優しく頬に触れ
て言った。


『だけど・・離したくないんだ』
『翔太くん・・』


熱い瞳がせつなく揺れる。なぜかその言葉だけはまともな様子で言う翔太に胸がきゅん
っとなった。


(何か・・あったのかな?)


『と、とにかく立って〜〜翔太くんっ!』
『ん〜〜っ・・」
『あわわっ〜〜寝ちゃダメっ!翔太くんって・・ば〜〜!』


そして翔太は意識を手放す寸前に意表を突く一言を呟く。


『・・さわ、こ、れんとはなしをし、て・・』
『え・・?』


爽子が茫然としていると、翔太はそのまま眠りについてしまった。


* *


”『蓮と話して・・』”


そう聞こえた。


「蓮さんって・・・蓮さんだよね?翔太くん」


爽子は庭掃除をしながらぼーっと空を見上げ、独り言を呟く。


「かーちゃ・・」
「ー!ゆづちゃん」


爽子が振り向くと玄関の所で目を擦りながらパジャマ姿の結月が立っていた。目覚め
ると誰もいないので不安になって探したようだ。


「おはよう!起きた?」
「おはよ・・とーちゃ、会社行ったの?」
「うん。今日は早かったの。お着替えしておいで。ごはんにしようね」
「・・・」
「ゆづちゃん?」


爽子は突っ立ってそのまま動かない結月を不思議そうに見つめると結月の前まで歩み寄る。


「どうしたの?」


しゃがみこみ結月の目の高さに合わせると、ボブに揃えられた直毛の髪に優しく触れた。
その包み込むような目に結月の表情が緩む。以前なら言葉がなかったのもあるが心のう
ちを前に出さなかった結月だが今は何でも爽子に言うようになった。


「あのね・・れん・・」
「蓮さん?」


爽子の心臓がドクンッとはねる。そして結月は爽子の耳元に顔を寄せると翔太と同じこ
とを言った。


「れんとおはなし・・してね」
「えっ!?」


”『蓮と話を・・して』”


トクンッ


結月は唖然としている爽子にそう言うと、お日様みたいに笑った。常日頃、いや、あの
事故を期に特に蓮と結月は繋がっているような気がしていたが、結月が意味深なことを
言うのは久々だ。結月の言動は感覚に委ねられる部分が多い。そして蓮のことに関して
は必ず何かある時だった。


「ゆづ・・ちゃん?蓮さんがそう言っていたの?」


その爽子の問いには答えず、結月はにっこりと笑って言った。


「れん、待ってると思う」
「どうして?」
「うーん・・そんな気がするだけ」


そう言われるとそれ以上聞けない。爽子が不安そうに瞳を揺らすと結月は「ごはん食べ
る〜〜!」とぐいぐいっと爽子の手を引っ張った。


あの事故をきっかけにめまぐるしく変化している結月。一番の大きな変化は喋れるよう
になったことだろう。『どうしてお喋りしようと思ったの?』と聞くと結月は笑顔で言
った。” れんとおやくそくした。・・あおいお月さまに ”と。


”蒼い月”・・ブルームーンはひと月に2回目の満月のことだ。滅多に見られないと言わ
れている。あの夜は特にそういうニュースは聞いていない。だが、そんなことはどうで
も良かった。なぜならその時の結月の顔が輝いていたから。今まで見たことがないくら
いの輝いた笑顔を見て爽子は二人の強い絆を改めて感じた。
もし蓮が本当に自分を待っているとしても自分がどうしたいかだ。大切な人たちに動か
されながらも自分が動き出さないと始まらないこと・・・もう、知っている。


(蓮さん・・)


「かーちゃ、おなかすいた〜〜!!」
「あっ・・ごめんね、今用意するね〜〜」


玄関で考え込んでいた爽子は向こうの部屋から結月の声が聞こえるとハッとしたように
顔を上げ台所にパタパタッと走って行った。


その時、爽子の目はしっかりと前を向いていた。





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あとがき↓

なかなか更新できないなぁ。気分が乗らないと書けない。
相変わらずのんびりですんません。次は多分、爽子と蓮のターンに行くと思います。