「Once in a blue moon」(68)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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☆ 高熱で倒れた蓮を見つけたのは結月だった。二人が見守る中、蓮の長い夢は続く。
 そんな中、涙を流している蓮を励まそうと結月が爽子と自分の手を重ねる。そこ
 から感じた蓮の気持ちは・・?最初爽子目線、次に蓮目線です。













・‥…━━━☆ Once in a blue moon 68 ‥…━━━☆













すごく不思議な感覚だった。自分の気持ちとは別に違う感情が流れ込むような。
温かくて愛しい感情。そして熱くて激しい燃えるような感情。


”さわこ”


名前を呼ばれる度に、あなたの笑顔や熱い眼差しを見つめる度、触れられる度に・・・
私の胸の中に生まれる感情。
そう。これは経験したことがあるもの。翔太くんに出会った時からずっと私の中にあ
るその感情だった。自覚した時からドキドキが止まらなくなって、きゅんっと胸が痛
くなる。愛しくてせつない気持ち。


それを恋愛感情という


どくん、どくん・・・


”翔太くん・・?”


手から感じられる温もりは翔太くんのもの?
いや、違う。この苦しくて悲しい感情は。どうしてあなたは涙を流すの?傷ついた心
はどうやったら癒されるの?
神さま、どうか大好きな人をこれ以上苦しませないでください。
どうか・・・!!


この温かい感情を守りたい。この感情がある限り、あなたは幸せになれる。だからも
う苦しまないで。


幸せに・・・なって



* *



なんだろう。温かい何かが俺を優しく包み込んでいる。先ほどの痛いぐらいの苦しい
感情から解き放たれていく。そうか・・・君がいるんだ。


あの時と同じだ。乾いた土に水が注がれる。あぁ・・・満たされていく。
ずっとこうやって満たされたかったのか。


あたたかい・・・
ずっとこのままでいられたらなんて幸せなんだろう
この夢の中でずっといられたら・・・


「ん・・・」


幸せだと・・・感じていいんだ。
そうだよな?


「・・・っ」


視界が段々はっきりしていく。真っ暗な部屋に小さな明かりが一つ。蓮は横になり、
呆然とただ天井を見つめていた。全く、今どこにいるのか何をしているのか分からな
かった。夢か現実かさえ・・・。


(なんだ・・・?やたらと身体が重い)


朦朧とした意識の中、蓮は身体を起こそうとすると何か温かいものが自分の手に触れ
ているのに気付いた。


「・・・っ!!」


(え・・?)


蓮は思わず目を疑った。小さな明かりにほんのりと照らされる爽子の寝顔。そして手
の温もり。蓮は状況が分からず必死で記憶を辿る。


(これは夢なのか??・・)


確か、部屋に入って色々考えているうちに記憶がなくなった。ここはホテル。麻美は
先に帰ってしまい俺だけが残された。身体の異様な重さから見て高熱があるようだ。


(そうか・・俺は倒れたのか?でも・・なぜ?)


なぜ爽子がここに居て、自分の手を握っているのか。蓮はこのあり得ない状況に困惑
していたが爽子の手を離せなかった。なぜかこの部屋に二人きり。そして寝ている爽子。
もう一つの手を自分の頬に当てると濡れているのに気付いた。


(俺は泣いていたのか・・?)


長い・・・夢を見ていたような気がする。朦朧としている意識の中、苦しい感情と優
しい感情が入り混じっているような不思議な夢。蓮はそっと爽子の髪に触れた。指先
から感じる爽子の温もり。


「・・・」


このあり得ない状況を蓮はなぜだか自然に受け止めていた。こんなことあるはずがな
いのに。もしこんな偶然が起こったとしてもいつもならこの状況をすぐに打破しなけ
ればならないと必死になるだろう。でも今は夢の続きとしか思えなかった。
束の間の夢の中。
この温もりを俺はずっと求めていたのだ。枯渇していた心に水が注がれる感覚を初め
て知った時からずっと・・・守らないといけないものは何だったのだろう。何を必死
に守っていたのだろう。


「あの時もこうして・・寝ていたな」


蓮は無防備な爽子の姿を優しい眼差しで見つめると、5年前を思い浮かべた。
あの夏の日を・・・


「ん・・・」
「・・っ!」


その時、爽子の手がぴくっと動いた。蓮はハッとして思わず身構える。だが、爽子の
目は開かれることはなく口だけが微かに動いた。その声は蚊の鳴くように小さな声だ
ったが蓮にははっきりと聞こえた。


「・・・っ幸せに・・・なって。大切・・だから・・」
「!」


そして爽子の目尻から一滴の涙が零れた。
ただの寝言だと分かっていても、今の蓮には十分だった。思わず身体が震える。
蓮はなぜだか自分に向けて言われていると疑わなかった。
愛おしそうに爽子を見つめると、白い頬にそっと触れた。


「・・こんな機会はもう二度とないから言っとく。寝てるあんたに卑怯だけど」


今だけ・・君が寝ている今だけ、素直に口にしたい。まだ夢の続きを見たかった。
もう少しだけ夢の中で。


「好きだって・・」


自覚して、苦しむことしか出来なかった。それが本当の気持ち。


「こう言うと、あんたは”私も好きです!”・・なんて言うだろ?」


蓮は独り言をいうとふっと想像して笑った。爽子の真っ赤になって一生懸命な顔が思
い浮かぶ。


「・・違うよ。あんたのこの世で一番大事な存在と同じだよ」


小さな明かりが灯っているだけの暗い部屋に蓮の低い声だけが響く。その顔は満たさ
れていた。


「恋愛感情・・って言うんだ。麻美の言う通り・・」


スース―眠る、爽子の寝顔に蓮はそっと呟くように言った。そして今まで禁句のよう
に言えなかった言葉を口にする。


”さわこ”


「・・さわこ・・」


口にすると想いが溢れそうだったから。でもずっと呼んでみたかった。その名前を口
にするあいつは本当に幸せにそうに笑う。


今、俺は笑っている。夢の中なんだ。だから呼ばせて欲しい。


「・・・さわこ」


寝ている爽子が少し笑った気がした。幸せそうに笑う。翔太に呼ばれた時のように。
誰よりも優しい君を困らせたりしない。したくない・・・ずっと翔太の隣で笑ってい
て欲しいから。今・・・この時だけ。


蓮はまるで何かに憑りつかれたように爽子に吸い込まれていく。何のしがらみもなく、
苦しみもなく、ただ感情のまま爽子に顔を近づけた。


その時ー


ドクッ


視界に映ったものに蓮の夢が一気に醒める。蓮は無意識に身体を起こした。


バッッー


身体中に電流のようなものが一気に通り抜ける。

まるでそれは夢から現実へ戻れと言う合図のように・・・・






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あとがき↓

あとから修正するかもですがとりあえずUPしちゃえ〜〜!問題シーンですね。
一人で盛り上がっちゃってますが(笑)