「Once in a blue moon」(99)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
こちらは 「Once in a blue moon」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45
46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71
72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97
98 の続きです。 

☆ 爽子の言葉に驚愕する蓮だが・・・。蓮目線です。












・‥…━━━☆ Once in a blue moon 99 ‥…━━━☆
















”『蓮さんのこと・・恋愛感情で好きです』”



え・・・?


俺はかなりパニくってたと思う。頭が真っ白になり何も言葉が出なくなった。
まるで音のない世界のように周りの喧騒がその言葉でかき消される。


「あ・・・えっとっ・・」


爽子は固まった様子の蓮をちろーっと見上げると、”あわぁぁ〜〜っ/// ”と顔を手で覆
い焦った様子でぎこちなく手足を動かした。そしてしばらく脱力した後、気持ちを落ち
着かせるようにスースーっと今度は深く深呼吸した。


「ご、ごめんなさい。そんなこといきなり言われて驚くよね・・」
「・・・な・・に?」


蓮はやっと発した言葉が”何?”とは情けないと思った。あまりにも爽子が予想外のこと
を言うので完全に自分を見失ってしまったのだ。


何が起こってる? 夢?
あの夜の続きか??


(ちょっと落ち着こう・・)


蓮は混乱した頭を鎮めるように心の中で呟くと軽く視線を合わし、冷静を装って言った。


「・・翔太と向き合えなくなったって・・何かあった?」


爽子はぶんぶんと頭を横に振ると、申し訳なさそうに”す、みません・・っ勝手なことを”
と言って俯いた。蓮はまだ混乱の中にいた。正直真っ赤に頬を染めて羞恥心いっぱいと
いう風な爽子を見ていると本気で勘違いしそうになる。


(マジ、やめて欲しい・・・)


「・・じゃ、なんでそんなこと」
「あの夜・・」
「・・え?」


ドクッ


俺は彼女のその言葉で一気に現実に戻される。熱かった胸が急激に冷たくなる感覚。
その言葉は俺の中でトラウマのように響いてくる。”あの夜”をきっかけに麻美と別れ、
俺は姿を消した。翔太だけではなく彼女までも・・と知って胸の奥が今度はキリキリ
と痛んだ。俺は”あの夜”から続く言葉を知っている。


仙台七夕祭りに行った時、蓮さんが熱を出した夜のこと・・」
「・・・」


二人は無言のまま見つめ合った。蓮は肯定も否定も出来ずにただ呆然と爽子の話を聞
いていた。彼女から語られた”あの夜”の出来事・・・。
まるで夢物語のような出来事をどう伝えようかと、一生懸命言葉を探しながらあの夜
の話をしてくれる彼女。奇跡のような出来事を言葉で伝えるにはあまりにも難しいだ
ろう。でも俺がその事実を信じないわけがなかった。”感じる”ことは何事にも変える
ことの出来ない真実だということを知っている。


「えっと、その・・「−いいよ」」
「!」


言いにくそうに頬を紅潮させながら俯く彼女にこれ以上甘えるわけにはいかないと思
った。最初に固く心に誓っていた決意があっけなく崩れていく。


「もう・・いいよ。全部分かってる。悪い・・言いにくいこと言わせようとして」
「え・・?」
「嫌な思い・・させた」


これ以上隠し通すことは出来なかった。というか、隠す必要はない。
なぜなら彼女は俺の心と正直に向き合う覚悟で会いにきたのだから。翔太と同じで・・・。
元々、彼女を前にして誤魔化すことなんて出来るはずはなかった。


まったくこの二人は・・・と思う。
蓮はふーっと息を吐くと迷いを捨て顔を上げると、真っ直ぐと爽子を見て言った。


「・・・そうだよ。ずっと、恋愛感情を持ってた」


蓮の強い視線を受けて驚愕な表情のまま動けない爽子。そして蓮ははっきりと伝えた。


「・・・あんたに」
「・・っ」


放心状態だった爽子の瞳が段々と潤み始めた。そしてぽつん・・と落ちる。


あぁ・・きれいだな


涙の雫が光に反射してキラッと光るその瞬間をまるで夢の中にいるように見ていた。
焦燥感も罪悪感もない。こんな状況だと言うのに不思議に想いを伝えることが出来た
喜びのようなものを感じた。それは長い間、自分の中で頑なに押し込めていた想いの
解放感だったのかもしれない。


