「Once in a blue moon」(88)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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☆ 手術を終えた蓮に対面出来た風早家。結月の言動を不思議に思いながらも、爽子と風早
は今はただ結月が喋ったこと、蓮が助かったことを喜んだ。その後・・・


















ふわふわと宙に浮いた感覚から引き戻された現実。


その時気づいた。俺は逃げようとしていたことに。この現実から。
今までどんなことが起ころうと目の前の出来事から逃げたくなかった。両親と同じよ
うに逃げたくなかったから。でも眩しすぎた。


すべて知らなかった。こんなに真っ直ぐ光を見たことも、浴びたこともなかったから。
この世にこれほど眩しい光があるということも。


bluemoon を一緒に見た時、すべてのことを信じることが出来た。
一生見ることはないと思っていた、bluemoon


その光はどこまでも温かく、俺を包んでくれるということを知った。どんな自分であっ
ても必ず受け止めてくれる。


俺に奇跡をくれた存在からもう目を背けないと、その時誓ったんだ。


蒼い月に・・・



・‥…━━━☆ Once in a blue moon 88 ‥…━━━☆


















桜の花びらがちらちらと舞う。この光景をきれいだと思う。人の感じ方一つで美しい
風景も違って見える。俺は今まで無機質な心でこの世の物を見過ぎたのだろうか?
そんな気さえするほど、事故前の俺と今の俺は違った。


蓮は病院の中庭で桜の木を眺めていた。舞い散る花びらをそっと手に取る。その表情
は穏やかだった。


「桜も、もうすぐ終わりですね」
「あ・・はい」


蓮がハッとして声の方を見ると、中庭の渡り廊下を歩いていた看護師達だった。若い
看護師達は嬉しそうに会話を続ける。


「川嶋さん、すごく回復早いですね〜!退院早まりそう」
「ありがとうございます・・おかげさまで」


あの事故後、すぐにリハビリを始めた蓮は1週間後には松葉づえを使って歩けるまでに
回復した。そして2週間経った今、中庭を散歩できるまでになっている。そんな蓮を見
ながら看護師二人がコソコソと話している。


「あの・・?」


蓮が首を傾げて不思議そうにしていると、一人の看護師が決心したように顔を上げて
言った。


「看護師の間で言ってたんです・・川嶋さんのお見舞いに彼女さんらしき人がまだ来
 ないように思うんですけど、彼女いるのかな〜〜って。ね?」
「みんな知りたがってましたよ!!ふふっ」
「・・・・」


(看護師って結構ミーハーなんだな・・)


「だって女の人って言ったら、あのご家族の奥さんだけでしたよね?」
「・・・」


そう、今回の入院は誰にも伝えていない。翔太にそうお願いした。翔太は俺のことを
分かっているからこそ、誰にも言わなかった。


「そうですね。で?」
「え?あっ・・いや」


蓮にニコッと余裕の笑みを浮かべ見つめられた看護師はそれ以上入ることが出来なか
った。看護師達は気まずそうにそそくさと去っていく。


「おい、コラ女殺し」
「!」


背後からの声に蓮が振り向くと、呆れた顔で木に寄りかかっている翔太の姿があった。
蓮は穏やかな笑みを浮かべる。


「なんだよ、人聞き悪いな」
「ははっ!だってほんとのことじゃん」
「翔太には負けるって。今日は珍しく一人?」
「・・・うん。ちゃんと話をしたくてさ」
「・・・」


蓮は翔太を見つめてそっと頷いた。”俺も”と。


* *


新緑の季節、二人は中庭のベンチに腰掛けて心地良い風を感じていた。風早家はあれ
から何度も見舞いに訪れた。いつもは遠慮する蓮も結月が会いたいと言えば断れない。
本来なら突然姿を消した蓮と翔太達は微妙な空気が流れているはずだったが、お喋り
が盛んになった結月を囲んで病室はいつも明るさが溢れていた。だが家族で来るので
なかなか翔太達は本題に移れないまま気が付けば蓮の入院も2週間目に入っていた。


「ゆづの目を盗んで蓮に会いに行くのも大変でさ」
「はは・・鋭いもんなぁ、ゆづは。だからこんな平日にか。会社休んで?」
「昼からちゃんと行くよ」
「・・彼女は?」
「爽子?何も言ってない」
「・・・」


二人に静かな時間が流れる。病院内は都会の喧騒とはかけ離れたのどかさがあった。
蓮は翔太をじっと見つめると、ふーっと肩で大きく息をして青空を見上げた。そして
翔太に頭を下げる。


「蓮?」
「悪かった。突然いなくなって」
「!」


翔太はいきなりの本題に目を見開く。蓮はゆっくりと顔を上げると気まずそうに苦笑
して言った。


「いつ・・謝ろうと思ってたんだけどなかなかタイミング掴めなくってさ」


翔太も思わず笑う。


「最初に見舞いに行った時、俺たちに言ってくれたじゃん」
「翔太にだよ。お前に特に・・言いたかったからさ」
「・・・うん。そーだよな。俺に、言ってもらわなきゃ困る。かなり苦しんだよ」
「悪い・・」


視線を落として暗くなった蓮に翔太は温かい目を向けた。


「でも、良かった。やっぱり俺、まだ蓮の親友って思っていいんだよな」
「・・・当たり前だろ」


二人は目を細めて笑い合った。なんだかむず痒いようなそんな表情で二人は笑い合う。
翔太はこの時、今までで一番蓮が近くにいるような気がした。どんなに一緒にいても
腹の中まで入ることは出来なかった。蓮の支えになりたくても何も出来なかった自分。
やっと本音で話せる。翔太が本題に入ろうとすると蓮が先に話し出した。


「ちゃんと話をしよう。翔太」
「!」


真っ直ぐと自分を見る蓮を久々に感じた。こちらに来てから特に目を逸らされていた。
ここまで来るまで長かったなぁ・・という想いと今まで心のどこかで畏れていたもの
に向き合おうとしている不安と様々な想いが交差する。だけど翔太は明らかに気持ち
が高揚しているのを感じた。それは今まで望んでいたことが現実になろうとしている
からだ。色々な感情を経て、どんなことを言われても受け止める覚悟が出来ている。


「ずっと・・待ってた」


二人は真剣な目をしてお互い向き合った。






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あとがき↓

やっと向き合える二人。何年かかってんだか!!蓮が頑な過ぎましたよね!でもここで結月
のこととか全部吐き出したいと思います。しかし色々長いんですよ・・・蓮の語り(;´・ω・)