「Once in a blue moon」(102)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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98 99 100 101 の続きです。

☆ 二人と向き合い、長い間の苦しみから解き放たれた蓮。そこには以前の蓮はもういなかった。




















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 102 ‥…━━━☆













「れんっ〜〜!!」
「ゆづ!」


病院前で待っていた結月が自動ドアが開くと同時に蓮に向かって駆け出した。二人は
久々の再会のように抱きしめ合った。


「ちょっと・・俺たちもいるんですけど」


翔太が呆れたように腕を組んで言うと、ひょいっと結月を抱き上げた蓮がふふっと優
越感を感じる笑みを浮かべ言った。


「だってな〜俺たち運命共同体だもんな」
「ーなっ!」


にかっと笑い合う二人に翔太はさらに呆れ顔をしていた。その後ろで爽子はくすくす
と笑っている。この日、無事退院を迎えた蓮を風早家は迎えに来た。看護師達も名残
惜しそうに送りに出てきた。


「お元気で・・たまに遊びに来てもいいですよ♪」
「いや、もう勘弁してください」


あはは〜〜っ


「・・サンキュ。迎えに来てくれて」
「とーぜんだろ!とりあえず乗ってよ」
「・・・ん」


蓮は看護師達に見送られながら病院を後にした。申し訳なさそうにしながらも以前より
も自然に好意を受けられるようになった蓮を翔太は嬉しく思う。


「蓮さん・・退院おめでとう」
「ありがとう」


助手席の爽子がそう言うと、蓮は素直にお礼を言った。爽子が一人で会いに来てから一
週間経っていた。二人の柔らかな空気感に結月は嬉しそうに微笑む。


「アパートそのままにしてあるから」
「えっ!?」


運転しながらそれとなく言う翔太に蓮は身を乗り出した。会社を休職する時に解約した
アパートを翔太はいつ蓮が帰って来ても良いようにと契約し直していたのだ。


「もっと俺たちの近くにした方がいいかと思ったけど、とりあえず元居たとこの方が落
 ち着くかと思って」
「・・翔太」


蓮は照れを隠すように複雑な表情を浮かべた。


(・・ったく)


幸せって妙にこっぱずかしい。蓮はそんな感覚に戸惑いながらも以前とはまるで違う気
持ちでいられるこの家族との空間が堪らなく心地良かった。もう壁を作る必要もない。
どんな自分でも受け入れてくれる。その思いが蓮の心を解放していく。


蓮は一週間前のあの日の夜ことを思い浮かべた。


* *


『翔太?今家?』
『・・蓮?・・仕事終わって会社出るとこだけど』


俺は彼女が来た夜に翔太に電話した。電話で伝わるか分からなかったけど、それでも
どうしても伝えたかった。この想い。


『彼女・・今日来てくれた』
『・・・』


”彼女”と言っただけで電話口の翔太が少し身構えたのが分かった。


『色々・・悩ませてごめん』
『・・・っ』


今日のことを全部伝える気はない。あの時間は俺と彼女だけのものだから。だけど翔太
が俺を受け入れてくれたからこそ、あの時間があったのだと思う。


『でも・・ありがとう。俺もう、大丈夫だから』


だから何度言っても言い足らないこの言葉をすぐに伝えたかった。翔太はしばらく無言
を貫いた後、ぼそっと言った。


『・・聞きたいけど聞かない。でも一つだけ教えて欲しい』
『なに?』
『爽子・・・家、帰って来てる、かな・・』
『・・・へ??』


かなりの間の後、素っ頓狂な声が出た。それで”どんだけだよ”って叫んだ。容易に想像
出来た今の翔太の顔。ほんとにどんだけ好きなんだよ・・って思った。聞きたいけど聞
かないんじゃなくて聞きたくないんだと思う。気にしてしまうのが嫌だからだ。


まぁ、分かるけどな


* *


「何?蓮、気持ちわりぃな」
「あっ・・」


運転しながらバックミラーを覗く翔太に言われて、蓮は自分の口元が緩んでいること
に気づいた。何度思い出しても笑ってしまう。翔太は本気で彼女を俺に取られるとで
も思っていたらしい。そんなことあるわけないのに。そんな翔太に伝えておいた。


”『ちゃんと振られたから。お前がやっぱ好きだってさ』
 『えっ!!・・まじ?・・そっか・・』”


明らかにホッとしていて、でも俺に遠慮しているのが分かってまた頬が緩んでしまっ
た。沢山悩ませて、沢山悲しませた分、俺は幸せにならなきゃいけない。自分の幸せ
を考えることを翔太とも約束したのだから。


「蓮、今日はうち泊まるよな。ゆづの期待裏切んなよ」
「え・・・」


隣を見ると期待いっぱいの純粋な目が蓮が見ていた。


(あぁ、この目には勝てない・・・)


「それとさ、退院祝いは今週末だからな」
「え?何ソレ」


翔太と爽子は目を合わせてにっこりと笑った。そして翔太が言った。


「もう、いいかなと思って皆に言った。蓮の入院のこと。水臭いって言われたよ」
「・・・」


事故のことを誰にも言わないで欲しいと伝えていた。頑なに拒否していたわけではない
が何かと面倒に思っていたのも否定できない。それどころではなかったというか・・・


「で、仙台の皆来るらしい。今週末」
「・・・っ」


”『−ったく・・』”と口にしながらも明らかに頬が緩んでいる蓮を翔太と爽子は嬉しそ
うに見つめる。


「ゆづが喋ってるから驚くんじゃねーの、あいつら」
「多分。それもあって来るんじゃないかな」
「あー無理に喋らなくていーからな、ゆづ」


蓮は結月の頭をポンポンと優しく叩くとゆづはにっこりと微笑んだ。二人の柔らかい空
気感を微笑ましく感じながら爽子は蓮に言った。


「蓮さん、身体はもう大丈夫?」
「うん。完全復活。でも身体がなまってるからぼちぼち動かさなきゃな」
「でも何かと不自由だろうから、困ったら・・あの、いつでも来てね」
「・・・ん」
「きてねっ!」


爽子と結月に言われて蓮の表情が緩む。


「じゃ、とりあえず今日は世話になろーかな。話したいことあるし。二人に」
「・・話したいこと?」
「ん」


蓮はそう言って結月の方を見てにっこりと笑った。爽子と翔太二人にずっと伝えたかっ
た。やっと話せる時が来たのだ。蓮は興奮と緊張が入り混じるような不思議な躍動感を
感じていた。







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あとがき↓
拍手ボタン、コメントくださった方、ありがとうございます。かなり放置していたにも
関わらず今も訪問してくださる方々に感謝です。いよいよラストスパート。だだの二次
なんですが寂しくなってきました・・・。