「Once in a blue moon」(4)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。こちらは「Once in a blue moon」    の続きです。 


☆ いよいよ蓮の北海道転勤の日がやってきた。蓮の新しい生活が始まろうとしていた。
























・‥…━━━☆ Once in a blue moon 4 ‥…━━━☆





あれから2週間、蓮は同僚たちや友人たちとの送別、引っ越しの準備などで忙しく、バタ

バタとあっという間に引っ越しの日を迎えた。


蓮の北海道入りを今か今かと待ち受ける風早家では・・・・?



「明日だよね?」

「うん。ほんとにいーの?爽子は夜に合流してもいいんだよ」

「あの・・・手伝いたいのだけれど・・・だめ?」


爽子が遠慮気味に聞く。明日は蓮が仙台から引っ越ししてくる日だ。蓮はたいして荷物

がないからと断ったのだが、周りの地理も分からないだろうと強引に風早が手伝いに行く

ことを押した。風早は蓮が来ることが嬉しくて仕方がなかった。


「だめなわけないじゃん。きっと蓮喜ぶよ」

「ほんと?・・・それじゃ非力ながら頑張ります!」

「あ、力仕事はだめだよ」

「え・・・・」


どんな仕事でも頑張ろうとする爽子は結婚してからも風早に頼ることが少なかった。

そんな爽子に不満を持っている風早は頬をぷぅっと膨らませて”それは男の仕事”と

言って、爽子の頭を優しくなでる。


「で・・・でもっ」

「それにさ、そんなに荷物ないんだって。蓮もきっと気にするし」

「それじゃ・・・何か夕食を作るね!」

「あ、それ喜ぶかも。爽子の料理は天下一品だもんな」


爽子は自分の仕事が見つかって目をキラキラと輝かせた。


「そんなっ・・・。でも一生懸命作りますっ」

「ははっいつも一生懸命じゃん。な、ゆづ」


風早はそう言うと、爽子の横で静かに人形遊びをしている結月の頭をくしゃっとなでた。

結月は気にせず遊びに集中している。


「喜んでもらえると・・・嬉しいな。だってずっと楽しみにしていたもんね!翔太くん」

「あ・・・うんっ」


風早は爽子に言われて少し照れながら嬉しそうに言った。


「だってさ・・・思ってもみなかったんだ。蓮とまた一緒に働けるなんて。それも俺の生ま

 れた場所で暮らすなんて。仙台にいた時みたいに会えると思ったら嬉しいっ」

「それじゃ・・・もっと近くに引っ越ししてくれたら良かったのにね」

「うん・・・」


爽子が言うと、風早は歯切りが悪いような返事をした。


蓮の転勤にあたり、風早が物件探しなどを行った。人と合わすことが苦手な蓮は独身寮

に入るのが嫌で自分で探そうとしたのだが、蓮の性格を知っている風早は強引に押した。

そしてこれまた蓮の性格から同じ会社だが、近くに住まないだろうな・・・とは思っていた。

風早の家は会社から自転車で15分ぐらいのところにあるのだが、あえて蓮は遠いところ

を選んだ。自分たちに遠慮しているのが分かっていたが、そこまではさすがに入れなかった。


「少し距離があるけど、電車で1時間かからないし、何かあればすぐに駆けつけたいんだ。

 俺にとって蓮は特別だから・・・」

「うんっ。私もできることがあれば・・・」


爽子が髪がさらっとなびく。風早は愛しそうに爽子を見つめると、そっと爽子の髪の毛に

触れ、そのまま自分の胸に抱き寄せる。


「し・・・翔太くんっ////」

「・・・ありがとう。でも・・俺がヤかない程度にしてね?」

「え??」

「ははっ・・・何でもない」

「???」


二人が触れ合うのはいつもの風早家の普通の風景。それが自然だった。結月はそんな二人に

割り込んできたりはしない。生まれてからあまり我儘を言わない結月を風早は時々不安に思う。


「こんなに独占欲が強い親から生まれてんのになんでかなぁ。やっぱ爽子の血かな?」

「え??そんなことないよ。私もっ・・翔太くんを一人占めしたい・・よ?」

「うわっ////」


爽子の言葉や表情一つで感情が揺れ動く。それは何年一緒に居ても変わらない。一緒に

いる幸せな時間は当たり前にあるものではなく、かけがえのないものなのだと分かってい

るからこそ大切にできる時間。風早は一分一秒、惜しむように爽子を抱きしめる。

そして結月に目を向けた。


「ゆづ、こっちおいで」


風早に促されると結月は嬉しそうに風早の膝にやってくる。言われると喜んでやってくる

