「Once in a blue moon」(47)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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の続きです。
 

☆ 麻美が仙台に行ったかもしれないことをひょんなことから蓮は知る。そしてこれ以上
 麻美から逃げるわけにはいかないと思い、向き合うことを決心した蓮だが・・・?



















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 47 ‥…━━━☆




















会社から30分ほど電車を乗ると彼女の最寄駅だった。30分電車を乗っただけで

会社付近とは全く違う郊外が広がっていた。駅から5分ぐらいの住宅地が密集して

いるところに麻美のアパートはあった。見慣れない風景にどこか遠いところに旅行

に行った気分だが、それは目新しい新鮮さとかじゃなかった。

俺はこの期に及んでもまだ”前に進めない”気持ちを心に秘めている。



「!!」


ドアを開けた麻美は俺を見て絶句したかように目を大きく開け固まった。よく考えた

ら今まで自分から無心で手を伸ばすことはなかったように思う。いつも何か考えなが

ら行動してる。


「・・連絡してからだと会ってくれないかと思ったから。悪い、突然」

「・・・・」


俺らしくない行動に俺自身もきっと麻美も戸惑ってる。麻美は仙台には行ってなかった。


「・・・して?・・どうして?」


蚊の鳴くような声で、やっと麻美が口を開いた。瞳は不安そうに揺れていた。


「・・・いきなり会ってくれなくなったらさすがにおかしいと思うだろ」

「でも、なぜここに?」

「・・・・」


麻美が言ってる意味が分かった。住所を見つけ出したとかそんなじゃない。俺が出向

いたことに麻美は驚いているのだ。久々に見た麻美は以前より覇気がなく、痩せたよ

うに感じた。


「・・元気?病気で休んでんじゃねーよな?」

「・・・・」


麻美はしばらく黙り込んだ後、決心したように顔を上げると部屋に入れてくれた。

部屋はさっぱりとしていてシンプルで麻美らしいと思った。


向き合わないといけない。俺は麻美から視線を逸らさなかった。通された部屋の机の

前に座る。微妙な空気が流れたまま麻美はとりあえずとお茶を沸かし始めた。

翔太みたいにこんな時に爽やかに言えたらと思うけど、結局俺はストレートにしか言

葉を発せない。世間話もできない。ブォ〜〜ンと電気ケトルの音が鳴り響く中、カマ

をかけるようにいきなり事の真相に触れた。


「・・・仙台に行ったんだって?」

「!!」


麻美の顔が一気に変わる。言葉も出ないほど、驚愕しているのが分かる。そしてみる

みるうちに崩れていった。


「ご・・・ごめんなさいっ・・・ごめんなさいっ・・・うぅぅ」

「え??」


いきなりの麻美の号泣を俺は茫然と見ていた。仙台に行ったことが本当だったことと

麻美がそのことでどれだけ苦しんでいたかを俺は知った。



* * *



もともと感情がはっきりしている子だと会った時から思っていた。でも彼女は俺に会

う前は違ったと言った。かなり泣き続けた後、やっと落ち着いた彼女が静かに語り始

めた。夜の静けさの中、小さな電気ストーブの音だけが響いていた。


「蓮に会わなければ・・・知らなかった自分がいっぱいある」


麻美はぎゅっとズボンを握りしめて俯いたまま苦しそうに話す。


「自分がこんなことするなんて・・・思ってもみなかったの」

「こんなこと?」


ちらっと蓮を見ると、麻美は落ち着かない様子で目を泳がせる。そして語られたこと。

仙台に行って俺の過去を探ったと。それをした自分が許せなくて俺に会えなかったと。


「・・・・」


怒りよりもその行動力と俺に対する気持ちに驚いた。そして自分をいかにさらけ出して

なかったかを反省する気持ちの方が強かった。

これだけ彼女を不安にさせていたんだ・・・と。


「こんな自分が嫌で誰にも会えなくなったの・・・」

「翔太達に?」

「!」


なぜ彼女はそこで動揺したように視線を逸らしたのかその時は分からなかった。まさ

かすべての根源がそこにあったことなどその時は知る由もなかった。


蓮は静かな口調で言った。


「仙台で、色々知れた?」

「お・・怒らないの?気持悪いでしょ・・」

「いや、俺も悪かったよ。全部さらけ出すとかできないもんで・・麻美を不安にさせた」


俺がそう言うと、麻美は再び大泣きし始めた。


「ごめんなさいっ・・本当にごめんなさい・・・」


麻美は号泣しながら仙台であった出来事を話し始めた。昌に世話になったこと、

そして・・・


「美穂に会った!?」

「・・・ごめん」


麻美はごしごしっと目を擦って正直に話す。誤魔化せばいいのに彼女はこういう時、

誠実に人と向き合う。そんな彼女に惹かれているのに恐れている自分もいた。彼女の

鋭い感性、感覚で何を見てきたのだろうと。そして俺は美穂に会ったことより動揺し

てしまったのは・・・


「庄司先生がその時美穂さんを迎えにきて・・・」


どくっ


蓮の中に冷たい空気が流れこんだ。感覚的に嫌な予感が走る。


「・・・庄司先生?」

「うん・・・。後で病院に訪ねて行ったの」

「・・・」


何だろう・・・先生は信頼できる。本質的に俺を理解してくれている人だ。だけど、

俺は動揺している。麻美が先生に会ったことに。

麻美の目が俺を探るように見ていた。


ドクッッ・・・



なぜ彼女と付き合ったんだろう・・・

やはり巻き込んでしまう。俺は人を傷つける恋愛しかできない。



蓮は暗く陰りのある瞳で麻美を見つめた。




「Once in a blue moon」48 へ



















あとがき↓

早く爽子出したい。やはりオリキャラだけでは楽しめないですよねぇ。次で蓮×麻美
終わります。今回とりあえず自分が書きたい場面まで行きたいなぁ。それまでモチベ
がキープできるといいけど・・・。