「Once in a blue moon」(63)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 の続きです。
 

☆ 蓮の運命の相手が爽子と疑わない美穂の強さに二人は圧倒される。そのことを聞いた麻美は・・・?




















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 63 ‥…━━━☆



















一瞬、向こうの道路で車の流れが止まって静寂が3人を包み込む。蓮もすぐには口を

開けなかった。


”『爽子ちゃん以外、みんな一緒』”


「・・美穂、もういいだろ。もう遅いから戻れよ。おばさんも心配するから」


蓮は呆れた顔でため息交じりに言うが、美穂は引かない。


「蓮、怖いの?」

「・・・麻美、美穂は一回こだわったらそれから離れられないから、とりあえず帰ろう」


蓮は美穂と向き合うことはせずに、今はとにかく麻美を美穂から遠ざけようと思った。

麻美の肩を抱いてホテルの方に歩き出そうとするが、そんな蓮と反対に、麻美は身体

を硬くしたまま動かなかった。


「麻美?」


麻美は美穂しか見えないかのように、美穂に向かって真っ直ぐ歩き出した。そして美穂

の目の前に来ると立ち止まる。しばらく美穂を見つめた後、消えそうな声で呟いた。


「・・・どうして?」

「・・・」

「どうして、そんなこと言うの?」


血の気の引いた麻美とは対照的に美穂は余裕の笑みを浮かべている。


「蓮の何を・・・知ってるの?」

「知ってるわ。でもあなたには言わない。言う必要ないもの」

「・・・っ」


美穂は麻美をじっと見つめた後、後ろに佇んでいる蓮に視線を移しにっこり笑った。


「心配しないで。別にもう蓮を追いかけたりはもうしないから」


そして麻美をちらっと見る。


「だって十分分かってもらったみたいだから。私のお願いが。蓮、あなたにも」


足が竦んだように動けない麻美は美穂から視線を外せず言葉も返せない。そんな麻美

を見ていた蓮はぎゅっと麻美の手を握りしめた。


「美穂が何を思おうと勝手だが、俺が今大切にしたいのはこの人だ」


麻美を隠して言い放った蓮を見ても美穂は微笑を浮かべている。その時、後ろで人影

が動いた。


「美穂!」


一斉に3人が振り返る。そこに居たのは美穂の母親だった。心配で見に来たのだ。蓮

は安堵感を感じながらも緊張気味に母親に会釈した。


「・・ご無沙汰しています」

「蓮さん・・・お久しぶりです」


母親はどう接したらいいか分からないという様子でぎこちなく挨拶をした。そして横

に居る麻美をちらっと見たが、何も言わずに美穂に声を掛けた。


「話は終った?もう遅いから帰りましょう」

「うん。ママ。ちゃんと話が出来たわ」


美穂はにっこりと笑って言った。ここに居る誰もが意志疎通が出来ていると思っては

いないが美穂の中では完結しているようだ。その様子に麻美はぞっとした。

蓮はもう一度頭を下げる。


「すみません、遅くなりました」

「いえ・・それじゃ」


美穂はもう一度温かい目で蓮を見つめると、名残惜しそうに母親と歩き出した。


「行こう」


蓮と麻美も背中を向けてホテルの方向に歩き出した。麻美は一瞬振り返る。すると、

美穂が魅惑の笑みを浮かべてこちらを見ていた。美穂は笑っていた。

まるで”自分は蓮のすべてを理解している”と言っているかのように。そしてこの場を

望んでいたかのように・・・。


ブゥ〜〜ンッ


行き交う車の音、歩く人の笑い声だけが空しく響く。蓮は何も言わない麻美をちらっ

と見ると、頭をくしゃっとかいて最も苦手な取り繕うという会話を始めた。さすがに

この場は何も言わない訳にはいかない。


