『二文字のコトバ』6

以前は言葉に出来ていた『好き』と言う言葉。今は気持ちが大きくなりすぎてお互い

言葉にできない。それぞれ大人になり新たな壁にぶつかる二人。社会人の二人のパラ

レルです。一話ごと交互に視点・シーンが変わります。この回は風早ターンなのです

が新入社員オリキャラ萌愛目線も入ります。


電車が遅延していて、タクシーで爽子の家に行こうと乗り場に向かった風早だが・・・?


『二文字のコトバ』 1 2 3 4 5 の続きです。


















* * *  


「え・・・」


目の前の長い列を見て愕然となった。タクシー乗り場は案の定、すごい人だかりだった。


(当然か・・・)


「何、兄ちゃ〜〜ん、かわいい彼女と一緒でいいねぇ♪」


長い列の最後に並ぶと、前の酔っぱらった中年オヤジが風早達に絡んできた。

オヤジは明らかに酔っぱらってる。へらへらと自分の言ったことに笑い愉快そうだ。

萌愛が否定しようと思った時、風早が携帯を見て言った。


「ごめん・・・ちょっと離れていい?並んでいてくれる?」

「はい・・・」


萌愛は気になりながら風早の背中を見送った。そんな萌愛にオヤジはまだ絡んでくる。


「おじょ〜〜ちゃんっ彼氏イケメンだねぇ♪」

「・・・彼氏じゃありません」

「そうなのぉ〜〜〜?でもアンタは好きなんだろぉ?」

「・・・・」


萌愛は複雑そうに視線を逸らした。するとオヤジはニヤつきながら上機嫌で話し続けた。


「なるほど〜〜チャンスを掴めないってヤツか。それじゃおっちゃんがコツを教えてやろ」

「コツ?」

「あんたはまだ若いから男ってのを知らんだろうけど、男はだいたいギャップに弱い

 んだよ」

「ギャップ?」


萌愛が眉を寄せて真剣な顔で聞き返すと、オヤジはさらに得意気な顔で言う。


「普段大人しい子が積極的になるとドキドキするもんだ。あんたみたいなかわいい子

 嫌がる奴はいるわけねぇ。ちょっとチュチュッとしたら一発さ」

「え!?////」


(か、風早さんとキ・・・ス?)


萌愛は風早とのキスを想像し、かぁぁ〜〜っと真っ赤になった。


「あんた知ってるか?満月ってのはものすごいパワーがあるそうだ」

「ま、満月?」


萌愛が見上げると夜空にはくっきりと丸い月が光っていた。今夜はまさに満月だった。


「人身事故も満月の日に多いんだとよ。殺人とかもな。それは身体の血が活性化する

 からなんだってよ〜〜だからエネルギーをイケメンくんにぶつけるといいんだよ」

「え・・・?」

「恋愛成就のチャンスっだってんの〜〜〜おじょーちゃん」


俺って物知りだろぉ〜〜っとまたオヤジは豪快に笑った。萌愛は風早の後姿を目で追

いながらぼーっと考える。


満月は人を変にさせるという。狼男も変身する不思議な力を持つ。萌愛は満月を見る

といつもの自分ではなく妙に自信が湧いてくるような気持ちになった。風早さんには

彼女が居ると聞いた。でも最近仕事以外にも一緒に居る時間が多い。もしかして・・?

なんて期待を持ってしまう。自分なんて・・・と思っていたが、本当は一番近い位置

にいるのは自分なんじゃないだろうか?


萌愛は仕事の失敗で風早に迷惑を掛けたことも忘れて考えがエスカレートしていく。

そして満月を吸い込まれるように見ながら一つの考えに囚われていった。




一方風早はー


人気のないところで爽子からのメールを開く。


”会社で残業をして待ってます。連絡下さい”


メールの時刻を見ると21時。今は23時。慌てて風早は電話をした。


プルルル〜〜〜♪


「・・・・」


何度コールしてもかからない。この人だかりで電波が混み合っているのだろう。


「ーっ!!」


会えないのだろうか・・・?あと一時間で今日が終わる。やはり気持ちを伝えられな

いのだろうか?そう思うと、ものすごくもどかしい。何で仕事中とは言っても返信し

なかったのだろう?きっと不安にさせた。


こんなに大切なのに・・・


その時風早は何ともいえない違和感を自分の中に感じた。胸の奥がずきんっと疼く。


いや、明日までの仕事だった。今日仕上げなければどうにもならなかった。メールで

きる状態ではなかった。それは事実だ。だけど・・・何で俺はこんなに自分に言い訳

してるのだろう?これが自分・・・?それも爽子に対して・・・?


俺は異様に混乱していた。手に汗が滲む。


「か・・・ぜはやさん?」

「え?」


振り向くと宮内がもじもじしながら後ろに立っていた。


「あれ?列から外れちゃった?」

「あ、前のおじさんが確保していてくれるって・・・」

「マジで?それじゃ戻ろう」

「あ、ううん・・・ここでゆっくりしていていいそうです。順番までまだまだだから」

「へ?」


俺は彼女の言う事が理解できなかった。先ほど感じた違和感がもやもやと頭の中を支配

して混乱している。目の前の彼女はなんだかいつもと様子が違っていた。


「なんで?」

「お、おじさんが・・・二人っきりで居ていいよって・・・その代りお酒一本って言

 われて、そこのコンビニで買う約束を」

「え?二人っきり?」


俺がさらに困惑した顔で聞くと、宮内は恥ずかしそうに頬を染めて言った。


「あの・・・風早さんは彼女さんいるんですよね?」

「え?・・・何突然?」


(何なんだ・・・?酒でも飲んだのかな?)


宮内は一歩俺に近づいた。思わず一歩後退する。


「私・・・彼女さんよりきっと風早さんのこと大事にできますっ!」

「・・・・」


目を潤ませながら言う彼女。あれ・・・?このシチュエーションは覚えがある。

俺はその時、先ほど感じた違和感の正体が分かり始めていた。


「・・・満月のせいです。そしてすべての偶然のせいです。いえ、偶然じゃないかも。

 運命のせいですっ!」

「え・・・・」


彼女がそう言って夜空の月を指差すと、俺もなぜか流されるように月を見上げた。本当

にきれいな満月だった。そして無性に思う。爽子と一緒にこの月を見たいと・・・。


こんなシチュエーションで俺はなぜこんなに冷静なんだろう・・・月に不思議な魔力

があるというのは本当のように思う。


すっかり月に魅せられながらトリップしていたその時だった。


ちゅっ


唇に柔らかい感覚を感じた。


(・・・え?)



「好きです」



何が起こったか分からなかった。頭の中がぐちゃぐちゃだった。ものすごい至近距離

に宮内の顔。



(えぇぇっ〜〜〜!?)



やっと現実に戻った風早だった。この夜、もし萌愛が一緒でなかったら?残業がなか

ったら?そして・・・満月の夜ではなかったら?

二人の記念日に起こった風早にとって想定外の出来事。



でも、これは満月のせいなんかじゃない。宮内のせいでもない。誰のせいでもない。

すべて・・・俺のせいだったんだ。







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あとがき↓

このまま行くと11日に終わる。そして別マ感想となるか!!あぁ・・・待ちきれない。
この興奮を収めるためにも書いている。考えるだけで興奮!