「Once in a blue moon」(93)

※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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☆ 蓮×翔太の最終章。一応蓮目線。二人は和解出来るのか!?長いです。












・‥…━━━☆ Once in a blue moon 93 ‥…━━━☆











翔太は感覚的、いや本能的に俺の想いを知っていた。お互いその想いにフタをしてい
ただけってことだ。見ないように今まで上手く関係を繕っていた。それを翔太はお互
い様だと言う。そんなことあるわけない・・・例え翔太がそう思っていたとしても俺
の中の罪は消えない。


”『あの夜』”


翔太の言葉、鋭い視線に心臓がドクンッ・・と大きく動く。


「瀬戸さんと一緒だった仙台七夕まつりの夜、蓮が熱を出した夜のことだよ」
「・・・」
「あの夜・・爽子に違和感を感じた」
「違和感?」
「言葉には出来ない、感覚的なもの。なんか爽子にあったように思ったから」
「・・・」


俺は完全に動揺していた。”彼女に違和感があった”という言葉に。翔太が彼女に関し
て感じる感覚に間違いはない。ということはあの夜彼女に何かがあったということ。


ドクドクドクッ


いかにも動揺を隠せない蓮の様子に翔太の表情が険しくなっていく。蓮は動揺しながら
もその鋭く、真っ直ぐな目に応えた。もう目を逸らさないと決めたのだから。


(違和感・・・)


あの夜、何もなかったと言えば何もなかった。手を出しそうになったけど、何もしな
かった。ただ・・・


「夢を見ていた」
「え?夢?」
「閉じ込めていた想いを吐き出すかのように・・彼女の夢を見ていた。俺は夢の中で
 も苦しんでいたのかな・・・彼女が手を握ってくれてたんだ。目が覚めて驚いた」
「爽子が・・・」
「手を握ったまま、眠っていた。その手が温かくて・・」


”さわこ・・”


ずっと呼びたかった彼女の名前。でも声にしてしまったら、愛しさが溢れそうで言葉
にすることが出来なかった。簡単には呼べるわけがない。
あの夜・・初めて眠っていた彼女の名前を呼んだ。一気に胸に広がる幸福感。どれだ
け自分が名前を呼びたかったのか知った。


「寝ている彼女に言った。自分の想い」
「え・・・」
「その姿を隣のベッドに寝ていたゆづに見られて頭が真っ白になった。もう・・限界
 だと思った」
「・・・」
「俺は逃げだした。彼女からも、ゆづからも翔太からも、そして・・麻美からも。でも
 麻美には向き合わなければと思った。だから最後のあの日、ちゃんと別れるために家
 を訪ねた。あの夜会って良かったと思った。本気で俺を思ってくれた麻美だけはあの
 ままには出来なかったんだ」
「逃げて・・どうするつもりだった?」
「・・その時はただ遠くへ行って消えたいと思ってた。いい大人が何やってるのかって
 頭では分かっててもどうすることも出来なくて、こんな自分は初めてだった」
「・・・」


翔太の射抜くような視線が蓮に突きつけられる。その目は小さな揺らぎも見逃さないと
いう強い意思が見えた。蓮は思わず息を飲む。


「あの夜・・もしかして爽子は起きてたとか?そして蓮の告白を聞いた」
「・・・翔太が感じた”違和感”は何なのか分からない。でもやっぱりそれはないと思う」
「なぜ?」
「・・・」


蓮はあの夜の様子を必死で思い出す。起きた後の彼女の様子。


(・・いや、やっぱそれはない)


「彼女が演技するとはどうしても思えない」
「・・ということは起きていた雰囲気は全くなかったということ?」
「ああ」
「・・・」


二人は黙り込む。お互い複雑な思いが胸の中に巡っていた。翔太はあの夜の爽子に感
じた違和感を思い起こしていた。


「・・あの夜、ホテルに帰った後・・爽子変だった」


(抱きしめると身体を強張らせてすぐに離れた・・)


俯いて頭に過った記憶のまま翔太は呟く。”変だった””違和感”そう言われて蓮はます
ます焦燥感に駆られる。


やっぱりあの夜、彼女は俺の告白を聞いたのだろうか?


