「Once in a blue moon」(43)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
こちらは 「Once in a blue moon」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
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☆ 風早家と蓮カップルの食事会の日、蓮と爽子が遅れてくる翔太達を待っていた。滅多に
ない二人きりの時間だが、お互い不思議なほど穏やかな空気を感じていた。





















人はなぜ手の届かないところに手を伸ばそうとするのだろうか 

触れてはいけないものを求めたりするのだろうか


一気にあふれ出す感情


だから見てはいけない。触れてはいけない

何よりも大切だから






・‥…━━━☆ Once in a blue moon 43 ‥…━━━☆

















爽やかに吹く風を感じながら、二人は翔太達が来るのを待っていた。


「遅いな・・・翔太も麻美も」


蓮は腕時計を見て呟いた。


「多分、道が混んでいるのかも。車で来ているので」

「そっか。麻美にも電話入れてみたけど出ないしな・・・」

「・・・・」


爽子の表情が曇ったのが敏感な蓮には分かった。さきほどから麻美の話をすると妙に

いつもと違う反応をする。それにいつもはもっと麻美の話題を出すような気がした。


「なんか麻美とあった?」

「え??い・・いやいや。そんなことないよ」


爽子はぶんぶんと前で手を振って否定した。その様子に蓮はますます疑惑を深める。


(明らかに何かあったって分かるし・・・)


