「Once in a blue moon」(37)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。
こちらは 「Once in a blue moon」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 の続きです。  
 


☆ 美穂に会って自分の存在を知られたかもしれないという不安から庄司を自ら訪ねた
麻美。そして、蓮の過去に深く入っていく。 

















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 37 ‥…━━━☆














どくっ・・・


先生は答えてくれる。

・・・そう思いながらも無言で見つめる先生に一瞬怯みそうになる。沈黙の時間がや

たらと長く感じた。


呆れられるかもしれない・・・蓮の知り合いにこんな形で会っていくなんて後後よく

ないことは容易に想像できる。でも5年先の未来も今がなければ描くことはできない。


私は未来に蓮といたいからココにいるんだ・・・。


麻美は自分に言い聞かせるように意志を強く持った。しばらくの間の後、様子を見て

いた庄司が口を開いた。


「そうですか・・・蓮さんの彼女さんだったんですね。偶然ではなさそうですね」

「はい・・・すみません」

「どうして?」

「え?」

「謝る必要なんてないですよ」


庄司はそう言って優しく微笑んだ。


私は先生の言葉に肩の力が一気に抜けた。先生は本職だから患者の気持ちを和ますこ

とは当たり前なのかもしれないが、それだけじゃない。きっとこの人に救われる人は

多いだろう。この一瞬でそう思った。


「蓮さんともしばらく会ってないなぁ・・・元気ですか?」

「あ、はい多分・・・私も会ってないけど」


そんなことを言っても無理に探ってきたりしない。その感じがとても心地良かった。


「あの実は・・・蓮に内緒で仙台に来たんです」

「そうですか」

「そうですかって・・・驚かないんですか?」

「・・・観光客はあまり行かない場所におられたので」

「あっ・・・」


全部お見通しだ。全面降伏。麻美はふっと笑うと包み隠さずストレートに言った。


「美穂さんに会いに行きました。どうしても蓮の過去が知りたくて」

「そうだったんですね」

「で・・・でもっ私はとんでもない事を・・・っ」


いつもは冷静な麻美が身体を震わせて泣き始めた。人前で感情を出すことが苦手だった。

でも蓮に会ってからコントロールできなくなった自分自身。麻美が昼間の出来事を堰を

切るように話すと庄司は一息置くように再びお茶を勧めた。


「このお茶はアロマ効果があり神経が安らぎます。どうぞ」

「あ・・・りがとうございますっ・・・」


美穂さんが先生の前では子どものようになるのが分かった。何か全部見せてしまう。

麻美は庄司が入れてくれた紅茶を一含みすると気持ちが落ち着いていくのが分かった。

まるで初めて爽子の家に行ったときに飲んだお茶のように・・・。


「大丈夫ですよ」


庄司が物静かな説得力のある声で言った。麻美はお茶を置いて視線を上げる。


「大丈夫です」


庄司にそう言われると本当に大丈夫のように思えるから不思議だ。麻美は少し安心し

た表情で庄司の言葉に耳を傾ける。


「美穂さんはあなたのこと、何か感づいたかもしれませんが、”彼女”だとは思ってな

 いと思いますよ。それに前と違って今は自分をコントロールできているのでちゃん

 とやっていい事、悪い事、分ってます」

「・・・・」


その時私は爽子さんにナイフを向けたという話が頭に浮かんだ。確かにあの目は何を

するか分からないと直感的に思った。それでも今は大丈夫だと言うのか。


「なぜ、美穂さんは私に蓮のことを・・・話したんでしょう?」

「あなただからだと思いますよ」

「え?」

「・・・あの人は感覚的に人を選びます。だから、蓮さんだったんじゃないですか?」

「!!」


感覚的に人を選ぶ・・・私はその意味がよく分からなかった。

でも、美穂さんが蓮を好きになったわけは私が一番よく分かった。私は蓮の何に惹か

れたのか?理由なんてない。そう、感覚的に最初から好きだった。


「先生は今も美穂さんの主治医なんですか?」

「いえ、身内になったので友人を紹介しました。でも状況は全部聞いてます。さすが

 に主治医じゃなくなったからと言って退けませんからね」

「じゃ・・・過去の美穂さんも今の美穂さんも全部知ってるんですね?」

「そういうことになりますかね」


麻美は気持ちを落ち着かせるためにもう一含み紅茶を飲んだ。そしてゆっくりと蓮の

過去へと入り込んでいく。


「・・・今も美穂さんは蓮が好きなのがよく分りました」

「そうですね。あの時も今も、美穂さんにとって蓮さんは絶対的存在です」


”絶対的存在”