ドクンッ・・


翔太が知りたいこと。それが分かっていた。 ”爽子に何かした” かどうか。
翔太は俺を信用してくれている。でも彼女を前にすると暴走してしまう自分を知ってる。
同じ想いを持っている俺をもう重ねずにはいられないだろう。俺自身も全部を否定する
ことは出来なかった。暴走する想い・・・それも初めて知った。


「・・ごめん・・ちょっと取り乱した」


翔太は顔を隠すように手で顔を覆うとぎこちない笑みを浮かべた。そんな翔太を蓮はせ
つない表情で見つめる。二人はしばらく考え込むように無口になった。口火を切ったの
は翔太だった。俯いたまま独り言のように呟く。


「でもさ、この際爽子に伝わった方がいいんじゃないかな」
「え?」


蓮が驚いて聞き返すと、翔太は真剣な目をして蓮に言う。


「だって、このままじゃずっと蓮は前向けないだろ?」
「・・・」
「ちゃんと爽子とも向き合った方がいいよ」


全く想像もしてなかった言葉に驚嘆としたと同時に、この世に絶対なんてものはないと
本気で信じているのにそう言ってくれる翔太に胸が熱くなった。簡単な言葉じゃない。
俺の気持ちを知ってなお、そう言えるのは・・・


「翔太・・・ありがとう」
「蓮・・」
「・・・伝える気はないよ。どうなりたいとかないんだ。翔太に言いたかっただけ」
「でもっ・・それじゃ・・」


翔太は穏やかな表情の蓮を眉を顰めて不思議そうに見つめる。


「もう、前向けてる。ゆづと・・翔太のおかげで。こうやって向き合えて、つらいこと
 なのに翔太が真剣に聞いてくれて、十分だ」
「・・蓮は自分の幸せ考えたことある?」
「・・・幸せ?」


蓮は憂いを含んだ哀しい目をした翔太をじっと見て聞き返した。


「なんかせつないよ。その言葉が嘘じゃないって知ってるから。・・・せつないよ。
 だから幸せになれないんだよ」
「・・・」


蓮は複雑そうに翔太を見る。なんと返していいか分からない表情の蓮に翔太は小さなた
め息をついて言った。


「やっぱ蓮はすごいわ。俺は無理だよ。そんな気持ちを持て余したまま生きるなんて。
 全部・・欲しくなる。自分の手に欲しくなるよ」


ぎゅっと拳を握りしめて熱く言う翔太を蓮は穏やかに見つめる。翔太が顔を上げると蓮
は密かに微笑んでいた。


「蓮?」
「・・それでいい。そんな翔太だからいいんだ。ずっと憧れだった。”この世に絶対は
 ない”と翔太は言うけど、俺はあると思う。お前たちは特別だよ。二人を見てると、
 この世も捨てたもんじゃないって思えたんだ」
「・・・」
「そんな二人をずっと・・見ていたかった」


純粋なゆづの目は彼女のと同じだ。そんな彼女を幸せに出来る唯一の男。二人は逢うべ
きして出逢ったのだ。本物の恋愛感情というものを目の当たりにし、感動さえ覚えた。
二人から感じる感情は眩しくて・・・どこまでもきれいだった。絶対壊したくなかった。


「・・もう逃げないよ。翔太から」
「・・・蓮」
「無理して今まで通り俺と付き合わなくていい。自然でいいんだ。例え翔太が俺とダチで
いるのが嫌だと言っても・・・今度は俺が追いかけるから」


何より壊したくなかったのは、失いたくなかったのは翔太だった。彼女は以前俺に言った
ことがある。”翔太くんは沢山の初めてをくれた”と・・・。それは俺も同じだ。


「俺が・・追いかける」


光に透けて笑う蓮はまるで子どもみたいだった。この笑顔がずっと見たかったのだと翔太
は思った。そこに何のわだかまりもない。初めて見る蓮の自然な姿だった。
翔太は先ほどまであった胸の中の焦燥感がなくなっていることに気づいた。


