「Once in a blue moon」(40)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
こちらは 「Once in a blue moon」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 の続きです。  
 


☆ 蓮のことを知りたい一心でまっすぐ向かってくる麻美に庄司は心のどこかで応えられ
ない気持ちを持っていた。その理由とは・・・?



















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 40 ‥…━━━☆




















麻美の真剣な目が一時も離れず庄司を見つめる。よほど彼が好きなのだろうと庄司は

思った。その気持ちがビンビンと伝わってくる。

先ほどから診療室では緊迫した空気が流れていた。

少しの時間でも麻美の鋭さを見抜いた庄司は慎重に言葉を選びながら話を始めた。


「・・・あの頃の美穂さんは病魔がかなり進行していました。解離性人格障害という

 精神疾患で、様々な人格を作り上げていたのです。なので、蓮さんの周りにいた女

 の人が全て、敵だったわけです」

「だから・・・爽子さんに?でも・・・あまり会っていないって」

「はい。私、さっき言いましたよね?美穂さんは感覚的に人を選ぶんです。だから爽

 子さんに執着したんです。蓮さんを選んだように、爽子さんにも何か感じるものが

 あったんでしょうね」

「・・・それは分かるような気がします。私もですから」

「え?」


麻美は想いに更けるような目をして遠い目をして言った。


「私も爽子さんと出会った時から・・・言葉は変ですが、執着してしまうんです。私、

 小さいころからどこか冷めていて人にあまり興味を持たない人間だったのですが、

 なぜか爽子さんだけは違うんです。そして・・・蓮も」


庄司は鼓動が速くなっている心臓を落ち着かせようと大きく深呼吸をした。


内心・・・”またか”と思った。

彼女もまた、爽子さんの魅力に気づいてしまった一人。思慮深い人間は彼女の魅力の

とりこになるらしい。そして手離せなくなる。

でもそれが恋愛感情だとしたら・・・。


「・・つまり、美穂さんは爽子さんに嫉妬したということですよね」

「はい。でもそんな事実は全くありませんから」

「分かってます・・・今日の美穂さんの様子を見ていたら重々分りました。勝手に造

 リ上げた妄想だということを」

「・・・・」


庄司は美穂が麻美に何を話したか想像がついた。それは最近美穂の中にある蓮の悲恋

話だった。美穂の中では蓮の恋が成就することが自分の幸せとなっていることを庄司

は知っている。


「・・・そう、妄想をすることによって美穂さんは蓮さんとの過去を消化しようとし

 ているのです」

「でも・・それは危険じゃないんですか?かつて美穂さんが行動を起こしたように今

 もないとは限らないですよね?」

「いや・・・そうはならないですね。なぜなら美穂さん自身本当は現実を分かってい

 るんです。それが以前と違うところです。以前は別の人格になっていましたから」


麻美は昼間の美穂を思い出すように視線を固定させた。


「・・・私だからですね。美穂さんは私を敵だと思ったんですね。だから防御線を張

 ろうと感覚的に思ったのかも・・・でもかつては敵だと思っていた爽子さんがなぜ

 今は違うんですか?」

「・・・それは、嫉妬の対象ではないと気づいたからじゃないでしょうか」

「つまり、誤解に気付いたと?」

「もともと、美穂さんは爽子さんに執着していたと言いましたね。だから大好きなん

 ですよ。大好きな蓮さん、爽子さんには幸せになって欲しいんですね。それだけは

 本当だと思いますよ」


麻美の表情が変わったのを庄司は見逃さなかった。それまでの深刻な表情から少し解

き放たれたような安堵の表情だった。きっと昼間美穂に言われたことが心のどこかで

引っかかっていたのだろう。それは当然だった。有り得ない妄想を突き付けられ、し

