「Once in a blue moon」(89)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 の続きです。 

☆ 事故をきっかけに向き合うことを決めた蓮。それぞれの想いとは・・・?













・‥…━━━☆ Once in a blue moon 89 ‥…━━━☆












春・・・桜が蕾の頃、結月は小学校へ入学した。蓮には残念ながら式は見てもらえな
かったがその足で病院に駆け付けた。晴れ姿の結月を蓮は父親のように嬉しそうに見
ていた。二人の絆は以前より深くなっているようで、見ていてとても微笑ましい。


ちらちら・・


「きれい・・・」


爽子は洗濯を干しながら風にのって舞い散る花びらを見上げる。結月は楽しそうに近
所の友達、京香ちゃんと毎日登校している。言葉を持った結月は内に秘めていた思い
を全部吐き出すように快活で今までの大人しい印象を払拭させている。元々前向きで
本当は人が大好きなのだろう。大好きなのに上手く表現出来なかった自分とは違い、
今は結月の周りには人が寄ってきている。爽子はそんな姿を見ていると・・・


(やっぱり翔太くんの子だなぁ)


なんて思うのである。でもやはり繊細で、人の心に敏感なところは持ってる。
あの事故は結月にとってもそして蓮にとっても何らかの転機であったことは確実だ。


ちらちら・・・


蓮さんも桜の木を眺めているだろうか


爽子は神秘的とも言えるこの風景を見つめながら蓮のことを思った。結月と蓮・・・
二人の間に起こったことを知りたいという気持ちはあるが、元気な結月と穏やかな蓮
を見るとこれ以上掘り返したくないと思う。言葉より今の現実が答えなのだから。


・・・だけどこのままじゃいられない


麻美の泣き顔がずっと脳裏から離れなかった。
まだ何も向き合っていない。あれから普通に接しているが翔太が、そして蓮がどう考
えているか爽子には想像がつかなかった。そして自分の想い・・・
自分のうちにある感情を翔太に伝えなければいけないと思う。でもそのことを考える
だけで体中に震えがおこる。ただせさえ言葉で気持ちを伝えるのが下手な自分が大事
なことを一番分かってもらいたい相手にちゃんと伝えられるのか・・・?
前向きな爽子も正直自信がないというのが本音であった。


もし、誤解が生じたら・・・


とくん・・


爽子は苦しかったあの頃の感情を思い出し、胸に鈍い痛みを感じた。初めて大きくす
れ違ったあの頃・・・翔太に誠実でありたいと思うほど、苦しくなる自分がいる。


(絶対あんな思いはさせたくない・・っ)


爽子はぎゅっと手に持った洗濯物を握りしめると、せつない眼差しで散り行く桜の花
びらを眺めた。



* *


「きれいだな・・」


蓮は舞い散る花びらをぼんやり眺めなが呟く。ふと聞こえた呟きに翔太は目を見張った。


「なに?」


蓮が不思議そうに聞くと翔太は苦笑いして言った。


「いや・・ほんとに変わったな蓮。今までの付き合いでそんな呟き聞いたことないよ」
「そっか・・そーかもな」


蓮はふっと薄ら笑いを浮かべた。
それは自分でも自覚があった。翔太が来る前にそんなことを考えていた。見る世界が
変わったことに自分でも驚いている。結局俺は自分の作る世界に固執していただけだ。
そんなことも分からず沢山の人を傷つけてきた。


「なんか分かるな・・」
「え?」


横を見ると桜を目を細めて見上げる翔太がそう呟いていた。蓮は不思議そうに翔太を
見つめる。


「やっぱ変わるよ。ゆづが喋る前と喋った後では俺も全然違うような気がする。そん
 なことを考えると自分では意識してなかったけどずっと言葉を待ってたのかな」
「・・望んで当然だろ、親なら。病室で”とーちゃ”(ゆづの父の呼び方。ちなみに
 母は”かーちゃ”)って呼ばれた時の翔太の顔・・見てらんなかったよ」
「蓮っ・・///っさいよ」


二人は以前のようなやり取りに、懐かしそうにふっと笑い合う。
蓮はまだ結月の話は何もしていないはずなのに同じ感覚で話している翔太に嬉しくな
った。同じ世界観の中にいると実感する。人は奇跡を目の当たりにした時、想像なん
かを遥かに越した感覚が生まれることを俺達は知ったからだろう。
言葉で説明できないことがこの世にあることを・・・


「風・・気持ちいーな」
「あぁ・・」


空を見上げながらの蓮の呟きに翔太も同じように目線を空に向け答える。
蓮は静かに目を閉じると心を落ち着かすようにしばらくの間黙想した。そしてそっと
目を開けて大きな桜を見上げながらポツリと言った。


「翔太・・会いに来てくれてありがとう」
「・・・え?」


想定外の言葉に翔太が驚いたように振り向くと、蓮は柔らかな笑みを浮かべていた。


「諦められても不思議じゃないのに」
「・・何言ってんだよ。命の恩人が」
「そんな大袈裟な」
「いや、大袈裟なんかじゃないよ。爽子も俺も本当に蓮には感謝してる」
「考えるより体が勝手に動いたとしか言いようがない。俺にとってゆづは絶対的存在
 だったからさ」
「・・瀬戸さんよりも?」


二人は視線を合わせたまま無言なる。そして蓮はその質問には答えず再び桜を見上げ
て語り出した。


「俺、この半年色々な国を回って旅をした。もう、限界だったんだ」
「限界?」


翔太が眉を顰めて言うと、蓮は翔太の方に真剣な目を向けた。その真っ直ぐな目に翔
太は身構える。


「お前たちの側にいること」
「!」


場の空気が一瞬凍りつき、翔太の瞳が揺らぐ。キラキラと輝いている翔太の目を曇ら
せたくなかった。翔太はずっと光の中を歩いて欲しかったから。俺とはまるで違う。
だからこそずっと自分を出せなかった。


だけど・・・


もう、何も偽らない。ゆづがくれた勇気を無駄にしないためにも・・・





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あとがき↓

蓮の告白を書いていたらやばい・・100話いくんじゃないの・・って思ってきた。
だってこれだけで終わらないのにぃぃ・・ひぃ〜〜いつも引っ張ってすんません。
あ、遅れながらあけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
細々とやっていきますよ〜〜♪