『二文字のコトバ』2
以前は言葉に出来ていた『好き』と言う言葉。今は気持ちが大きくなりすぎてお互い
言葉にできない。それぞれ大人になり新たな壁にぶつかる二人。社会人の二人のパラ
レルです。一話ごと交互に視点・シーンが変わります。2回目は風早視点でどうぞ↓
順調に付き合っている二人。でも爽子は言葉にできない想いを抱えていた。そして、
風早は・・・?
『二文字のコトバ』 1 の続きです。
高校の時からずっと見ていた。彼女に出会って初めて感じたドキドキや不安。これが恋
だと分かった。身体の底から湧き上がってくる愛しい気持ち。一緒にいればいるほど好
きになって、コントロールできなくなる。大学生になって社会人になって、離れる時間
が多くなる中、俺の不安は募るばかり。俺のいないところでどんどんきれいになる彼女。
全部俺だけに見せて欲しいとか言葉にできない想いをずっと抱えていた。好きすぎてき
っと彼女を潰してしまう。きっと重くなってしまう。だからこそ、俺はコントロールを
始めた。二人でいる時間以外に彼女のことを考えるのは極力よそうと。一生懸命仕事し
て、周りと上手くやって、それなりに他人と時間を共有する。
そうでもしなければ怖かった。
自分自身が壊れそうで・・・。
* * *
「どーぞっ」
「おじゃま・・しますっ」
週末の夜は一緒に過ごす。それでちゃんと満足して切り替えられるようになるまで実は
3年かかっている。いや、今も切り替えられてなんかいない。彼女と離れた後の月曜は
精神的にひどいもんだった。
「いつもとってもきれいにしてるね」
「そりゃ爽子が来るからだよ。爽子がいなくなったらやばいよ〜〜」
「そうかな?翔太くんは高校の時からきれい好きだと思うのだけれど」
「ははっ爽子にはそんなとこしか見せてないかも。よく思われたいもん」
「////」
こんなことは気軽に言えるのに、なぜだか、気がづいたら俺は”好き”という気持さえ伝
えられなくなっていた。あまりにも好きになりすぎて、その言葉を口にすると暴走して
しまうんじゃないかって。気持ちにブレーキをかけるようになったのはあの日から・・・。
ある日、爽子の会社近くでデートの待ち合わせをすることになった。だけどたまたま仕
事が早く終わった俺はかなり早く到着し、近くでお茶をして時間を潰すことにした。
その時、窓越しに男と二人で近くの郵便局に入る爽子の姿を目撃してしまった。どう考
えても仕事中だと分かるので相手は同僚だろう。でも優しい笑顔で微笑む爽子を見て、
ジリッとした感情を覚えていた。今までも爽子を好きになった奴とか男友達と一緒に居
る姿を見て独占欲丸出しになったこともあった。でもなぜだろう・・・その時、ふっと
自信がなくなったんだ。仕事で躓いていたということもある。声を掛けることもできな
かった。違う世界の爽子を見てしまったからだろうか。
爽子を知れば知るほど膨れ上がるキモチ。彼女は重荷に感じないだろうか?そしてもし
同じ気持ちでなかったとしたら・・・。
「翔太くん?」
「ごめん、ボーっとしてた。お茶入れるね」
「あっ・・・クッキー作って来たの食べる?」
「わっやった。うまそ〜〜」
俺が大人になったところは少しは表面上上手くやれるようになったところだろうか。
以前と同じではいられない。もう子供じゃないんだ。努力さえすれば欲しいものは手に
入れられると信じて疑わなかった子供では・・・。
爽子を抱いていても、隣に温もりを感じていてもどこかで不安だった。もしこの温もり
がなくなったらどうしよう・・・と。
身体を重ねながらいつもなら何回も言っていた”好きだよ”と言う言葉。どうしても素直
に言えなかった。彼女は優しいから例え好きでなくなったとしてもそのことを言えない
だろう。たった一つの言葉が俺に重くのしかかる。
爽子に嫌われたくない。重荷に感じられたくない・・・その一心で毎日過ごすことに一
生懸命だった俺はどこかで無理を生じていたのか、他人が入る隙間をいつの間にか作っ
ていたことに気付かなかった。
そして自分のことでいっぱいで、爽子を不安にさせていることに気付けなかったんだ。
『二文字のコトバ』3 へ
あとがき↓
なんというか、好き同士なのにもどかしい二人を見ていたら意外とこういう感じでつ
まづきそうと確かその頃予想して書き始めたのだと思います。長く一緒にいたら好き
でいるのが当たり前なようで本当に?という感じで。そして長らく訪問なさっている
方はご存じかと思いますが、私、やはり社会人の話が好きなんですよね。多分高校生
はかけ離れすぎて分からないというか(汗)社会人になったらさらに人間関係が広ま
りますから、いろいろあって不思議ないっていうか。そういうのありませんか?