「二文字のコトバ」4

以前は言葉に出来ていた『好き』と言う言葉。今は気持ちが大きくなりすぎてお互い

言葉にできない。それぞれ大人になり新たな壁にぶつかる二人。社会人の二人のパラ

レルです。一話ごと交互に視点・シーンが変わります。この回は風早視点でどうぞ↓


自分から気持ちを伝えようと決めた爽子。そんなある日、二人にとって大切な記念日

がやってくるが・・・?

『二文字のコトバ』 1 2 3 の続きです。






























仕事をしている時は仕事に集中できる。でも終わるとどうしても考えてしまう爽子の

こと。爽子のことを考えるとものすごい愛しい気持ちと押し寄せてくる不安感。


”考えないようにしなければ。コントロールしなければ・・・”


本来なら交わしていた誘いも受けるようにしていた。皆とわいわい楽しくやっている

毎日。それが自分の感情と上手くやっていく秘訣。爽子に負担を掛けさせない方法。

俺はまるで自分の中の不安を押し隠すようにそう信じて疑わないようにしていた。

・・・けど爽子と会った時、現実に戻るかのように何も言えなくなる。

気持ちを言いたいのに言えない。そんな俺に気持ちを伝えるチャンスがやってきた。

今日は8年目の付き合った記念日。毎年一緒に祝ってきた。週の真ん中で朝までって

わけにはいかないけどレストランを予約していて一緒にお祝いするはずだった。そし

てその時が”好き”と気持ちを伝えるチャンスだった。


それなのに、こんな時に限ってトラブルは起こってしまう。


* * *


「風早さん・・・今日は本当にすみませんでしたっ」

「終わったんだし、もういいってば!」


そう言って風早はいつものようにニッと笑った。実はこの日、風早の後輩同僚である

”宮内萌愛(みやうちもえ)”が大きな失敗をし、納期が明日に迫った仕事が押してし

まったため、同チームの5,6人が残業することになった。そして特に風早が担う部

分が多く、結局最後は二人になり仕事を仕上げた。その帰り道、萌愛は何度となく謝

っては恐縮して歩いていた。


「ご迷惑掛けた上に駅まで送ってもらって・・・っ」

「いや、俺も同じ駅だし。こんな遅い時間、女の子一人で帰せないよ」

「す・・・すみませんっ・・・」


宮内萌愛は新人社員で失敗は多いがなんでも一生懸命で先輩社員から好感を持たれて

いた。その中でも直に仕事を連携して行わなければならない風早との関わりが多く、

いつも爽やかで仕事ができる風早は萌愛にとって憧れの存在だった。もちろん、萌愛

だけではなく女子社員の間で風早人気は高かった。萌愛は自分の失敗から招いたこと

で、申し訳ない気持ちになりながらも思いがけない風早との二人きりの帰り道に内心

胸を躍らせていた。


「・・・こ、今度・・・何かお礼をさせて下さいっ!」

「別に大丈夫だよ」

「でもっ・・・それじゃ私の気が済みません!」


一生懸命な萌愛の姿に風早はふっと笑うと、” 皆と考えとく ”とやんわりと返した。

そして足早に駅に向かって歩いていく。その時、風早が急いで駅に向かっていたこと

やいつもより余裕がなかったことなどに萌愛は全く気付くことはできなかった。ただ

この二人きりの時間を嬉しく思っていたのだ。

一方風早は・・・


(爽子待ってるよな・・・早く電話しなきゃ・・・っ)


爽子にはとにかく残業になったことをメールして仕事にかかった。案の定、”大丈夫!

仕事頑張って”との励ましの返事。そこからは必死で仕事をしていた。時刻は23時。

終わったことをメールしたいが宮内を送ってからと思っていた。


ところが・・・


「え!?電車が止まってる?」


俺は駅前の人だかりを見て呆然とした。そして駅員に聞くと、次の駅で起こった人身

事故で運転の見込みは当分ないという。


(うそだろっ!?)


さすがに俺の焦りが表面に出ていたのだろう。宮内が心配そうに言った。


「・・も、もしかして何か予定があったのでは・・・?」

「・・・・」


その声が聞こえながらも頭ン中で必死に思考を巡らせていて返事が出来なかった。

今まで一回も欠かしたことはなかった記念日。そして”好き”だと言えるチャンス。

本当はずっと結婚も考えている。もし今回爽子が同じ気持ちでいてくれてるなら、

今年のクリスマスにプロポーズしたい・・・そう考えていた。だから今日を外すわけ

にはいかなかった。


「あ・・・あの?」

「ごめん・・・俺、タクシーで帰ろうと思う。宮内、家どっちだっけ?」

「え・・・っと○○町ですが・・・」

「じゃ、俺その先に行くからタクシーで帰らない?」

「は、はいっ・・・」


とにかく俺は焦っていた。必死でタクシー乗リ場に走る。



もし、残業にならなかったら・・・?もし、人身事故が起こっていなかったら・・・?

もし、この夜宮内萌愛と一緒でなかったら・・・?すべての偶然が最悪な状況を作る。


付き合って8年目の記念日、二人は大きな転機を迎えていた。





『二文字のコトバ』



















あとがき↓

いやぁな予感?このオリキャラもっと好感度の良いキャラにするつもりだったのに
いま一つになった。やっぱ風早の相手は爽子以外ダメだからでしょうねぇ。
さて、よしっ!毎日更新記録続いている(´ε`*)ゝ エヘヘ