(俺も・・ずっと憧れていたよ蓮)


「それが見たかった」
「え?」
「俺ももう・・十分だ。これからも蓮を苦しめる存在になるかもしれないけど・・俺も
 追いかけるから。せっかく出会ったんだから!」
「翔太・・・っ」
「蓮には幸せになって欲しい。自分の幸せを望んで欲しい。ずっとそう思っていた。そ
 れは爽子も同じだよ。何があっても、その気持ちは変わらない」


幸せを望むことに罪悪感を感じていた。翔太にそう言われるたびに分かっているのに心
のどこかでやさぐれていた。でも、違う・・・今やっと分かった。


「これだけは約束して、蓮。これからは自分の幸せを優先にすると」
「・・・っ」


翔太の笑顔が霞んで見えた。こんなに感情を揺さぶられたのは初めてだった。自分の中
の感情にどこかブレーキをかけていた。自分が自分らしくいることが怖かった。


”『自分を肯定できる相手に巡り合えますように』”


いつの日か庄司先生にそう言われたことを思い出した。その時は分からなかった。だけ
ど今は分かる。翔太こそその相手だったのだと。こんなに傷つけても俺を受け入れてく
れようとする翔太のために俺自身を大切にしようと思った。
気づくのにこんなに長い年月がかかってしまった。


「分かった・・約束する」
「・・・うん」


二人は緊張がとれたように緩んだ顔で笑い合った。翔太は思った。決してこの日のこと
を忘れることは自分の中ではないだろう。ある意味一生の傷になるかもしれない。だけ
ど蓮が好きな気持ちは変わらずある。それが全てなのだと・・・


「なぁ、ゆづの話・・教えてよ」
「・・長くなるけど?」
「そうだろうな・・よっしゃ、会社休むか」
「え?マジで?」
「たまにはいーだろが・・こんな二人の時間なんて久しぶりなんだから。それに最高の
 昼下がりだろ?」
「・・ああ」


二人は緑々しい大きく伸びた木の葉っぱを幸せそうに眺める。
なんだかこのむず痒いような気持ち。蓮は今心の中に清々しいほどの平安を感じていた。
でもまたいつか無機質になったり飢餓感が生まれたりするかもしれない。
だけどもう決して間違わない。
翔太も、ゆづも、そして彼女もいる。


俺にとってかけがえのない存在がいる限り・・・







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あとがき↓
コミックス23巻ネタバレちょっと含みます。ほぼ感想だけど。見たくない方はgo back!





この回にまとめたので長くなってしまった。一応和解ということで。
ところでコミックス23巻読みました。すっごく良かった。あやね回でしたがなんか
これこそ君トドと思ったんですよねぇ。ただの少女漫画ではない要素がいっぱい詰ま
っていたというか。最初から”あやね像”が出来ていたようなので本当にかるほー先生
は深いと思うのです。適当じゃない一生懸命生きているキャラ達が魅力的なんだろう
な〜〜。あやねの悩みすごく分かります。だからケントと付き合ったらダメだと心の
どこかで思ってたんでしょうね。茂木君もこの話に何が必要なのだろう?と出てきた
時に思ったけどめっちゃ必要なキャラじゃないですか!?あやねが言ってましたね。
「私の武器は女ということと頭だけ」だと。それだけで十分だと思うけど(笑)もの
すごく直球にきた巻でしたね。でも次は爽風の話になりそうなので楽しみ♪コミック
ス派にしたのでまだまだ読めないけど・・ぐ〜〜っと我慢です。今回久々にネタバレ
を読みそうになりました(笑)二次に戻ってこの話・・やっぱり100話で終わりそ
うにないです。多分・・・ごめんなさいぃぃまとめらんなくて!