「七夕の夜に想うこと」

これは長編にある「Half moon」という話の爽子と風早が遠恋の時の話です。
七夕ということで思いつきで書いてみました。爽子目線です。以下からどーぞ↓

























「今日七夕じゃん」

「すっかり忘れてた〜〜。何かお願いごとしなくちゃ」

「あんた欲深いから一つにしなよ〜」

「なによ〜〜っ」


あははっ〜〜


(どきっ!)


会社帰り、通りすがりの女子高生の会話が耳に入った。爽子は”欲深い”と言う言葉に
反応し、それは自分のことだと思った。3ヶ月ぶりにやっと仙台の風早くんに会えた。
会える日をずっと楽しみに待っていた。そして会ったらあっという間に時間は過ぎる。
もっともっと・・・と以前よりずっと欲深い自分が顔を出す。


(あ”ぁぁっ・・・)


「だめだな・・私。まだ一週間しか経ってなのに」


仕事が終わってもまだ日が高い夏の夕暮れの中、爽子はがくっと肩を落としてひとり
言を呟いた。いつも頑張って仕事をして会える日を楽しみにしている。でも何だろう。
”七夕”というだけでロマンチックに感じるからだろうか。今夜は妙にせつなくなる。


あれは大学生の時だった。一緒に七夕の夜空を眺めた。北海道では天の川がよく見える。
それはとてもきれくて、このまま永遠に時間が止まればいい・・・と思ったのを覚え
ている。




★゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・



『ねぇ、七夕の話知ってるよね?どんなだっけ』


二人で河原に座りぼんやりと夜空を眺めていた時、風早くんがぽつりと言った。


『うん。織姫も彦星も最初は働き者だったのに結婚すると夫婦生活が楽しくなって
 働かなくなったから天帝が起こって二人を引き離したんだよね?』

『さすが爽子。やっぱ詳しいね』

『あ、こういうおとぎ話や神々の話など大好きなので・・』

『俺は七夕の由来を最近ちゃんと知った』


そう言って風早くんはいたずらっぽく笑った。こんな顔も大好きだなぁ・・と思う。
お付き合いさせてもらってから色々な風早くんを知ったけれど、どの顔も好きで
もっと知りたいと思う。


そして風早くんは天の川を見上げて言う。その目はちょっぴりせつなく感じた。


『俺さ、彦星?の気持ちわかるなーって』

『え?』


そして風早くんは視線を私に移した。その熱い目にどきりっと心臓が鳴った。


『だってさ、俺もし・・・もし爽子と夫婦になれたりしたら、こうなりそうで怖い。
 ずっと一緒に居たくて我慢できなくなったらどーしよって』

「っ・・///」


風早くんはにっこりと笑って言うけれど、そんなことを言われた私の心臓は今にも
爆発しそうっ!!どきどきどき・・・風早くんに聞こえそうな心臓の音を隠すよう
にぎゅっと胸を抑えた。


あの時思った。私も我慢できないんじゃないかって。想像ならこんな夢も描いたり
できちゃうんだって・・・幸せだなって。



★゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・



爽子はその頃のことを思い出しながら帰り道を歩いていた。最寄駅に着くとすっか
り夜空になり、空には星が輝いている。天の川が見える河原までちょっと寄ってみ
たくなった。七夕の特別な夜。織姫彦星は一年に一回しか会えないのに自分は本当
に欲張りだと思う。


「うわぁ・・・きれいっ」


この日はよく晴れていたので星がきれいに見えた。天の川がかかった夜空はまるで
別世界のようだった。それは本当にきれいで、星空に飲み込まれてしまいそうで、
あまりにも神秘的な光景に息を飲む。


「っ・・・っ」


すごくきれくて、感動して・・・でもっ


「うぅっ・・」


私はやっぱり欲張りで、この光景を風早くんと見たくて涙が止まらなくなった。
隣に微笑む風早くんがいない。織姫はこんな気持ちになったのかな・・って。
遠距離になって3ヶ月とちょっとが過ぎた。今までどんなに落ち込んでも風早くん
の顔を見ると元気になれた。離れるっていうことはこういうことだったんだなぁ
と実感する。まだ3ヶ月なのに・・・こんなに自分が弱いなんて知らなかった。


その時、携帯音がなった。


Pipipi〜♪


カバンから携帯を出し、携帯の表示を確認する。いや、その音で分っていたの。
それはメールではなくて大好きな人の着信音。私の心臓はさらに加速する。


どくんどくん・・・


(ど、どうしようっ)


泣いているのを知られたくなかった。こんなに弱い自分を見せたくなかったの。
でも風早くんの声が聞きたくて・・・天の川を見ながら彼を感じたくて、私は
思わずボタンを押した。そして必死で声を整えて電話に出る。