実は爽子は何度か麻美にメールをしているが、返事がないのだ。今まで一ヶ月も会わ

ないことがなかったので、爽子は少し気になっていた。なので今日会えることが半信

半疑だったのだ。


爽子は紅茶を一含みすると、おずおずと聞いた。


「蓮さんは・・・麻美ちゃんと会ってますか?」

「え・・・?ん・・タイミングが合わずに最近は会ってない」

「・・・そう」

「もしかして一ヶ月前からアンタも会ってない?」

「あ・・う、うん。落語同好会も前回はお休みで・・・」

「そっか・・・でも今日は来れないならちゃんと連絡する奴だから来ると思うよ」


爽子は不思議に思った。蓮さんは麻美ちゃんのことが気にならないのだろうか?・・と。

蓮は黙り込んだ爽子の心情を探るようにじっと見つめて言った。


「なに?心配しないって?」

「えぇ??〜〜蓮さんってエ、エスパー?」


体制を崩して驚く爽子を見て蓮はふっと笑うと小さなため息をついた。


「何か・・避けられているよーな気がする。はは、嫌われたかな」

「!?」


爽子は大きく目を見開くとがばっと立ち上がった。思わず固まる蓮。


「そ・・そんなことないですっ!!麻美ちゃんは本当に・・本当に蓮さんが好きで・・っ」


身体をふるふるとさせ、必死に訴える爽子に蓮は呆気に取られた。


しぃ〜〜〜〜〜〜〜〜ん


爽子は暴走してしまった自分に気付き、ハッとするとあわあわ〜〜っと妙な動きをし

て頭を下げた。


「ご、ごめんなさいっっ・・・人様のプライバシーに勝手に」

「え・・・」


ぶんぶんとコミカルな動きでなぜか謝っている爽子を見て、しばらく呆然としていた

蓮はいきなり腹を抱えて笑い出した。


「は・・っやばっ・・・ほんとツボるわ・・あははっ〜〜」

「え??えぇぇ」


訳が分からず再び唖然とする爽子。いつまでたっても蓮のツボが分からない爽子だった。

でも蓮が楽しそうでいいか・・と思った。

お互い感じる穏やかな空気。爽子は不思議だった。あまり友好的に人と接することの

できない自分が蓮とは無理をせず自然な自分でいられる。それは最初に会った時から

感じる空気。また翔太とは違う安心感だった。


「・・・だからかな」

「え?」

「あっ・・・」


爽子は心の声が漏れていることにハッとした。そしていつも真剣に自分の話を聞いて

くれる蓮を感じると、決心するように考えていることを言葉にした。


「不思議だなぁ・・・って思ったの」

「何が?」

「えと・・・こんなことを言って蓮さんには迷惑かもしれないのだけれど・・私、初

 めての人に会うと固くなってしまうことが多いんですが、蓮さんは違ったの」

「・・・・・」

「・・・それはずっと感じていたことで、何て言うのか・・・空気が気持ちいいって

 いうか・・あぁ”私何言ってんだろう〜〜!!」


上手く表現できず、眉間にしわを寄せて唸っている爽子を蓮はじっと見つめると、

ぼそっと呟いた。


「・・・波長が同じ」

「あ・・・」


爽子の顔がぱぁぁっと輝いた。自分が感覚的に感じていたことを蓮が言葉にしてくれ

て嬉しかったのだ。


「・・・そっかぁ・・そうなのかぁ〜」

「・・・・」


爽子は両手をぎゅっと握り合わせて感動した様子でひとり言のように呟いた。

蓮は飲み物をズズッと飲み干すと、俯いたまま言った。


「・・・迷惑じゃないよ。俺も感じてたから」


俯いていた蓮は何の返事もない爽子を不思議に思い顔を上げると、目の前にはふるふる

と身体を震わせて感動している爽子の姿があった。


「え・・・」

「う・・・嬉しい」


”嬉しい”それは嘘偽りのない言葉。純粋な気持ちが蓮の中に浸透していく。想いとい

うのはお互い通じるものだと思うが、爽子は幼少時代から上手く想いが相手に伝わら

ず誤解されることが多かった。それだけに爽子にとって蓮の言葉は嬉しかったのだ。

爽子の目には薄ら涙も浮かんでいる。


蓮はそんな爽子の気持ちが分かった。以前から翔太に色々聞いていたので、今爽子が

どんなことで喜んでいるのか分かるのだ。だが、蓮は心から穏やかに爽子の気持ちを

受け止めることはできなかった。”同じ”ではないのだから。でも蓮は思った。いつか

”同じ”になることを。それが何よりも幸せだということを・・・。


「・・・だからなんだ」


蓮が複雑な表情で想いに更けていると爽子のひとり言のような呟きがまだ続いていた。

爽子が嬉しそうに言う。


「だから、ゆづちゃんも蓮さんが好きなんだなぁ。同じ波長?なのかな・・・」

「・・・・・」


蓮と爽子の想いが”同じ”ではないことを爽子が一生知ることはないだろう。

”同じ”だと言われると胸が痛むのは気のせいだ。そんな繊細な想いを自分は持ち合わ

せていない・・・蓮はすべての想いを封印する。想いを自覚したあの日から蓮の苦悩

は続いていた。そして、封印することが唯一の償いだと信じて疑わなかったのだ。


「俺も感じてた。ゆづとは同じだって。ゆづと出会えて良かった」

「うん・・・っ私も」

「し・・・」

「え?」

「いや・・・」


”翔太ともアンタとも・・・”と蓮は言おうとして言葉に詰まった。二人でいると本来

の自分でいられない。蓮はそんな自分を発見してしまった。息ができないぐらい苦し

くなって追い込まれていく。自分自身に余裕がない。


蓮には初めての感情だった。ドッドッドッと妙な音と速さで動く心臓の音に違和感を

感じた。蓮は無意識で爽子から少しずつ距離を取っていた。

そう無意識に・・・・。


「爽子〜〜〜!!蓮っ!!」

「!」

「あ・・・翔太くんっゆづちゃん!」


その時、現実に戻った。今まで何をしていたのか分からないほど、蓮はトリップして

いた自分に気付いた。遠くから翔太と結月がいつもの笑顔で走ってやってくる。


彼女が振り向くと、長い髪がきらっと光って揺れた。茜色の空に何よりも輝く笑顔。

アイツにしか出来ない彼女の幸せそうな笑顔。その姿を蓮は夢の中のように見ていた。

そして心の中に注ぎこまれる温かい想い。


ずっとその笑顔でいて欲しい。


心からそう思った。その時、胸に刺さっていたトゲのような感情が消えていた。蓮は

穏やかな笑みを浮かべると、立ち上がって大きな声で言った。


「翔太!おっせーよ」



そこにはいつもの蓮の姿があった。





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あとがき↓

ひえ〜〜〜長引いちゃった。蓮の気持ちをこれから蓮目線で書いていこうかと思って
いるのですが、まだきっかけがつかめず。もう少し後になるかも。麻美目線も爽子目
線も風早目線も蓮目線もみんな書きたくて難しいなぁ・・・。