『二文字のコトバ』3

以前は言葉に出来ていた『好き』と言う言葉。今は気持ちが大きくなりすぎてお互い

言葉にできない。それぞれ大人になり新たな壁にぶつかる二人。社会人の二人のパラ

レルです。一話ごと交互に視点・シーンが変わります。この回は爽子視点でどうぞ↓


お互い同じ想いを抱えながら言葉にできない二人。大人になりそれぞれの世界が
広がっていく中、新しい人間関係も広がり・・・。


『二文字のコトバ』 1 2 の続きです。
























高校の時、人と上手く接することが出来なくて誤解されることが多かった。けれど、

今から考えたら私が大きな壁を作っていたのだと思う。でもその壁を壊すきっかけを

作ってくれたのは翔太くんだ。あの時があったから今、こうして沢山のいい人達に出

会うことができたのだと思う。尊敬の気持ちがいっぱいで分からなかった、恋愛感情。

高校の時から何も変わらない。いや、変わっているのかも。

もっともっと好きになっている。


”『好き・・・好きなの』”


どんどん素敵になる翔太くん。翔太くんに会うたびにドキドキして言えなくなるの。

あの時のように・・・・。

もっと自分に自信が持てたら違うのだろうか?私は翔太くんにふさわしい?

そんなことをいつも考えてる。



「黒沼!!」

「あ・・今野さん」


退社後、駅に向かって歩いている背後から私を呼ぶ声がして振り返るとチームの先輩、

今野さんが手を振っていた。


「一緒に帰ろ」

「え?こっちの方面ですか?」

「うん。引っ越したんだ」

「えぇ?知らなかったです」


今野さんは私より5年前に入社している先輩で仕事上とても頼りになる先輩なのです。

自分の意見をはっきり言って皆を引っ張っていってくれる。憧れている女子社員も多い

と同僚の亜美ちゃんが言っていた。そして私と普通に接してくれる。


「折角だから引っ越し祝いしてくれない?」

「え?」

「ココ」

「?」


今野さんが指さしたところは駅前の立ち飲みバー。戸が開けっ放しで電車待ちの人な

どが気軽に飲める雰囲気だった。


「ここなら彼氏に文句言われないだろ?次の電車まで、後20分あるし」

「・・・はい」


こういうところがすごいなぁと感心する。

先輩と言っても翔太くんはきっと嫌がるよね?そんな配慮が行き届く人だ。仕事だけ

でなく人として本当に尊敬するの。


「彼氏忙しんだ?」

「あ・・でも週末は会えるのでっ」

「一回見たことあるけど、彼氏イケメンだよな。心配?」

「あ・・・はい」

「ははっ・・・素直なところが黒沼のいいとこだな」

「そう・・・ですか?」


会話がスムーズにいくのも、一緒に居て心地いいのも全部今野さんがリードしてくれ

るから。普段は上手く出ない言葉も今野さんといると思ったまま出てくるの。


「もっと自信持ちなって。黒沼きれいだし」

「えぇぇ〜〜!!ものすごいサービスをっ・・」


思いがけない言葉にびっくりした私に今野さんは真顔で言う。


「思ったこと正直に言っただけだけど?俺、社交辞令は言わないの知ってるよな?」

「は・・・はい」

「じゃ、そーいうこと。自分のことになると素直にならないんだから。素直に気持ち

 言いなさい」

「う・・嬉しいです」


私がそう言うと、今野さんはぐいっとおちょこのお酒を飲み干してにかっと笑った。


「はい、よくできました」

「・・・・」


そんな今野さんにだからかな・・・私も普段人に言えないことを相談するようになった。


「へぇ・・・最近”好き”って聞かなくなったんだ」

「私の気のせいかもしれないんですけど・・・」


すると今野さんが黙り込んだので顔を上げると、真剣な顔で私を見ていた。


「?」

「黒沼から言ったらいーんじゃないの?」

「う”・・・そうなんですけど、なかなか言葉に出来なくて」

「不安なんだ」

「うわ・・・今野さんってエスパー??」

「ははっ・・・分かる?な〜〜んてな。お前の考えてることぐらい分かるわ」

「そういうもの・・なんですか?」

「もう3年も一緒に仕事してるからな」

「・・・・」


3年・・・。翔太くんとはもう7年近くお付き合いしているのに分らない・・・。


「いたっ」

「ばかやろ。一人で暗くなってんじゃねーよ」


ピンっとデコピンされ、私はハッとした。今野さんはそう言って豪快に笑う。


「”恋は盲目”って言うだろ?見えるもんも見えなくなってんだよ。男と女っつーの

 は言葉にしなきゃ通じ合えないメンドクサイ生きモンだからさ」

「・・・はいっ」


今野さんの笑顔と、電車からくっきり見える月を見て私は心に誓った。

今度会ったら私から言ってみよう。


”好き”という言葉。


このあふれるばかりの気持ちを素直に伝えればいいのだから。


この夜、気持ちが少し軽くなったような気がした。いつもこうやって今野さんに救って

もらっている。本当にいい人に出会えたと心から感謝した。



でもこの時の私は大学の時から友人に指摘されている、”恋愛に疎い”という自分の欠点

をすっかり忘れていたのだった。






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あとがき↓

おぉ!連続3日目。順調だ(* ̄ー ̄*)ブログを始めた頃は毎日更新を目指していたの
ですが、なにぶん二次。創作時間が取れなかったらUPできないですもんね。キミトド
本誌発売前に終わる予定!?よくある話ですが最後までよければお付き合い下さい。