(うん、大丈夫)


「あ、風早くん・・お仕事お疲れさま」

『爽子、今大丈夫?』

「う、うんっ大丈夫だよ」

「・・・・」


風早くんの返答がなく、少しの間、しーんとなる。


「風早くん?」

『爽子!』

「は、はい?」


”泣いてるでしょ”


風早くんは少し低い声で小声で言った。あぁ・・・やっぱり騙せなかった。でも思わ
ず尊敬してしまう。


(スゴイな・・・風早くん。相変わらず)


「ばれちゃいました・・・っ」

『何かあった?離れてるからさ・・全部知りたいんだ』


その声は弱弱しくて、なんだかせつなくなる。いつも風早くんは一生懸命私のことを
考えてくれて、心配してくれる。私はそっと夜空を見上げた。


「ううん・・・天の川を見ながら、会いたくなったの。風早くんに」

『爽子・・っ』


そしてどんな私も受け止めてくれるから、全部預けてもいいんだって思えるの。素直
に気持ちを言っていいんだって・・・


「この場所で一緒に見てたな・・って」


少しまだ涙声の爽子の声を電話越しに感じると、風早はしばらくの間黙り込んだ。
風早もまた部屋から夜空を眺めていた。あいにく、天の川は見えなかった。
でも同じ空を眺めている。


『離れるって・・・こーいうことなんだなって思う』

「うん・・・』

『爽子が泣いてても何もできないってこと』

「風早くん・・・」

『俺だって、別れた瞬間から会いたくなる。こんなにつらいものだって思わなかった」


哀しげな風早くんの声に距離を実感する。
いつものように拭ってくれる大きな温かい手はない。


「今日ね、すれ違った人に気持ちをいい当てられたような気がして恥ずかしかったの」

『気持ち?』

「うん・・欲張りなの私・・・」


ずっと側に居て欲しいって思ってる。

すると電話口の向こう側で笑い声が聞こえる。


「風早くん?」

『っ・・あぁごめん。いやさ、爽子が欲張りだったら俺どーなるんだろって』

「そ、そんなことないよ〜〜風早くんは欲深くなんかないよっ!」

『いや、俺爽子の何倍も欲深いから。だって俺の方が何倍も好きって自信あるもん』

「え〜〜〜私の方があるよ」

『いやいや、俺の全部見せてないモン』

「えぇぇ〜〜??」


あははっ〜


そんなことを話していると心がぽかぽかになってくる。いつもこうやって風早くんは
私を幸せな気持ちにさせてくれるの。声を聞いているうちに先ほど感じた寂しさが
段々と薄れていく。


(風早くん効果は絶大だなぁ・・・)


爽子が幸せな気持ちになりながら風早のすごさに感心していると、電話口で風早が改
まった口調で言った。


『ねぇ、一緒に天の川見ていた時さ・・・俺、彦星の気持ち分かるって言ったの覚えてる?』

「うん」

『爽子と夫婦になったらずっと一緒に居たくて働かなくなりそーだって』

「うんっ、うん。覚えてる」


あの時、夫婦って言葉にドキドキしたことも・・・・


『でもさ、社会人になって思うんだ。それ逆だなって』

「え・・・?」


そして風早くんは強い意志を持った口調で言った。


『守りたいって思うほど、ずっと一緒に居たいって思うほど・・・頑張らないとって

 思うんだ。そして力が湧いてくるんだ』


トクンッ


その声は少し大人っぽくて、大学生の時の風早くんと違ったような気がした。着実に
大人になっていく。私はいつも”今”を考え生きているつもりだった。でもいつの間に
か風早くんが新しい生活になって、そこに自分がいないことに不安を覚えていたのか
もしれない。いつも風早くんは気持ちをちゃんと届けてくれるというのに。
今がなければ未来はないのだ。このせつない気持ちもいつか想い出になるのかもしれ
ない。だからこそ、今を一生懸命生きたい。


「うん・・・私も頑張りたい」


私は天の川を眺めながら、気持ち新たに今を頑張ることを誓った。そして少し欲張り
なお願いごとを一つ。


”いつかそんな未来がきますように・・・”



(あわわっ♡ー願っちゃった・・・っ)




遠恋になって初めての七夕の日。私は少し強くなれた気がした。




(おわり)

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あとがき↓★゜・。。・゜゜・。。・゜☆

爽子ちゃんでもさすがに遠恋で不安になることあるでしょう。本誌の未来もそうなり
そうでずっと描いて欲しいって欲張っちゃいますね。爽子目線で書くと、ちょっぴり
風早がイケメンになる?なんてね。七夕の夜でした。なんか長くなっちゃった。
読んでもらってありがとーございましたっ!ヽ(´▽`)/★