「Half moon」(88)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

久々の再会を果たした二人。全ての誤解が解けた今、二人は同じ気持ちで抱きしめ合った。

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それではどうぞ↓






























* * *




二人はそのまま風早のアパートに向かった。アパートの一室で向かい合う二人。


2ヶ月間溜めていた想いを風早は躊躇いながら全て正直に話した。

風早は正直不安だった。沙穂とのことを許してもらえるのだろうか。何もなかったとは言え、

一緒に一晩過ごしたことは事実なのだ。しかし、爽子の反応は全く違った。


「私こそ・・・ごめんなさい」

「へ?」


風早は頭を下げている爽子を茫然と見つめた。


「私・・・風早くんに謝らなくちゃって・・・会ったら謝りたいって・・・」

「・・どうして?」

「あの・・その・・私、誤解をさせることをしてしまったので」

「あっ・・・そのことは俺がちゃんと爽子を信じることができなかった・・・俺が悪いんだ」


風早は表情を曇らせて言った。何より悔んでいることは嫉妬まみれになって一番大切にしたい

爽子の気持ちを見なかったことだ。いつも人に対して誠実で正直で、濁りのない水のような人

なのに。


爽子はそんな風早に申し訳なさそうに身を乗り出して言った。


「ううんっ・・・それもごめんなさい!なのだけれど・・・違うの」

「え・・・?」


俯いたまま何かを堪えるかのように黙りこんだ爽子を風早は不安そうに見つめた。


「さわ・・・?「田口くんのこと・・・」」

「!」


覗き込んだ爽子の口から聞こえた予想外の言葉。


ズキン


胸の奥に痛みを感じる。その時思った。田口のことは嫉妬とかできる立場ではないと秋山

さんに言った。でも実際爽子からその名前が出ると胸の奥が疼く。こんなことじゃまた同じ

ことを繰り返してしまうと分かっているのに・・・・。

でも、もう誤解はこれ以上絶対嫌だった。もう、逃げたくない。


風早はぎゅっと拳を握りしめると真っ直ぐに爽子を見た。


「田口と・・・・何かあった?」

「!」


いかにもびっくりした様子の爽子に風早は確信した。爽子が光平の想いに気付いたこと。

真剣な想い。それは自分と同じだった。爽子の内面に惹かれていると分かっているからこ

そ、不安を感じずにはいられなかった。

風早はごくっと喉を鳴らして真剣な目で爽子を見つめる。いつでも全てを欲してしまう彼女。

他の誰にも見つけられないで・・・・って言葉にできない想いをずっと抱えている。それは

付き合った時からずっと変わらなかった。


爽子は風早の真剣な目を見て、決心したように顔を上げた。


「あの・・・私、田口くんに想いを告げられました」

「!」

「それは、恋愛の好きだって・・・分かって、その、驚いたのだけれど・・・」


爽子は風早の真剣な目を真っ直ぐ見た。全部伝えよう。そのままを伝えようと仙台にやって

きたのだが、風早の目を見ていると不安に気持ちが揺らいでくる。こんなことを言っていいの

か?と自問自答しながらも爽子は言葉を続けた。


「わ・・私、本当に鈍感で・・・今まで田口くんのこと沢山傷つけたと思う。それから、

 風早くんのこと・・・」


爽子が申し訳なさそうに顔を上げると、大きな瞳からぽろぽろと大粒の涙が流れた。


「誤解させてしまって・・・不安にさせてしまって・・・そのっ・・か、彼女失格です」

「・・・・」


風早は爽子の姿にぼーっと見とれていた。田口のことなんかふっ飛んだ。そんなことどうでも

よくなるくらい・・・・っ!


