「二文字のコトバ」7

以前は言葉に出来ていた『好き』と言う言葉。今は気持ちが大きくなりすぎてお互い

言葉にできない。それぞれ大人になり新たな壁にぶつかる二人。社会人の二人のパラ

レルです。一話ごと交互に視点が変わります。この回は爽子視点でどうぞ↓


今野にも勇気づけられて風早の会社最寄駅に向かった爽子。そこで起こったトラブル

とは・・・?


『二文字のコトバ』 1 2 3 4 5 6 の続きです。


























”○○駅〜〜○○駅・・お降りのお客様は・・・”


「それじゃ・・・私、降ります」

「おぅっ!また明日な。いい報告しろよ〜〜」

「は、はいっ」


今野さんは笑ってそう言ってくれた。その言葉に勇気が湧いてくる。

この駅は大きな駅で沢山の人が降りた。人ごみに流されながら私は目新しい駅にきょろ

きょろと周りを見渡す。翔太くんがいつも使っている駅・・・。それだけでドキドキ

する。そして改札前のベンチに座り翔太くんを待つことにした。


(どうしよう・・・メールしようかな)


きっと翔太くんは今も仕事中だ。メールをしたら迷惑かもしれない。驚かせたい気持

ちもあるけど・・・


(・・やっぱりすれ違ったら困るのでメールしようっ!)


爽子が決心してカバンから携帯を取り出した時、事故は起こる。

何だか上のホームが騒がしい。


「?・・・どうしたのかな?」


ぞろぞろと人が降りてくる。


駅員さんに尋ねると、人身事故が次の駅で起きて電車が止まったという。そしてしば

らく動く見込みがないので、今の電車は扉が開いたまま停車しているそうだ。見る見

るうちに改札口は遅延の様子を駅員に聞く人であふれかえっていた。


「あ・・・今野さん!」


ホームに見に行こうと思って立ち上がると、改札から今野さんの姿が見えた。


「・・・ついてねーな」


今野さんはそう言うと苦笑いをして私の隣の椅子に座った。思いがけない事故。


「・・大変なことになりましたね」

「こーなったらお前に付き合うよ。そのうち電車も動くだろ」

「で、でも・・・」

「心配すんなって。彼氏との邪魔はしないからさ。彼氏来たらすぐ退散するよ」

「・・・・」


きっと一人の私を気遣ってくれたのだと思う。明日も仕事なのに申し訳ない気持ちに

なったのだけれど、今野さんの好意を受けることにした。あやねちゃんがいつか言っ

ていた。好意を受けることも優しさだって。


(いい人〜〜〜っ)


「・・・ありがとうございます」

「だから、電車待つだけだって・・・何?俺、やさしーって?」

「はい」


爽子が頷くと、今野は一瞬恥ずかしそうに俯いた。


「お前は正直すぎんだよな・・・何で彼氏分かんね〜〜んだろ?」

「え?」

「お前最近変だもんな。もっと吐き出したらいいのに」

「!」


ざわざわざわ


駅構内には段々と人があふれかえってきた。時刻は22時半をさしていた。


「吐き出す?」

「あぁ。もっと愚痴れっての」

「ぐ・・ち?」

「あ〜〜〜お前は愚痴とか知らねー人間かもな。意外と人間関係って同族意識とかで

 成り立ってるから、傷の舐めあいみたいなのでも友情とか愛情とか言うもんな。俺

 はそんなの大っ嫌いだけど」


いつも自分の意見をはっきり言える今野さんを尊敬する。すごいなぁと思って聞いて

いると今野さんが私をじっと見ていることに気付いた。


「?」

「お前は・・・そんな付き合い一生ないんだろうなぁ」

「え・・・?」

「結局そんな人間はさ・・・弱いんだよ。弱いから人にすがるんだよ。そしてエゴイ

 スティックだったりする」


エゴイスティック・・自分本位、利己的。それは、私が翔太くんを想う心。翔太くん

に出会ってから初めて欲が出た。もっともっとと・・・。初めて知った自分。


「私も・・・エゴの塊です」

「へ?」

「翔太くんを独り占めしたいなんておこがましいこと考えて・・・とっても欲深いん

 です。・・・そしてどんどん好きになって勝手に不安になって・・・」

「・・・・・」


好きすぎて・・・苦しくなるの。


すると、今野はふっと笑みを浮かべて爽子の頭を優しく撫でた。


「・・・お前はーっとにバカだな」

「えぇ?」

「それはエゴって言わないの。なんかお前は普通の女と次元が違うよな・・・今まで

 会ったことないわ」

「じ、次元??」

「超人・・・な〜〜んてな!」


今野はきょとんとして目を丸くさせている爽子を見てがははっと笑った。そして優し

い目で爽子を見つめた。


「・・・マジで好きなんだな」

「はい・・・」

「じゃ、頑張って伝えなきゃな。大切なコトバ」


今野さんはそう言って優しく微笑んでくれた。

私は涙をこらえながら何回もコクコクッと頷いた。


伝えたい・・・やっぱり今日伝えたい。あふれ出る気持ち。二文字の言葉が私の気持

ちのすべて。ちゃんと向き合いたいの。


温かい気持ちでいっぱいになったその時、私の胸に衝撃が走る。まるでナイフで刺さ

されたかのように・・・っ


(−え?・・・っ)


ズキンッ


「・・どうした?」


今野が聞いても爽子は一点を見つめたまま何も返さなかった。その視線の先に見たも

のとは・・・?


爽子の顔から笑顔が消えた。




そして爽子が今野から受け取った好意。それがこの後風早を惑わすことになることに、


爽子は全く気づいていなかった。





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あとがき↓

あと4話。番外編も書くかも〜ちょっと思いついたので。しかし、あやねも後悔して
いることでしょう。好意が優しさと教えたことに・・・(笑)←あくまで二次ね。
さて、別マカウントダウン!