「ゆづに・・やっぱ気づかれてたんだな」


あの夜、ゆづに見られた時、全てが終わったと思った。自分の醜い心をゆづにだけは
知られたくなかった。軽蔑されたくなかったのかもしれない。純粋な想いを一途に向
けてくれるゆづに出会ってから無条件で”愛”をもらった気がしていた。温かい両親に
大切に育まれ、幸せに育って欲しい。それなのにその幸せを壊そうとしているのは自
分自身だと自覚した時、全てが崩れ落ちる感覚に陥った。だけど想いと逆行するよう
に止められない想い・・・。あの夜、爽子へ手を伸ばそうとした時に見た、純粋な目。
あの瞬間、俺の中の全てが壊れた。


「サイテーだろ」
「・・・」
「・・・もう、これ以上あんた達と関わっちゃいけないと思った。翔太もゆづも傷つ
 けたくなかった」


蓮は深い悲哀を感じる目をゆっくりと閉じて言った。


「もう、二度と会えないかもって思ってた。消えてなくなればいいって、あの時真剣
 に思ってたのに」
「・・・ゆづちゃん?」


爽子の言葉に蓮は思わず言葉を失う。そして目を閉じると結月の顔を思い浮かべた。


「うん。さっき言った通り、ゆづがいなければ俺はここにいないと思う」
「・・・」
「正直、あんたがここに来て話があると言われた時ドキッとした。自分の気持ちを悟
 られないようにってそればかり考えてたのに、知ってたんだな。ゆづもあんたも」


蓮はそう言うと苦笑いを浮かべた。爽子はそんな蓮を見て哀しそうに視線を落とす。


「最初はね、そんなことあるわけないと思ってた。でもゆづちゃんを通して流れてく
 る感情は、翔太くんと同じものだと感じたの。おこがましいけれど・・・」
「・・・おこがましくなんかないよ。事実だし」


そう言った後、くすっと笑った蓮を爽子は不思議そうに見つめる。


「ごめん、いや、ずっと不思議だったんだ。あんたが気づくなんて」
「・・・」


絶対気づかれてはいけない想いだったのに・・・


「あの・・」
「え?」


なぜか突然、何かに挑むような、怒っているような爽子の様子に蓮は首を傾げる。


「本気で・・私たちから離れたいと思ってたんですか?」
「・・・ん、まぁ、それしかないかと」
「本気で、そんな自分のことを最低だと・・?」
「そー思うだろ、普通」
「ふつう・・」


蓮は鬼気迫るような爽子の雰囲気に圧倒され、目が点になる。すると爽子の表情が
ぐしゃっと崩れ涙があふれた。


「普通なんてありませんっ!!・・・自分のこと”最低”なんて言わないで・・」
「・・・」


俺のために泣いてくれ、”好き”とまで言ってくれた彼女に熱い感情が込み上げる。
その純粋な涙は俺には尊すぎる。その気持ちだけで十分救われたと思った。例えその
”好き”が恋愛感情でなくても・・・


「さっきさ、俺に恋愛感情を持ってるって・・言ってたよな。それって誤解だから」
「え?」
「もし、ゆづを通して感情が流れ込んだとしたらその感情に同調したんじゃないかな?
 だから・・「−よっ!!」」
「ー違うよ!」


爽子は強い口調で否定した後、もう一度独り言のように”違う・・”と呟いた。勢いよく
立ちあがって言う爽子に蓮は再び圧倒される。その真剣な目、言葉に嘘は感じなかった。
爽子は感情が昂った自分を恥じるようにストンとベンチに座り直してじっと考え込むと、
もう一度蓮の方に向き合った。蓮はびくっと身体を強張らせる。


「違うの・・同調なんかしてない」
「・・・」
「気づかせてもらった。ゆづちゃんに・・・とっても大切なこと」


爽子はしっかりと蓮の目を見て言った。


不思議だった。なぜゆづはそんな行動をしたのだろう?
何をゆづは彼女に伝えたかったのか?



蓮は結月と爽子の想いをこのあと知ることになる。
そこには蓮の想像を遥かに超える、人に対して純一無雑で人間愛にあふれている二人の
想いがあった。












「Once in a blue moon」 100 へ













あとがき↓
爽子の爆弾発言からまた日が開いてしまったゴメンナサイ。でもまだうやむやですねぇ。
次はついに100話!!しんじられんっ!!ダラダラいつもすみません!