「・・悪かったな。嫌な思いさせて」

「・・・・」


麻美は何も答えなかった。今は、蓮に気を遣う余裕もなかった。


離れるわけはなかった。あの蓮を純粋に想う瞳、嘘偽りないと信じて疑わない言葉。

蓮はその後、”気にするな、まだ治ってないみたいだな”とか、”美穂は実際、彼女と関

わったのは少しだけだから”とかいろいろ言っていたが、それはすべて言い訳にしか聞

こえなかった。蓮が言い訳なんてらしくないと心の中で冷静にツッコんでいる自分も

なんだかおかしかった。


私の中で保っていたものが音を立てて崩れさる。がらがらと。それはぎりぎりの線で

保っていたのだ。


そのままの蓮を受け止めよう。どんな感情を持っていようと構わない。蓮が幸せであ

るなら。蓮を守りたい、その気持ちだけで・・・


そんなの嘘だ。こんなに簡単に崩れさる。ただのきれいごとだと気付く。

爽子さんに対する感情も、蓮が特別な目で爽子さんを見つめていた時に起こった感情

が全てだ。蓮を好きになればなるほど全てを手にいれたくなった。蓮の一番になりた

くなった。だから、蓮の一番を知った時・・・私は蓮を守ると言う大義名分で逃げた

のだ。ただ自分の中に溢れ出る醜い感情を見たくなくて・・・目を伏せただけ。

今、はっきりと分かった。私の中のどろどろとした感情が全てだということ。


かちゃっ


「皆元気だった?」


ホテルに着いてとりあえずラウンジにでも行こうと蓮は誘った。無言の麻美を取り繕

う蓮という構図は今まで見られなかった二人の光景だ。


「麻美?」


蓮が振り向くと麻美は俯いたまま部屋の中から動いていなかった。


「とりあえず・・話そう」


なかったことに出来ないのは蓮も重々承知だろう。蓮はつらそうな目を麻美に向ける。

そんな蓮が分かっていても・・・・麻美はどうしようもなかった。もう、蓮を労わる

ことも理解してあげることもできない。

麻美はゆっくりと顔を上げ、じっと蓮を見つめた。その瞳は今までの麻美のものでは

なく、暗く淀んでいた。


「・・・私、とっても楽しみだったの」

「え?」


突然の麻美の語りの意味が分からず、蓮は思わず聞き返した。麻美はまるで独り言の

ように話し始めた。自分の世界しか見えないかのように、それはどこか病的に感じた。

蓮は瞬きもせずに麻美の言動を窺う。


「とっても仙台を楽しみにしていた・・・だけど同じぐらい不安だった。でもそれは

 感覚的なものでよく分からなかった。今、はっきり分かった。見ないようにしてい

 た感情がまたやってくることが恐かったんだって」

「・・・・」

「蓮と美穂さんが会ったらどうしようって・・・心の中で恐れていたの。二人の間に

 恋愛感情があるとかそうじゃない・・・蓮に自覚されるが恐かったんだって」


麻美は感情のまま吐き出し、息が少し上がっている。でも涙はない。それが逆にいつ

もの麻美ではなく、冷酷なものを感じた。それは美穂を彷彿させる姿だった。一瞬、

蓮の中では麻美と美穂が重なった。そしてあの時の何の希望も持てない絶望感、感情

を失くした無機質な感覚、悲哀感などが蓮の脳裏を過った。


「蓮・・・・」


麻美の温かい包み込むような瞳はもうない。蓮を追い込む・・・憎悪に似た感情を持

つ目。その目を蓮はせつない目をして見つめていた。



この目を受ける覚悟はできていたとばかりに・・・。





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あとがき↓

美穂に関しては色々意見あると思いますが、どうか目を瞑ってください(汗)美穂の根拠

もこの場では出せなかったですが、もうすぐ出しますので。とにかくクレイジーな奴です。

結局蓮への想いが違う形で出ただけかなっと。そういうキャラがいないと話が進まないの

で結果的には美穂を出して良かったかも。