「Once in a blue moon」(69)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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☆蓮は夢の中にいるかのように素直に想いを口にする。その時、視界に映った存在とは!?














もし、bluemoonに出合えたら何かが変わるような気がしていた。
でもそれは俺の逃げだった。ただきっかけが欲しかったのだ。


俺のような卑怯で弱い人間には出合えない。


once in a blue moon






・‥…━━━☆ Once in a blue moon 69 ‥…━━━☆











「ゆ・・づ」


声になったかも分からない。絞り出したような声が震えているような気がした。
ツインルームのもう一つのベッドに結月が座って顔だけこちらを向いていた。


どくっ


(夢なんかじゃない・・・っ)


蓮は一気に現実に引き戻された。
小さな灯りでは表情が分からない。だけど無表情な気がした。心臓が痛いというのは
こういうことなのだろう。頭が真っ白だ。


どくん


結月の顔を直視できなかった。それ以上の言葉を口にも出来ずに俺は無言のまま再び
横になった。爽子の手からそっと自分の手を退けながら・・・


ピロロ〜〜ン♪


静寂の中響く携帯音に蓮はびくっと身体を揺らした。こんなに動揺している自分自身
に初めて会った気がした。その音に爽子はやっと目を覚まし、バッと身体を起こすと
ぼーっとした頭を必死で覚醒させるかのように頭をぶんぶんと振った。


「わ、私っ・・・寝てた!っ」


爽子は慌てて携帯音が鳴っている自分のカバンを探した。側にあるのに慌ててカバン
を探せない。蓮は布団を目深にかぶる。そして、ドクドクドクッ・・・と見た目にも
分かる心臓の激しい動きを布団の中に隠した。


ばたばたっ


寝ぼけ眼で爽子は必死でカバンを探す。そしてやっと見つけると携帯を取り出し、通
話ボタンを押した。


「は、はいっ・・・ごめ、なさいっ・・・爽子です」
『爽子??』
「あ、翔太くんっ!」
『大丈夫?なんか声変だけど』
「あっ・・・うたた寝していたみたいで』


(うわぁぁ・・しまったぁ。寝てた)


爽子はこの状況で寝てしまったことに羞恥心を覚え、焦った様子で蓮の様子を窺った。


『蓮大変なんだって!?今、携帯見て、めっちゃ焦った!!』


翔太は仙台の同僚と飲み会だったが、携帯を家に忘れてしまい、爽子のメールを見る
のが遅くなったことを本気で悔やんでいる様子で言った。


『で、蓮を見ててくれたの?蓮は?』
「ずっと眠ってるの。熱が40度あって・・でもホテルでお医者さんを呼んでもらっ
 て診てもらったから大丈夫そうだよ」
『そっか・・・良かった』
「うん」
『・・・・』
「・・・・」


その後、なぜか翔太が無言になり電話口で沈黙が続く。


「翔太くん?」
『あ、ごめん・・ちょっとね』
「?」
『とりあえず行くわ』
「うんっ!ゆづちゃんもいるからね」
『分かった』


ピッ


(良かった・・・これで一安心)


爽子はほっとした。蓮は相変わらず眠っている。おでこに手を当てると、まだまだ
熱い。アイスノンを交換しながら先ほどの蓮の様子を思い浮かべた。夢の中でも苦
しみ続けている蓮。その心情を思うと胸が痛んだ。


とくん・・


それと同時に思い出す、あの熱い感情。


(私、どうしたんだろう)


爽子はあの時の感覚が蘇ると胸のドキドキが止まらなった。


ぎゅっ


「!」


その時、後ろから結月がぎゅっと爽子の腕を握っていた。


「・・ゆづちゃん!?起きたの?」


結月はじっと爽子を見つめるとそのまま爽子に抱きついた。


「ゆづ・・ちゃん?」


蓮が心配なのだろう。結月は泣きそうな表情で爽子にくっつく。爽子は結月の方に身体
を向き直し優しく包み込むように結月を抱きしめる。


「大丈夫だよ。もう心配しなくていいんだよ」


ポンポンと結月をあやしながらさきほどの結月の行動、不思議な感覚を思い出す。生
まれた時から少し不思議なところはあった。赤ちゃんの時は誰でも感覚が研ぎ澄まさ
れていて、お腹の中の記憶があったり、霊が見えたりするという。でも段々と大きく
なるにつれて消えていくという。それは俗世間を知っていくからだろう。でも結月は
何かを恐れている・・・?恐れているのは俗世間?


