「Half moon」番外編 ➏ 「プロポーズ」後編

こちらは「Half moon」の番外編で、二人の結婚にあたって、風早が改めてプロポーズを
した話です。この話を知らなくても普通の短編として読めます。以下からどうぞ↓


突然仙台にいるはずの風早に呼び出された爽子。そこは懐かしの場所だった。二人はお互
い胸の高鳴りを感じながら大切な想い出を辿っていく。爽子目線から始まります。

前編はコチラ
























どこに・・・行くのかな?


翔太くんは無言のまま私の手を引っ張る。前を向いたままこちらを見ない翔太くん。でもかすか

に見える頬は少し赤い気がする。まるで初めて手をつないだあの日のように私の胸はどきどき

していた。いきなりの翔太くんからの呼び出し。実は不安より期待の方が大きかった。


”翔太くんに会える”


これだけで不安より嬉しくなるなんて。何かあったかもしれないのに・・・・。


(わわっ私って・・・不謹慎だっ)


爽子が自分を恥ずかしく思って反省していた時・・・


「あ・・・・」


目の前には広大な海が広がっていた。そこは高校時代に何度も来た懐かしの海。爽子は思

わずその光景に見とれていた。


「爽子?」

「あ・・・・あまりにもきれいで見とれてましたっ」


きらきらした海の光と茜色の夕陽が混ざり合ってロマンティックな風景が広がる。


「うん・・・きれいだね」


風早は爽子を見ながら言った。爽子は風早の目を見ると、またどきどきが止まらなくなった。


(・・・うわっなんだろう)


どくん、どくん、どくん


いつもと違う翔太くん。よく分からない。でもこれだけは分かる。心臓が今にも破裂しそう

なほど大きく脈打っているということ。


「爽子大丈夫?寒いよな」

「ううん・・・この季節の海は好きなの。波が静かだから」


二人は近くのテトラポットに座りながら海を眺めていた。


それから翔太くんは無言になった。でも私の手を離さない。繋がっているところから翔太

くんの体温を感じる。ずっとこの手に守られてきたと思う。この手がなかったらどうなって

たのかな・・・?私から手を離そうとしていたことに今更ながら泣きそうになる。自分の気

持ちを伝えられてよかった。翔太くんが側にいてよかった・・・。改めて思う。


爽子は幸せそうな笑みを浮かべて海を眺めた。



* * *



茜色の夕陽が爽子を包み込む。その横顔をそっと盗み見る。


なんてきれいなんだろう・・・。


”『あ・・・・あまりにもきれいで見とれてましたっ』”


さっき爽子が言った言葉。・・・きれいなのは爽子だ。どんなに素晴らしい風景も霞んでし

まう。爽子しか見えない。ずっと爽子しか見ていない。これからもずっと、こうやって爽子

だけを見ていきたい。側にいるだけでいいんだ。


何も話さなくてもこうして一緒にいるだけで幸せな気持ちになるのはなぜだろう。不思議

なほど、せつない気持ちになるのはなぜだろう。


そして、触れたくなるのは・・・・。


「しょ・・・?」


ぎゅっ


風早は切ない表情を浮かべると爽子をぎゅっと抱きしめた。


「こうやって抱きしめたくなるのは爽子だけ」


爽子は風早の胸の中で温かい鼓動を聞きながら風早の言葉に耳を傾けた。


「きっと後にも先にも・・・・爽子だけ」

「私も・・・・」


風早は爽子を見つめると、優しく微笑み、そっと手を取って砂浜の方に連れていく。

そして海を前にして向き合った。爽子は戸惑いというよりもまるで夢心地のような表情で

風早を見つめた。


「・・・今日はさ、爽子と出会った場所から、思い出を辿ってみた」

「・・・・・」


風早はぼーっとした表情の爽子を見つめると、戸惑ったように手で顔を覆った。


「上手く・・・伝えようとは思ってないけど、どうやったらこの気持ちを伝えられるの

 だろうって・・・ずっと考えていた」


ただ”好き”だけでは言い表せない気持ち。言葉なんかでは無理だと分かっている。この

気持ちを全部伝えるのは・・・・。


すると爽子の手が風早の頬に触れた。


「!」


爽子は目を潤ませながら微笑むと、風早の頬につたったものを優しく拭った。


俺は泣いていた。自分では全く気付かなかった。


「お・・・俺・・・っ」


泣くつもりなんかなかったのに。ただ、想いがあふれて止まらなくて・・・こみ上げる想い。

”好き” ”愛してる”よりも大きなこの気持ちを君に届けたくて・・・。


「伝わったよ・・・翔太くんの気持ち」


風早は大きな瞳に涙をためて微笑む爽子の言葉を噛みしめる。


ああ・・・言葉なんていらないんだ。こんな時。


風早はぎゅっと目を瞑ってまるで苦しいかのように嗚咽した。胸の奥がきゅーっとして苦しい。

こんなに好きな気持ち知らない。苦しくって・・・・極上の幸せで・・・。


「うぅ・・・情けない・・なぁっ・・・」

「う・・ううんっ・・・しょ・・ったっくん・・ひっく」


二人で海辺で号泣したこと、きっと一生忘れない。


「ははっ爽子・・・目が真っ赤」

「翔太くんだって・・・」


二人はその後、お互いを見てプッと吹き出すと、くすくすと笑い合った。

そして風早はずっとポケットの中で暖めていた箱を取り出すと、ぱかっと開けて、中の

ものを爽子の指にはめた。


「翔太くん・・・・」

「よかった。ぴったり。ほら・・・・もう泣かないで」


今度は風早が爽子の涙を拭った。そして思いっきり息を吸い込むと爽子を真っ直ぐ見つめた。


「結婚してください。一生大切にするから」

「・・・っ!は・・・はいっ」



花が一気に咲き誇るような爽子の笑顔に風早もとびきりの笑顔になる。


高校の時、この砂浜で君に告白したあの時からこの日を夢に見ていた。そして現実のもの

となるようにずっと前に進んできた。君に少しでも近づきたい。強くて儚くて、狂おしいほど

愛しい君に・・・。


二人はゆっくりと未来に向かって歩き出した。これからもその手をずっと離さずに・・・・。





<END>

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あとがき↓

私の風早像は泣き虫だなぁ(汗)しかし、ひつこいほど番外編が続きますね。そろそろ
飽きると思いますが、全部書くつもりです。他の話も書きたいけど終わらせてからにし
ますね。それではいつもご訪問ありがとうございます!