「Once in a blue moon」(87)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 の続きです。 

☆ 翔太が爽子の部屋に行くと、結月は起きていた。そして初めて言葉を発した。その事実に
唖然とした二人だが・・・?













・‥…━━━☆ Once in a blue moon 87 ‥…━━━☆












”れん・・あったよ”



どたっ



翔太は思わず椅子からずっこけた。爽子は怖い顔で固まっている。そして同時に声を上
げた。


「「ゆづっっ!?」」


結月は大きな目をきょとんっとさせている。信じられない出来事に夢か現実か分からな
くなるが、それはまさしく現実だった。
爽子はゆっくりと結月の前まで歩み寄ると、結月の目線にしゃがみこんで包み込むよう
な優しい目を向けて言った。


「蓮さんと・・会ったの?」


結月はコクンと頷く。爽子が自分より冷静に見え、翔太はさすが母親だと思った。


「どこで?」
「さっき、おはなしした」


今まで喋らなかったのが嘘のように会話が成立している。やはり結月は障害があるわけ
ではなくただ言葉を口にしなかっただけなのだ。だけど結月の話す内容は理解できない。
なぜなら今さっきまで蓮は手術中だったからだ。


「さっきじゃなくてずっと前じゃなくて?」


と爽子が聞くとぶんぶんっと結月は首を振る。そしてもう一度”さっき”と言った。
さっきの意味が分からないわけではないようだ。二人は首を傾げながらもそれ以上追及
しなかった。それよりも今はただ、次々に紡ぎだされるかわいい声に感動が止まらない。


「爽子・・・」
「翔太くん・・・」


二人をウルウルした目で微笑みあった。こんな日がいつかくると信じていたがまさかこ
んなに突然来るとは。お互い自然に抱き合う。結月がハイハイした、立った、その一つ
一つ感動だったが、言葉を発することは特別だ。これほどすごい威力があるとは・・・
二人は同じ気持ちでその感動に浸っていると結月がまた喋った。


「れんとこ、いく!!」
「え??ゆづちゃん?」


そう言ってぴょんっとベッドからジャンプすると結月は軽やかな足取りで蓮の病室に向
かう。爽子は涙で潤んだ目をゴシゴシ擦ると慌てて結月を追いかけた。


「あっ・・ゆづちゃん、蓮さんはまだ会えないよっ!!」


すると結月は立ち止ってくるっと爽子たちの方に向くとにっこりと笑って言った。


「もう、おきるよ」
「え??」
「だってゆづとおやくそくしたから」
「???」


二人は訳が分からず目が点のまま呆然と結月の後ろ姿を眺める。そしてハッとして結月
の後を追った。


「ゆづ〜〜だめだってっ!!コラ」


翔太が慌てて追いかけると前から看護師が歩いてきた。


「あ、川嶋蓮さんのお知り合いの方ですよね?」
「は、はい」
「川嶋さん、目覚められましたよ」
「えっ!?」


ICUに移された蓮が目覚めたと。二人はさらに呆然としたまま動けなくなった。その
隙にも嬉しそうに走って行く結月。翔太は結月の後ろ姿を見ながら呟いた。


「爽子・・・やっぱりこの世は不思議に満ちてるよな」
「うん・・・」
「とにかく行こっか」
「う、うんっ」


二人は結月の後を追い、蓮の病室に向かった。


* *


包帯に巻かれて痛々しそうな蓮が薄ら目を開けていた。


「れ・・ん・・・!!」


結月は嬉しそうに駆け寄った。表情を上手く変えられないだろう蓮が弱弱しく笑う。そ
の姿がやっと会えたと言う風に見えた。さっきまで蓮と会っていたという結月の話は本
当だったのだろうか?と思えるほどその姿は自然に見えた。


「蓮・・・」
「蓮さん・・・」


そして蓮はゆっくりと二人に目を向けると声にはならないが”ありが・・とう”と口を動
かしたのが分かった。爽子は思わず涙ぐむ。


「ありがとう・・はこちらの方です。結月を助けて頂いてっ・・本当に・・ありがとう
 ございました!蓮さんっ」


爽子ははらはらと涙を流すと深々と頭を下げた。翔太も頭を下げる。


「蓮・・・助かったからな。もう大丈夫・・結月を守ってくれて、ありがとう」
「・・・っ」


密かに蓮の目尻が下がった。その姿に蓮は生きているんだと実感した。翔太は必死で涙
を堪える。その奇跡を噛みしめるように目に力を入れた。


「ありがとうぅ・・・っ」


堪えていた涙が溢れだす。翔太は結月に言葉を与えてくれたのは蓮だと確信していた。
輸血中に感じたあの感覚を覚えているから。


それはまさに”感覚”でしか表現できなかった。パァッと温かい光が差し込んで蓮を包み
こんでいた。見えたわけではなく、そう感じただけ。そしてその時なぜか確信した。


”蓮は助かる”・・・と。


それが結月に関係しているのか分からない。でもあの時、科学や医学では説明できない
まさに奇跡が起こったのだ。そんな気がした。人は目で見たもの、説得力のある事実だ
けを信じがちだが、それは未知なるものは恐怖でしかないからだ。でも翔太も爽子も結
月に出逢ってからさらに目には見えない真実がこの世にはあるような気がしていた。


(・・蓮・・)


蓮と話したい。今度こそすべて腹の底から話せる。そして全てが分かる時がくる。
その時は近くまでやってきていると翔太は思った。


今度こそ蓮と向き合える。きっと・・・



翔太はぎゅっと強く蓮の手を握った。弱弱しくも握り返された感覚を翔太は一生忘れ
ないだろうと思った。






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あとがき↓
本当にここまで来てようやく結月に喋らせることが出来た。しんどかった〜〜!結月は
より爽子よりな設定。でも実は翔太のような華やかさの一面もあるようにしたかった。
(最初の設定)まぁ、二人の子なので前向きなのは間違いないです。