かも自分に一番近い人物だとしたら・・・。


「そうか・・・そうですよね。分かるような気がします」

「・・・・・」


麻美は自分自身に納得させるように言葉を発した。庄司は麻美をじっと見つめる。


決して嘘ではない。美穂さんは二人の幸せを願っている。そして過去のことも真実だ。

ただ・・・。

そんな庄司の考えを見透かすように麻美は真実を探ってくる。


「じゃ・・・その時の蓮の気持ちはどうだったんだろう・・・」


ひとり言のように呟く麻美に庄司は何も言えなかった。実際蓮から話を聞いたわけで

はない。ただ分かっているのは一つだけ。


「蓮さんじゃないので分りませんが、ただ、その時の美穂さんに対する気持ちは

 ”責任感”以外の何物でもなく、恋愛感情でなかったと思います」

「・・・私もそう思います。蓮は苦しかったんでしょうね。それだけは分ります」


麻美は絞り出すような声で涙を流しながら言った。

それからも庄司は麻美が納得するまで、その頃の様子を知ってる限り話した。美穂が

脱走したこと、爽子に偶然会ったこと、それによって風早夫婦を巻き込んでしまい、

蓮が責任を感じたことなど・・・。その頃の蓮の心情などはもちろん蓮本人にしか分

からない。麻美自身もそれは分かっているのでそのたびに考え込むように黙り込んだ。

庄司が話し終えた後、麻美は大きく息をついた。


「・・・責任感の強い蓮が、爽子さん達を巻き込んだことをどれほど悔やんだか。そ

 してそのことにどれだけ苦しんだか・・・分かるような気がします。だからなんだ」

「え?」


頭の中を整理するように麻美はぽつりと言った。


「だから、蓮は風早さん達に何か負い目を感じているような気がしたんだ」

「・・・・」


庄司の心臓がドクッと脈打った。そして意識的に話を終わらそうとしている自分がいた。

感覚的に感じる危機感。


「・・・私が知っているのはそこまでです。大丈夫ですか?そろそろ入院患者を診な

 いといけないので」

「はい。お忙しい中、貴重な時間をありがとうございました」


麻美は深々と頭を下げ、言いにくそうに言葉を濁した。


「あの・・・そのっ」

「分かってますよ。麻美さんと今度会う時は初対面ですね」


庄司が優しく微笑んで言うと、麻美はほっとした様子で表情を緩ませた。

裏の職員出入口にタクシーを呼び、麻美を見送る。


「それじゃ、気をつけて」

「先生」


麻美はタクシーに乗り込むと、庄司を呼び止めた。


「蓮が先生に信頼を置くのが分かります」

「え?」

「先生と話せて・・・良かった。私・・・もう過去を探るより、蓮との未来を頑張っ

 て築いていこうと思います」

「・・・はい」

「最後に一つ聞いていいですか?」

「はい?」


麻美はそう言うと、少し間を置いて庄司を見上げた。


「蓮の・・・幸せってなんだと思いますか?」

「・・・・・」


麻美の真っ直ぐな目が庄司に突き刺さる。生半可な想いじゃないから余計にやっかい

だった。庄司は一呼吸した後、穏やかな表情で言った。


「それは・・・私が答えることではありません。蓮さん自身が感じること。そして

 麻美さんが感じることじゃないですか」

「・・・そうですね」


ブブッー


「・・・・」


最後の寂しい笑顔が胸に突き刺さる。庄司はやりきれない気持ちでタクシーを見送った。


「蓮さんの旅は・・・いつ終わるんでしょうか。いや・・・終わることがないのか」



庄司は夜空を見上げると、目を瞑って蓮の姿を思い浮かべた。








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この話も40話まできました。何か感想があればこちらにもど〜ぞ!
いつもマニアックなのにありがとうございます!













あとがき↓

すっかり更新が遅くなってしまいすみません。やっと忙しさから解放されました。これ
でオリンピックを楽しめる〜〜♪みなさん見てますか?そしてもうすぐ8月・・・早い
ですね。この話もどれだけ行くのか・・・。次回で麻美の仙台旅行終わります。