「二文字のコトバ」8

以前は言葉に出来ていた『好き』と言う言葉。今は気持ちが大きくなりすぎてお互い

言葉にできない。それぞれ大人になり新たな壁にぶつかる二人。社会人の二人のパラ

レルです。一話ごと交互に視点が変わります。この回は風早視点でどうぞ↓


宮内萌愛にキスされた風早。しかし風早はそのことにより押し隠してた自分の本音に

気付いて・・・?


『二文字のコトバ』 1 2 3 4 5 6 7 の続きです。

































”好きです・・・”


目の前の子に思わせぶりなことをしていたかもしれない・・・コトが起こってから

反省した。でもそんな時でも俺の頭の中はどこを見ても爽子でいっぱいだったんだ。

あまり爽子のことを聞かれたくなかった。そんな簡単じゃないんだ。大切にしたい

んだ。だから言わなかった。それが裏目に出た。


「・・・ごめん、俺・・・っ」

「・・・・」


萌愛は大きく目を見開くと、涙を隠すように俯いた。そしてごしごしと涙を拭うと頭

をぶんぶんと振った。


「風早さんが・・・謝るなんて・・・っく・・・間違ってます。私、何してんだろうっ

 こんなこと・・・できる自分じゃなかったのにっ・・・っく」


決して宮内を責めることはできなかった。


「・・・いや、俺も悪かった。俺・・・期待させることしてたかも」

「そんなことっ・・・言わないでっ下さい。ずっと、ずっと好きなんですっ・・・ひっく」

「・・・・」


俺が無意識にやってる行動で時々恋愛感情を持たれることが以前からあって気を付け

ていた。それとなく交わしていたつもりだった。でも最近の俺は意識的に皆と楽しい

時間を共有することで自分を誤魔化していたのかもしれない。それは気づかないよう

にしていた不安。爽子と・・・・向き合う不安?

もしかして今日も・・・そうなのか?


どくんっ


風早は先ほどの感じた違和感を再び胸に感じた。

本当は残業も早く切り上げられたかもしれない。もっと連絡できたかもしれない。

俺は心のどこかで怖かったんだ。今日、あの二文字を言って拒否されたら?

もし、永遠の別れになったら・・・と。


俺はこんなじゃなかった。いつからこうなったんだろう。

彼女が違う世界の扉を開くたびに自信がなくなった。高校生の時、明るくてクラスの

中心で爽やかな俺を彼女は好きだと言った。そんな自分でいられたなら、爽子はずっ

と俺を好きでいてくれる。こんな独占欲いっぱいで黒い感情を持ってる俺じゃなくて

爽やかでいよう、人気者でいよう・・・そんな風に思っていたのかもしれない。


それでも前に進みたい気持ち・・・混在していた。


「俺・・・彼女しか好きになれないんだ。ごめん、今日もこれから会いに行く」

「・・・・」


真っ直ぐ彼女を見て言うと、悲しそうに顔を歪ませながらも彼女は頷いてくれた。想

いが通じないほど悲しいものはない。でも曖昧にすることはできなかった。


絶対変わらない気持ちがある限り。


「お〜〜い!じょーちゃん達、ラブシーンはそろそろにして順番だよ〜〜〜」


列の前であのオヤジが叫んでいた。風早はぽんっと萌愛の背中を叩くと大きな声で叫んだ。


「すみません〜〜〜ありがとうございます!今、行きます」


萌愛は目をごしごしっと擦って風早についていく。二人は後ろの人に頭を下げ元の場所

まで戻った。風早は前のオヤジに頭を下げた。


「いろいろありがとうございました」

「いやいや、むふっ。どこの方向?○○方面なら一緒だから乗ってくか?」

「はい!」


オヤジは早く聞きたいと言う風にニヤニヤしている。

萌愛は顔を上げられず、無言でタクシーに乗り込んだ。車が走り出し、明らかに泣いて

いる様子の萌愛に気付き、おやじは遠慮せず声を掛ける。


「なんだ、アンタフラれたんか?」

「・・・・」

「兄ちゃんそれないわ〜〜〜こんなかわいい子もったいない。それに満月の夜なのに」


すると風早ははっきりと言った。


「俺・・・大切な人がいるんです。好きすぎて言葉にできないほど・・・」


オヤジは真剣な風早を見て、今度はからかう風ではなくちょっと出過ぎたと反省する

ように”そうか、なら仕方ない”とボソッと言った。


「でもな兄ちゃん。男と女は言葉にしないと通じ合わんよ。女は特に言葉が必要なんや」

「・・・はい」

「なぁ、おじょーちゃん」

「・・・・」


不思議な組み合わせのタクシーの中、風早はオヤジに言われた言葉を噛みしめた。

とにかく会いに行こう。言わないと前には進めない。大切な二文字の言葉を。


タクシーが宮内の家付近に着いた。


「明日から仕事頑張ろうな、今まで通り」

「・・・はいっ」


宮内は涙を流して思いっきり頭を下げると何度も何度も謝った。その姿に心が痛むけ

ど、どうしようもなかった。俺はその時爽子のことしか頭になかったのだから。

時刻は23時半。俺はそのまま爽子の家に向かった。


しかし、そんな俺に試練は待ち構えていた。まるでキスした罰かのように。


ただの事故、されど事故。


満月の夜、二人の運命が揺らぎ始めていた。



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あとがき↓

まだ引っ張る。でも11話書ききったからもういいわ。修正などあまりしないとすぐ
にUPできる。気になりだしたら止まらなくなるから目を瞑る。楽しんでもらっていた
ら嬉しいですが。