その言葉に二人の歴史を感じた。重く長い歴史・・・。


「終わることのない”恋愛”の部分は今もあります。恋愛・・・憧れですかね。でも、

 恋愛は楽しいことだけじゃないですよね。美穂さんにとってもそうだったと思い

 ます。だから苦しんで病気にもなったのでしょうから」

「美穂さん・・・蓮にひどいことをしたと言ってました」

「そうですね。その部分を認めることができるようになるまで時間がかかりましたが、

 今は認めています。だから蓮さんを傷つけることはもうないでしょう。でも・・・

 それ以外のことは頭にないというか・・・忘れています」

「・・・・」


幸せな人。きっといろいろな人を巻き込んで迷惑を掛けても自分自身の汚れはない。

そんな気がした。


「うちの奥さん・・・彼女も美穂さんを受け入れることに苦労したと思います。精神

 疾患と言っても以前の美穂さんと変わらなかったり、深層心理をついてきたりしま

 すからたまったものじゃなかったと思いますよ」

「以前の美穂さんって・・・どんな人だったんですか?」

「華やかな人だったようですね。自然に彼女の周りに人が集まるような」

「・・・・」


分かる気がした。きっと彼女がいるだけでぱっと光が差すような感じがする。蓮は美

穂さんのそんなところに惹かれたのだろうか?

でも・・・人を選ぶと言った。と、考えると蓮のように深いところがある人なのかも

知れない。でも正直精神病の人と一緒に居るって大変だ。少しの時間接しただけでも

身内の苦労を感じた。


「沙穂さん・・・でしたよね?仲が良い姉妹なんでしょうね。身内だと言ってもなか

 なか付き合えるものじゃないですよね」

「・・・それがうちの奥さんは逆で、姉妹で色々確執があったようで、病気をきっか

 けに向き合おうと思ったようですね」

「へぇ・・・」

「なぜだか分りますか?」

「え?」


先生は合図するように私を見た。訳が分からず、茫然と先生を見つめる。


「・・・蓮さんのためです」

「あ・・・」


苦しんでいる蓮を美穂さんから解放してあげたかったのでしょうと先生は言った。

沙穂さんの過去はよく分からない。でもその確執と向き合うということはかなり勇気

のいることだっただろう。


「蓮さんの仲間はうちの奥さん含め5人で、学生の頃から仲が良かったようですね。

 だから・・・みんな蓮さんを心配していたんですよ。蓮さんは皆に愛されている」

「・・・・」


自然に涙があふれた。

そしてかなりの自己嫌悪。蓮の過去を知りたくて、蓮の口から思い出したくない過去

を私は言わせてしまったのだ。仲間の人たちが必死で守っていた蓮をきっと傷つけた。


「私・・・蓮にひどいことをしていました。実際美穂さんに会って、どれほど重い過

 去か分りました。それなのに・・・蓮に沢山言わせてしまった・・っ」

「いや、そんなことないと思いますよ。蓮さんはもう美穂さんのことは乗り越えてい

 る。責任感が強い人なので気がかりだとは思いますが、恋愛関係に関してはもう十

 分清算できているはずですよ」

「そ・・・うですか」


じゃ・・・なぜ蓮が未だ何かを抱えていると思ってしまうのだろう。

でも、蓮は小さいころから家庭も複雑だと聞いた。色々背負っているのだから美穂さ

んのことが清算できていたとしても沁みついたものが沢山あって当然だ。

そんな蓮を癒すことは私にはできないのだろうか・・・。


「それともう一人、・・・爽子さんに出会ったからみたいですね」

「え??」


いきなり”爽子”と言う名前を聞いてトリップしていた頭が覚醒する。咄嗟に出た名前

に心臓がバクバクいっていた。


(・・・えっっ・・・?)


その時、美穂さんが言っていたことがフラッシュバックした。



”『 でも運命の相手だからきっといつか一緒にいられる 』”



私は呼吸をするのも忘れて先生を見つめた。




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あとがき↓

消えた・・・ごめんなさい。一回UPした内容と違ってます。