「わっっ」


がばっ


ただ・・・たまらなく目の前の彼女が愛しくて、全てを包み込みたくなるこの感情。


風早は無心で爽子を抱きしめた。

この長いきれいな髪も、白い柔らかい肌も、ほんのりピンクに染まった頬もすぐに涙で濡

れる大きな瞳も赤いかわいい唇も・・・・全てが愛しい。


「かっ・・・かぜっ///「―っと言ってくれた」」

「え?」

「”彼女”って」

「あ・・・・う、うん」


抱きしめられながら自分の耳元で囁かれる風早の声に爽子は顔の火照りを感じる。


(ど・・・どうしよう。顔がどんどん熱くなるっ///)


「俺・・・信じていんだよね?俺だけが爽子を好きなんじゃないって」

「わ・・・私が風早くんを好きすぎるので・・・っ」

「そっ・・・そんなこと言われたらっ―「あっ・・だめっ!!」」


身体を離して、爽子の顔を覗き込もうとした風早に爽子は身体全体で拒絶するように声を

上げた。


「え・・・?」

「だ・・・だめっ・・・見ないで」


風早は、必死で手を顔で隠す爽子をしばらく見つめた後、本能のまま手を振りほどいた。

爽子がどんなに力を込めても風早によってあっさりと解き放たれる。


「あっ!!」


真っ赤な顔を見られ、さらに熱く火照る顔をどうしていいのか分からず、爽子は大きな瞳を

ゆらゆらと揺らして風早を見つめた。爽子は改めて風早の温もりを感じると、まるで初めて

触れられるかのようにどきどきが止まらなくなった。


「・・・もうっ」


風早は手を顔を覆うと、悶絶するように脱力した。指の隙間から見える風早の顔も真っ赤だった。


「あーっなんでっ・・・そんななんだろっ。だから隠したくなる・・・」

「え・・・・」


風早はさっと照れた顔を上げると真っ赤な爽子の頬に手を当てた。


「そんな顔されたらさ・・・どんな男でもやられるって」

「や・・やられる??」


風早は困惑している爽子の様子を見てくすっと笑った。


(ずっとこの鈍感さは変わらないだろうなぁ〜)


計算のない彼女が自然に振る舞う言動が男達に見つけられても仕方ないことだ。いくら爽子

に気をつけてと言ってもそれは難しい。他人の幸せを自分のことのように思える彼女は老若

男女、関係ないのだ。全ての人に誠実で全ての人に愛を注ぐ。だからこそ・・・信じたい。


「そんな顔・・・俺だけ?」

「え?」

「俺は・・・特別かな?」

「も・・・もちろんだよっ!」


爽子はぎゅっと拳を握りしめ、必死に訴えるように言った。


「風早くんは・・・ずうっと特別で、恋愛感情で・・・大好きなの」


風早は愛しそうに目を細めて爽子を見つめると、再び爽子を包み込んだ。


「わ・・・私、もう少し恋愛感情に気づけるようにっ・・・頑張るね」

「ははっ・・・うん。頑張って」


風早がくすっと笑うと、爽子は恥ずかしそうにはにかんだ。


「俺も頑張んなきゃ・・・爽子が男といても少しは冷静に見れるように・・・「−やっ」」

「え?」


爽子はさらに顔を真っ赤にすると、消えそうな声で恥ずかしそうに言った。


「いや・・・・そんな風早くんが好きなのでっ/////」

「・・・・・」


そのまま風早が悶絶して頭から湯気を出したのは言うまでもない。


そんな彼女が好きだ。高校の時から変わらない。俺はまた彼女と離れて暮らし、誰かに見つ

けられてないかな?とか男の下心に気付かないで親切にしてるんじゃないかなとか・・きっと

ずっとやきもきして過ごしていくんだろうな・・・。


風早は穏やかな表情で爽子を見つめると、そっと優しく爽子の唇に自分のを重ねた。


「好きだよ。爽子」

「私も・・・・」



風早の降りやまなかった雨はようやく上がった。


そして、半分の心は夜空の月と同じように full moon へと形を変えていった。


それぞれが持っている half moon 欠けた心は人とつながることによって形を変えていく。

人は一人では生きられない。そして、誰もが運命の相手とつながりたいと願っている。

half moon を心に抱えながら・・・・。














あとがき↓

詳しい誤解については特に描写しなかったです。お互い話し合ったという設定で。とにかく
幸せな二人なので終わったことはいいのです。でももっとべたべた書きたい。この日の爽子
の恰好がかわいいとか書きたかったのに・・・。入れられなかった(;´д`)トホホ…書きだすと止
まらないので(汗)話の流れ上、次行きます〜〜〜!いつもご訪問ありがとうございます!

Half moon 89