「Half moon」(82)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

金曜日・・・仕事を必死で終わらせて爽子に会いに行く風早。はやる気持ちを抑えながら
北海道に向かった。

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それではどうぞ↓































あれから風早は必死で仕事をこなした。週末に何も残さないように。信じられないほど

気持ちが急く。一分一秒もどかしかった。早く時を進めたくて、行動が空回りする。仕事

をなんとか終わらせて会社の廊下を駆け抜ける。風早は走りながら昨日この場所で会

った蓮を思い出すと顔を緩ませた。


”「翔太。いよいよだな」

 「うん・・・明日会いに行く」

 「やっと・・・会えるな」

 「・・・だといいけど」

 「・・・いー報告期待してる」”


蓮の温かい笑顔が俺を後押しする。そして帰ったら必ず報告すると言うと、蓮も聞いて

欲しい話があると言った。


その時、風早は自分のことでいっぱいいっぱいで蓮が聞いて欲しいと言うことが珍しい

ということに気付けなかった。

蓮の抱えている本当の苦しみを知った時、風早はこの時のことを後悔することになる。


”どうして、気付けなかったんだろう・・・と”



* * *



ピ〜〜ンッ


風早は会社のエントランスを抜けて夜空に広がる満点の星を見上げて大きく伸びをした。


「ふぅ〜〜っ」


満点の星に囲まれて、Half moon が浮かんでいた。


風早は月を嬉しそうに眺めた。


”「ねぇ、爽子。外見て。今日はハーフムーンだよ。これ俺の気持ち」

「風早くんの気持ち・・・?」

「うん。半分だけ。爽子がいないと。ずっとハーフムーンなんだ。一緒にいられて

 やっとフルムーンになれるんだよ」”


爽子がいないとずっと半分のままだったのに・・・どうして俺はこんなにも逃げていたのだろう。

もう俺の心の雨は止んでいた。ただ今の気持ちを全部・・・君に届ける。それだけ。


”会いたい・・・”


風早は急いで空港に向かった。




**********




「あ・・・ハーフムーンだ」


爽子も風早と同じく、空港の窓から夜空を見上げた。そして風早の言った言葉を思い出す。


”一緒にいられてフルムーンになるんだ”


私はずっと半分だった。風早くんに別れを告げた時、人生の半分はなくなった気がした。

丸い月のように一緒になれるのだろうか・・・。


爽子はぶんぶんと首を振った。


ちがう・・・。いいの。ただ気持ちを伝えたい。そして・・・謝りたい。


爽子は光平を思い浮かべた。光平の寂しそうな目を思い出すと胸の奥がズキンと痛んだ。

もし、自分が田口くんだったらどうやったら気持ちを整理すればいいのだろうって思う。

田口くんの気持ちを聞いた時、その好意が分からなかった。それだけで十分彼を傷つけ

たと思う。でも私が今で出来ることはこれ以上彼を傷つけないことだと分かった。自分は

知らないうちにいっぱい人を傷つけてきたのだから。そして、自分の好きな人は後にも先

にも風早くんだけなのだから。


(ごめんなさい・・・田口くん)


爽子は風早にもらった指輪をそっと箱から出して、薬指にはめた。そしてぎゅっと指ごと

握りしめる。想いをそこにこめるように、願うように。


”会いたい・・・”


ぐっと顔を上げ、背筋を伸ばして未来へと歩いていく。爽子は風早の笑顔を思い浮かべな

がら前に一歩踏み出した。



お互いが同じ夜、同じ月を見ながら飛行機に乗り込んだ。会えると信じて・・・。




**********



北海道に着いた風早は生まれた地に大きく息を吸った。そしてはやる気持ちを必死で抑え

て自分の街へ向かって歩き出す。自分たちの生まれた街へ。


ところが想定外の出来事が起こった。


『―えええっ!!仙台!?』


風早は爽子の家の玄関先ですっとんきょうな声を出した。出迎えてくれた爽子の母から全

く予想しなかった返事が返って来たのだ。


「・・・うそだろっ?」


黒沼家から出て、茫然としたまま歩き出した風早は再び大きな声で呟いた。もう仙台行き

の最終便はなかった。電車ももちろんない。風早は近くの公園を通りかかるとベンチにが

っくりとうなだれた。そして当たり前のように会えると思っていた自分自身を恥じた。


”会ってくれるだろうか”


と心配しながらも絶対会えると信じていた自分は何なのかと。


「あ″〜〜〜〜〜〜〜っ!!」


風早は頭をくしゃくしゃっとすると思いを吐き出すように叫んだ。


なぜ、彼女は仙台に・・・?


風早の心臓がとくんっと脈打った。爽子の母は何も言わなかった。ただ仙台に行ったと。

仙台・・・・。


”「なぜ・・・仙台に?」

 「ふふっ・・・さてなぜかしらね。爽子は何も言わないから分からないわ。ただ、仙台に

  行ったのよ」”


田口も北海道にいる。なぜ仙台に・・・?


風早はパっと赤い顔を上げた。そして大きく身体をのけ反らせて夜空を見上げる。


もう怖いものは何もないのだ。自分の全てだった彼女を失った時、怖いものは何もなくなった。


だから今は・・・ただ気持ちを伝えるだけ。


風早はガバッと身体を起こすと、携帯のボタンを急くように操作した。すぐに出てくる

彼女の番号。しばらくその番号を見つめた後、想いを込めるようにボタンを押した。


プルプルプル〜〜〜


どくん、どくん、どくん、


電話のコールを耳で感じながら心臓の音が早くなっていく。


俺は何もまだ彼女から聞いていないことを改めて思った。どんな話でもいいんだ。彼女の

話を聞きたい。そして俺の思いを届けたい・・・。


ピッ



風早の目にはもう何の迷いもなかった。ただ一直線に爽子を想った。














あとがき↓

訪問者様のコメントで時空がおかしくなっていることに気付いた(汗)教えてくださった方、
ありがとうございます!!81話の修正しときました。そうです。沙穂が風早と会ったのは
北海道から帰った日の金曜日でした。そして、家に帰ると美穂が帰ってくるという設定で
書き直しました。よければ読んでください。一応、このすれ違いをしたいがために日を追っ
ていたのでした。(しょーもない(´,_ゝ`)プッ)でも二人はこれは暗くならないのでご安心を。
それではまた遊びに来てください。

Half moon 83