が自分から抱っこを求めたり、スキンシップをしたりはしない。3歳になってますます自分

の世界ができてきたようで、満たされていない感じはない。

爽子は結月の髪を優しくなでながら言った。


「・・・ゆづちゃんはきっと自分の世界があるんだね」

「うん。ゆづの世界はどんなだろう・・・。覗いてみたいけど、きっともう俺には入れない

 世界なんだろうな・・・」

「私も。でも・・・大切にしてあげたい。ゆづちゃんの世界」

「うん・・・」


風早の膝の上で絵本を読んでいる結月を二人は優しい眼差しで見守る。何気ない日常

の中に真実の愛が確かにあった。



************



土曜日ー蓮の引っ越し当日


風早ははりきって、一緒に選んだアパートにやってきた。この日は蓮の新しい生活の門出

を祝うかのような晴天だった。

今朝から何度目かの言葉を蓮は照れ臭そうに呟いた。


「悪ぃな・・・」

「まだ言うか!?」

「いや、一応な。親しき仲にも礼儀ありっつーだろ?」

「形だけかよ」


あはは〜〜〜っ


はりきってる風早はやる気満々でタオルを頭に巻いて汗だくで荷物を運んでいた。北海道

は秋に向かっているといってもこの日はかなり気温が高い。汗がキラっと光り、一生懸命

に動いている風早を蓮は戸惑いながらも嬉しそうに眺めた。


「それ、ここに置いてくれる?」

「オーライ!」


もともと荷物が少なく、あまり物を置かない主義の蓮の引っ越しは簡単だった。男二人で

荷物運びや家具組立など、あっという間に終えていった。

ある程度部屋が整った後、二人は缶コーヒーを飲みながら一服した。


「ふぅ〜〜〜〜っもう終わり?」

「うん。後は自分でできる。さんきゅな」


”やり足りね〜〜〜”っと風早はにかっと笑って言った。蓮は器用で何でもできてしま

うため、人に頼ることが少なかった。また、他県に行くこともなかったので誰かに手伝

ってもらうということが今までなく妙に照れ臭かった。そんな蓮が気にしないようにと

風早は自然に気を配っていた。


「ゆづが楽しみにしてた」

「俺も楽しみにしてた」

「実は俺も・・・・」


風早は蓮をちらっと見ると照れたように言った。そんな風早を見て、蓮は目を細める。


「・・・うん。俺も」


二人はにっこりと笑い合った。蓮は風早といると素直に出せる自分を感じていた。

それは風早以外に感じられないものだった。風早が自然にする言動が蓮にとっては

心地が良かったのだ。それはずっと感じていたことだ。初めて誰かのために役に立

ちたいと思った相手だったのだから。


「後から来てくれるんだっけ?」

「うん、爽子が腕を振るうって」


後から来ることになっていた爽子とゆづを風早は駅まで迎えに行くことになっていた。


「マジで?でも・・・いいのか?」


蓮がにやっと口角を上げて言うと、風早は余裕をかました顔で言った。


「そんなに小さい男じゃね〜よっ」

「ふぅ〜〜〜ん、それじゃ毎日食べに行っちゃおーかな」

「いや・・それは・・・」

「ほら、小さい男なんじゃん?」

「蓮〜〜〜〜っ!」

「じょーだん、じょーだん」


あはは〜〜〜っ


ピロロ〜〜〜ンッ♪


「あっ爽子だ」


風早はメールを見ると、目を輝かせた。


「なんか、もう駅なんだって。行ってくるわ」

「おう」


嬉しそうに部屋を出ていく風早を見て、蓮はぷっと吹き出す。


「あれ、犬じゃね〜の?尻尾がふりふりしているように見える」


そして壁にもたれて手に持っていたコーヒーを一含みすると、日差しが差し込んでいる

天窓を見つめる。蓮はその光に手を翳すと、青い空を見て思った。


曇りひとつない青い空は翔太のようだ。


あの笑顔を見た時から何度となくそう感じていた。なんて澄みきった青空が似合う男な

んだろうと。


そしてなんて自分と正反対なのだろうと。

人間の闇の部分ばかり見て育った俺とはまるで違う翔太に憧れずにはいられない。


蓮は眩しい光に目を細めながら微笑んだ。






「once in a blue moon」  へ










あとがき↓

なんか、更新遅れてましたね。楽しみにしてくださっている方がいればすみませんっ!
やる気は満々なのですが、時間がなくてね。ま、これも長くなるのでの〜〜んびり暇
潰しに見てもらえればと思います。ところで、今はお盆でしたね・・・怖い話が大好き
な私。この暑さの中、そういうことで涼しくなるのもいいかな。
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