「Once in a blue moon」(60)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
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47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 の続きです。
 

☆ 同僚の葬式に出た蓮、その後ある人物と道端で会うが、その人物とは・・・? 



















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 60 ‥…━━━☆


















葬式の帰り道、過去に迷い込んだようにその場に佇んだ。あの頃がつい昨日のように

感じる。蓮は目を細めて目の前の人物を見ると、そっと口を開いた。


「美穂・・・」

「蓮・・・」


そこに居たのは美穂だった。


「ずっと会いたかった・・・蓮」


美穂は嬉しそうに笑った。天使のような笑顔はあの頃と変わらない。最後に会ってか

ら8年半の月日が過ぎていた。その長い年月を感じさせない程、二人共表面的には変

わらない。蓮はやっとの思いで現実に戻ると、今の状況を把握しようとした。


「なぜ・・ここに?」

「なんとなく・・・蓮に会えるような気がしたの」


蓮が眉を顰めると、美穂はふっと笑みを浮かべて舌をペロッと出した。


「な〜〜んて。本当は私、葛西さんの葬儀に出てたの。まさかそこに蓮が居るなんて」

「え??」


よく見ると美穂はコートの下に喪服を着ていた。葛西と美穂は今の病院で関わっていた。

今年、北海道から地元の病院に移った葛西は美穂の定期通院の時に会っていたようだ。

それを聞かされた蓮は”そんな偶然あるだろうか?”と瞬時に思った。一瞬過った考え

を払拭させたい気持ちで蓮は美穂に聞いた。


「一人で?」

「・・私もう働いてるんだから。一人でも平気なの」


反論するように言った美穂はすぐに拗ねた表情になった。


「って言ってるのに、ママ・・あ、お母さんが近くで待ってるわ。どうしても蓮と話

 したかったから、電話入れることになってる。だってこんな偶然もうきっとないで

 しょう?」

「・・・・」


偶然。偶然でなければおかしい。今さらって話だ。でもお互い話し合って別れた訳で

はない。病気が良くなったから会うっていうのもおかしな話なのだが・・・。


蓮は美穂の意図を探りながらも、目の前の美穂を見て懐かしい気持ちになった。


「元気・・・そうだな」

「うん・・・蓮も。私・・・とっても良くなったの」


蓮が優しく微笑むと、美穂はゆっくりと落ち着いて話し始めた。


「本当はね、もっと早く会いたかった・・・。会いたいから頑張ったのっ!」

「・・頑張った?」

「庄司先生が良くなるまでダメって言ってたからっ・・・」


美穂は子どものような表情になって言った。今は主治医じゃないと聞いているが、

庄司の存在は今も美穂にとって絶対のようだ。以前美穂に会うべきか悩んで庄司に

相談したことを思い出す。


”『・・・会わない方がいいかもしれませんね。この病気は想いが深ければ深いほど、

  ちょっとしたことが引き金にになりますから』”


蓮は美穂の様子を見ながら時の経過をしみじみと感じていた。


「・・もう、良くなったんだな」

「うん・・・だから蓮を引き留めたの」


本人の言っていることを全部信じるわけにはいかないが、こんなに普通に会話をでき

たのは何年振りだろうと蓮は思った。別れた時の美穂は最悪な状況だったので不思議

な気分だ。まるで出会った頃のようだ。

二人はお互いの顔もはっきりしない暗がりの中、立ち話をしている。蓮と麻美の泊ま

っているホテルは葬儀場から偶然にも近かった。


(美穂はここを知っていたのだろうか・・・?)


蓮は感覚的に嫌な予感が走っていた。とりあえずこの場から離れたいと思った蓮は、

美穂に場所を変えようと誘ったが、美穂は首を横に振り、”ここでいい”と夜、道端と

というシチュエーションを気にすることなく8年半前のことをいきなり語り出した。

蓮はそんな美穂を止めることもできずに茫然と聞いていた。


「・・・ごめんなさい蓮。あの時いっぱい、いっぱい傷つけて・・・っ」


蓮は泣きながら頭を下げる美穂に驚く。いきなり予想外の謝罪。蓮は今の状況につい

ていけなかった。だが、過去のことを謝り続ける美穂を見て、どんな理由でここにい

るとしても、その気持ちは嬉しかった。あの頃通じ合えないまま別れた。

ある意味自分は見捨てたのだから。美穂の気持ちも聞けずに・・・。


「美穂・・・」


頭を下げたまま上がってこない美穂を見て、蓮は昔を思い出すように沈んだ目をして

言った。ずっと心に影を落としていたこと・・・


「俺こそ・・・側にずっと居られなくてごめん」

「ううん・・・全てに目を瞑ってでも蓮を手放せなかった私が悪いの。今はそのこと

 をちゃんと認められた私がいる。だから・・・こうして会えたの!」


美穂は大きな瞳を潤ませて、満面の笑みで言った。

蓮は美穂の言葉を噛みしめるようにそっと目を閉じた。淀んだものがまるで浄化され

るようなその言葉に。しかし、その後の言葉にぴくっと蓮は鋭い眼光を開いた。


「・・・だから、蓮には幸せになってもらいたい」

「・・・・」

「私はそのことをずっと言いたくて・・・それを伝えたくて、蓮に声を掛けたの」


葬式の偶然の再会、そして8年半ぶりに声を掛けた理由。偶然会ったから声を掛けた

のではないということだ。会うことを・・・決めていた?

蓮は偶然でもそうでなくても、美穂は近々自分に会うことを決めていたのだと思った。

その目的は?


(美穂に言った方がいいんだろうか・・・)


蓮は迷っていた。麻美という彼女がいる事実をはっきり伝えた方がいいのか?美穂は

気づいてないだろうが麻美に会っている。ふと麻美を不安にさせたことを思い出す。

そして胸の奥に鈍い音を感じた。


ドクッッ


蓮が視線を上げると、美穂が微笑んでいた。それは天使と言うよりまるで魔女のよう

に見えた。


・・・心のどこかに罪悪感があった。美穂を途中で見捨てた無責任さを自分で責めて

いた。美穂と会って過去を清算しなければ前に進めないと分かっていた。

だけど蓮は畏れていた。美穂と会うことを先延ばししていた。それは・・・


「蓮は何一つ自分を責めることはない。だって私は蓮にとっての運命の相手じゃなか

 ったんだもの」


美穂はすべてを見通したような目で真っ直ぐ蓮を見て微笑んだ。


「会ってすぐ分かったの。彼女が運命の相手だって」


蓮は眼光鋭く美穂を見つめた。


「・・・運命の相手?」


しばらくの沈黙の後、蓮は眉を顰めながら言った。ずっと避けていたものに目を塞ご

うと足掻くかのように。


「ええ。爽子ちゃん」


美穂はそう言うと、再び天使のように微笑んだ。






「Once in a blue moon」61 へ

















あとがき↓

美穂を出すつもりが最初はなかったので、ここが修正部分です。美穂の役割をよく考え、
出しました。あくまで話の進行上になりますが。だけど最終的には美穂のこともいい形
で持っていけたらとは思っています。ところで・・・8年半ぶりの再会でいいのかなぁ。
カウントできない・・・。間違ってたらすみません。