「さっきのは・・・なぁに?ゆづちゃん」


流れ込むような感情。


爽子はそっと結月の身体を離すと、立膝のまま結月の顔を覗き込んだ。お互い真っ直
ぐ視線を合わせる。


「ねぇ?どうしておしゃべりしてくれないの?」


結月の瞳が揺れる。結月は言葉を発せられるが喋ろうとしないだけだではないか?と
最近爽子は感じていた。と言って字がまだ書けるわけではない。だから肝心なことは
伝えられないはずだ。想いを分かってもらうことを求めていないのだろうか・・・。
諦めているのか。


(そんなの・・悲しいよ)


「おかあさん・・・じゃ、だめなのかな」


爽子が沈んだ目をして小さな声で言うと、結月は瞳を潤ませてぎゅっと唇を噛んだ。
否定も肯定もしない結月に爽子は哀しげな表情を浮かべた。こちらの言うことは理解
しているのに何も答えてくれない。”なぜだろう・・・?”
子どもの前では涙を見せたくないと思っているのに涙が溢れて止まらなかった。娘を
分かってあげられないもどかしさ。


「・・・くっ・・っ」


いつもはこんなことは思わない。不思議なほど、感傷的になる夜だった。
色々な想いが交差したからなのか。


「!」


結月の唇がそっと爽子の涙が伝う頬に触れた。一生懸命愛情表現してくれようとする
娘に爽子は驚いたように目を見開くと、その瞳からもっと大粒の涙が溢れだす。


「ゆづちゃん・・・」


結月はそんな爽子の姿を見て、唇を震わせて口を微かに動かそうとしていた。しかし
言葉を発することは出来ずに、俯いて泣いている爽子には何も伝わらなかった。
二人の様子を垣間見ていた蓮。結月の初めて見せる姿に内心驚いていた。


(ゆづ・・?喋ろうとしている)


そもそもなぜ結月は喋らないのか?知的にも身体的にも問題ないと聞いている。発語
がないだけ。蓮もまた、言葉は持っているのにただ喋りたくないのだと思っていた。
だが、それもただの憶測に過ぎない。今まで翔太達はそんな結月を受け入れていたが、
年齢がいくに連れて不安になるのは当然だと蓮は思った。特に母親は・・・


でも・・・喋ったらどうなるんだろう。


(・・・っ!)


俺・・今、何考えた?


ドクッ


蓮はあまりにも自分勝手な考えが脳裏に浮かび、瞬時に自身を恥じた。一瞬、先ほど
の結月の姿が思い出された。今、喋って欲しくないと思ってしまった。


もう・・限界か。


蓮は布団を目深にかぶると、暗闇の中に身を埋めた。すべての歯車が狂い始めている。
結局、何一つ守ることなど出来ない無力な自分。
北海道に転勤が決まった時、心に過った不安を頭の隅に押しやった。大丈夫だと思っ
た。今まで通りやっていけると。だがそれは自分への奢りに過ぎなかった。


ただの奢りに・・・




夜空には雨上がり、霞みがかった月が浮かんでいる。半分の月。
爽子は結月を抱きしめながら窓から見える月を眺めた。ホテルの下に到着した翔太も
また、その月を見上げる。半分の月。Half moon
それぞれの想いの中、夜が更けていく。








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あとがき↓

暗いわ・・暗い。一気にいきます!