「Once in a blue moon」(54)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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47 48 49 50 51 52 53 の続きです。
 

☆ 麻美に「絶対好きになってはいけない人を好きなった」と言われた蓮は・・・?



















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 54 ‥…━━━☆
























ザーザー


「すごい雨だな・・・」


いきなり叩きつけるような強い雨に蓮は窓に目を向けて呟いた。麻美はそんな蓮の言葉

を受けるでもなく、蓮を見つめていた。次の言葉を待つように。

そんな麻美の視線に気付いた蓮は、再び麻美に視線を戻した。


「・・・何が言いたい?」

「ずっと何か分からなかった・・蓮が何を抱えているのか。なぜ幸せを貪欲に求めない

 んだろうって・・・」

「・・・・」

「幸せになっていいはずなのに。美穂さんも言ってた。蓮には幸せになって欲しいって」


そう言った麻美の表情がどんどん暗くなっていく。そして真っ直ぐ蓮を見ていた視線

が下に落ちていった。


「・・・麻美?」

「・・・・」


しばらく俯いていた麻美は意を決したように唇を噛むとバッと顔を上げた。


「美穂さんは・・美穂さんは・・っ」


ピカッゴロゴロゴロッ〜〜〜ッ


雷の光が大きな音と共に二人の顔を照らす。麻美の哀しそうだがしっかりと意志ある

目を蓮は暗い瞳で見つめ続けた。


「美穂さんは・・・・蓮が爽子さんと幸せになって欲しいって・・・言った」


ピカッッ


し〜〜〜〜〜〜ん


雷が光った後、部屋に水を打ったような静寂が広がる。

麻美は蓮の表情を逃さないように見ていた。かすかな動揺も感じ取れるぐらい真剣に

見つめる。しかし麻美の予想に反して、蓮は微動もせず表情が変わらない。


「・・・だからか」

「え?」


蓮はふっと笑うと小さくため息をついた。


「だから、ずっとお前変だったんだな」

「・・・・」


表情が変わらない蓮と対照的に麻美は驚嘆した表情のまま眉根を寄せた。


「あのさ、美穂は普通じゃないって聞いたんじゃないの?」

「普通じゃない・・・?」

「何でそんなこと信じるの?そんなわけないじゃん」


蓮は呆れたように言うとコーヒーを一口飲んだ。


「で、でも・・・っあの日、蓮はとても優しい目で爽子さんを見てた」

「あの日?」

「一緒に食事をすることになっていた日・・・」

「何?お前あの時居たの?」


麻美はハッとしたように手で口を覆った。蓮が睨むように自分を見ている。

その瞬間思った。私は蓮の一番嫌なことをしている。仙台の時もその時も・・・。


「ーうっ・・・」


麻美はたまらずぽろぽろと泣き出した。そして感情のまま想いを全部吐き出した。


「考えたこともなかった・・・美穂さんに言われてもあり得ないと思っていた。でも

 心の中ではずっと引っかかっていてあの光景を見た時・・・頭が真っ白になったの」

「・・・・」

「大好きだからっ・・・うぅ・・・二人とも大好きだから苦しくなったっ」


泣き崩れる麻美をしばらく見ていた蓮は、ふーっとため息をつくと麻美の震えた肩に

手を置き、そっと顔を覗き込んだ。蓮の目は冷静だ。


「・・・不安になるのは分かる。俺がそうさせてた。でも、麻美が俺以外の人間に聞

 いて勝手に解釈して悩んで・・ってのが俺には理解できない」

「!」

「よく考えてみろよ。そんなこと有り得ねーだろ?」

「・・・・・」


麻美は涙で潤んだ目をピクッとさせると、真剣な表情の蓮が自分を見ていた。その目

は深い海底の色のようだが、ほんのりと優しい。

様々な哀しみを乗り越えてきた瞳。自分よりずっと苦しい想いを抱えて生きてきた瞳。


蓮は優しく微笑むと麻美をふんわりと包み込んで頭を撫でる。


「俺はあの二人を見ていると幸せな気分になれた。ずっとあの二人は俺の憧れだよ」

「・・っっ」


麻美は声を殺して泣いた。いや、声も出なかった。ただ胸の奥が苦しくて。

もし、本当に蓮が爽子さんを好きだとしても絶対言葉にすることはないと思った。そ

れがどれほどの苦しみか分かるから。そんな感情があること自体蓮にとっては風早さ

んに対する冒涜、裏切り・・・そしてそんな自分を赦せるわけがないのだ。


本当に有り得ないことだ。違うのかもしれない。


だけどこの痛いほどの苦しみは蓮の感情。触れ合う肌から流れてくる気持ち。

どうしようもないほど哀しい気持ち。


「蓮・・・っ」


この時の私は今までの私と明らかに違った。

例え蓮の中でどんな感情があったとしても、もういい・・・って思った。


私は心のどこかであのきれいな爽子さんに嫉妬していた。その醜い感情と今まで戦っ

ていたんだ。その感情が一番私を苦しめていたことに気付く。

でも今違う。蓮の温もりを感じながら、全てを受け止めたいと思った。


美穂さんが言ったことが嘘であればいい。蓮を苦しめずに済むから。

でも、もし本当ならこの世にこんなに哀しい感情があるだろうか。神様はどこまで蓮

の幸せを遠のけるのだろう。蓮は十分に苦しんだ。なぜ試練をまだ与えるの?


言葉にできない想いが胸いっぱいに渦巻く。


「ごめんな・・・」


何も悪くないのに謝り続ける蓮。もうこれ以上傷つかないで。傷つけたくない。


麻美は不思議な感情に囚われながら、蓮と抱き合っていた。この時初めて蓮が小さな

子どものように感じた。


”この人を守りたい”


どこからともなく湧いた感情に戸惑うでもなく、麻美は蓮を優しく包み込んだ。


ずっとこの時抱いた感情が続くと信じて・・・。







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あとがき↓

恋から愛に変わると”守りたい”って感情が出てくるのかな〜と思います。今まで彷徨って
いた麻美が蓮を受け入れることで自分も楽になれるって場面です。さていつまで続くか。