「Once in a blue moon」(86)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 の続きです。 

☆ 蓮の手術で輸血が必要になり、翔太が手術室に入った。その時蓮は・・・?












お、なんか浮いてる


って思った。なんだろう・・・この感覚。力をいれなくても楽にいられる。ふわふわ
と浮いているような、経験はないけど宇宙服を着て銀河系で浮いているような感覚。
自分の身体が羽のようだ。


なんか、きもちいーわ・・


何のしがらみもなく、このままいられたらなんて幸せなんだろうと思う。もう何も考
えなくていいんだ。そんな俗世間から解放される。やっと解放される。
俗世間?なんだっけ・・・俺は苦しかったのか。


なんだっけなぁ


でも、もういい。もう苦しまなくていいんだ。終わったんだ。
ずっとこうなりたかったんだ。
もう楽になりたい・・・


何もかも終わったんだ


すべて・・・終わった



え?


(・・・え?)




・‥…━━━☆ Once in a blue moon 86 ‥…━━━☆















手術は無事終わった。翔太が手術室に入って4時間後のことだった。思ったより内臓の
損傷がひどかったと医師は告げた。一時危なかったが峠は越えたと。


”『もう大丈夫ですよ』”


と言う医師の言葉を聞いた時、爽子の体中の力が抜けた。まさに脱力すると言うのはこ
ういうことだ。知らない間に全身に力が入っていたらしい。一番気になる後遺症につい
ては今回頭を打っていなかったので不幸中の幸いだったと。左足を打っているので歩行
訓練は少し必要かもしれないが今まで通りの生活に戻れるとのことだった。医師は最後
に少し躊躇して首を傾げながら言った。”でも、不思議なんです”・・と。その不思議な
理由を聞いて爽子も首を傾げてしまった。


* *


かちゃっ


「翔太くんっー!」


翔太も目覚めて手術室から出てきた。爽子は勢いよく駆け寄る。翔太は変わらない様子
でいつも通りの笑みを浮かべた。


「大丈夫・・・蓮は大丈夫だよ」
「・・っっ」


その言葉に爽子もその様子を心配そうに伺っていた両親達も安堵の表情を浮かべた。両
親達の姿を確認すると軽く会釈した。


「色々ご心配お掛けしました。ゆづも元気だし、友人も何とか大丈夫です」
「翔太くんは何ともない?」
「はい。丈夫ですから!」


翔太は元気よく答えた。両親達は翔太の元気な姿も確認し、やっと落ち着いたようだ。翔太
の母もホッとしたように言った。


「役立って良かったわね。お父さんも心配してたわよ」
「父ちゃんが?」


翔太は思わず吹き出した。あまのじゃくに心配している姿が想像出来たからだ。


「爽子、ゆづちゃん連れて帰ろうか?」


母に言われ爽子はふるふると首を横に振った。


「ゆづちゃん、多分蓮さんに一番に会いたいと思うから」
「・・そう」
「うん。ごめんね」
「じゃ、落ち着いたらまた連れておいで」
「爽子ちゃん、うちにもね」


両親達に言われて爽子は頬が緩んだ。二人は深々と頭を下げて両親達を見送った。もし
結月に何かあったとしたら今、こんな気持ちではいられなかっただろう。考えただけで
恐ろしい。爽子は蓮に感謝せずにはいられなかった。


「翔太くん身体もう大丈夫?」
「うん、全く問題ないよ」
「良かった」
「少しでも蓮の助けになったとしたらこれほど嬉しいことない」
「翔太くん・・・」
「ずっと・・・蓮のために出来ることはないかって思ってたから。ま、ゆづを助けても
 らって当たり前なんだけど」
「・・・・」


二人は結月が寝ている病室に向かって歩いていた。


「・・・・」
「爽子?」


黙り込んで何やら考え込んでいる風の爽子を翔太は不思議そうに見つめた。


「ねぇ、翔太くん」
「ん?」
「お医者さんが言ってたんだけど・・・」
「ん」


爽子は先ほど医者が言ったことを伝えていいのか、まだ自分の中でも消化しきれていな
い話をどう伝えたら良いのか・・・と言葉を選びながらぽつり、と話し出した。


「その、蓮さん・・・最初は危ないと言う状態じゃなかったそうなんだけど」
「え?何ソレ?」


爽子はう・・んと顔を顰めた。そして医者の言っていたことをそのまま伝える。医者が
言ったこと、それは蓮は死に至るような状態ではなかったと。確かに事故で体中傷を負
ってしまったが、最初は輸血するまでいかないと思っていたが、手術しているうちにど
んどん様態が悪化していったということだ。


「悪化・・・?」


翔太は思わず身を乗り出した。


「どういうこと?」
「分からない・・・でも結果的に翔太くんに輸血されて一気に持ち直したって。本当に
 良かった・・」
「・・・」


今度は翔太が黙り込んだ。無言の翔太を見上げた爽子は翔太の神妙な顔に驚いた。


「翔太・・くん?」
「あっ・・ごめん」
「何か、あった?」
「いや・・。上手く言えないからもうすこし頭ん中整理してから話すよ」
「?」


翔太はきょとんと不思議そうな顔をしている爽子にいつもの笑みを浮かべるとぎゅっと
手を握って”早く行こ”っと結月の寝ている部屋に促した。そしてそっと戸を開けるとベ
ットにちょこんと座っている結月の姿があった。


「ゆづちゃん!!起きてた?」
「ゆづ〜〜っ蓮、助かったよ!」


二人が駆け寄り、結月の顔を覗き込むと結月はにっこり笑ってコクンと頷いた。


そして・・・



「れん・・・あった」
「「ー!」」


結月が口を開いた。一瞬二人は固まった。その声が結月から発せられたというものだと
言うことが信じられずに、部屋中をぐるっと見渡す。そして再び結月に顔を向けた。


「「え・・・」」


するともう一度、同じ声が聞こえた。


「れん・・あったよ」



それは初めて聞く、かわいい声だった。






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あとがき↓
不思議話続く・・・いつ結月に喋らそうと思ってましたがやっと・・長かった(汗)