「瞳は知っている」番外編3「大切なもの」


これは「瞳は知っている」という話のハルの物語です。リクエストを受けて書きました。
時系列的には「瞳は知っている」と「Time goes by〜」の間に入る話です。
興味あるマニアック方は以下からどうぞ↓




























翔太がいなくなって4年目の春、俺は彼女と別れた。今から考えたらあんなに長い間

よくつなぎとめてたな・・・と思う。きっとこの先あんなに執着した恋はないだろう。

翔太と彼女が付き合ってから1年の月日が経過していた。その間気にしているだろう

二人に早く元気な姿を見せないと、と焦ってはいた。


”もう気にしてないで。普通にこれからも3人で会おうなっ””


何回もシミュレーションしてはぎこちなくなって、上手くできるか自信がなくなった。

そのたびにまだ会えないって思う。こんな演技すぐに見破られてしまう。

彼女のことがまだ好きなのか?と聞かれると、好きだけどヨリを戻したいとかそんな

じゃない。新しい恋も普通に探してる。でもあの3人でいた日々が脳裏に浮かんでは

気持ちが萎えてしまう。気持ち的には大丈夫なのに複雑すぎた。あの時は俺の彼女が

今は翔太の彼女。形を変えた3人で以前みたいに会う。それがどうも上手く処理しき

れないのだと思う。お互い遠慮みたいなものがあるだろうし・・・。



頭の隅にいつもそんなことを考えながら毎日を過ごしていた時、神様に背中を押され

るような出来事が起こる。


”もう、そろそろ何とかせぇよ”


そう言われているかのように・・・・。



* * *


今日はクラス会。そう、高校の時のだ。散々迷ったが結局行くことにした。実際彼女

は来ているとは思えない。なにせ北海道にいるんだし。


「おぉぉ〜〜〜ハル、元気かぁ〜〜っ!」

「皆ひっさしぶり〜〜っ!幹事まかせてごめんなっ」

「そうやんっ!ハルがてっきりしてくれると思っててんで〜〜」


わいわいっ


貸切の小さなイタリアンレストランに入ると、懐かしい面々が一気に押し寄せた。

24歳ともなれば皆しっかりと社会人やっていて、関西にいない人間もいるが、この

クラスは結束が固く結構な人数が集まる。皆に会えて嬉しいが、もちろん俺は落ち着

かない。仕事で遅れた俺は自然に振る舞いながらも全体を見渡した。


”・・いない”


ホッと胸を撫で下ろしたのが正直なとこ。普通にしてるつもりだったが、やはりぎこ

ちなかったのか仲間の一人に突っ込まれる。


「なんやぁ、ハル。もしかして黒沼探してんの?」

「あ・・いや、え?彼女来てるん?」

「いーひんけど。なんやねん、もしかして別れたんか?」


からかい気味に言われたハルは思わず黙り込む。いつも明るく能天気なイメージが

あるハルには誰もが気軽にズケズケと入っていけるのだが、黙り込んだハルを見て

一同、し〜〜んとなってしまった。


「こっちがなんやねんやわ。し〜んとすんなよ。さすがに続かへんやろ。高校ん時やで」

「だってお前、去年は付き合ってたやん」

「・・・・」


そう、このクラスは仲がいいので毎年クラス会をしている。だから今回も行かない訳

にもいかなかったのだ。俺は正直に話した。そのまま俺の激励会のようになる。

”もうすっかり終わってるんやけど・・”なんて心で思いながらもアルコールが入って

いくと本音が顔を出す。騒ぎまくった後は祭りの後のようにしんみりとなった。ハル

だけでなく他にも失恋をした男女の告白や恋バナなどの話になった。


「みんな24歳ともなるといろいろあるよな〜」


ハルが言うと、泣き出す者もいて仕事の愚痴なども飛び出す。高校の時からハルはク

ラスの中心人物で悩み相談係でもあった。皆ハルのことが大好きなのだ。


「でもさ、ハル結局親友に彼女取られたんやろ?ちょっとそいつどうかと思うわ!」


一人の男がそう言うと、ハルはじろっと睨んで立ち上がった。


「ーあいつのことを悪くいうのは許せへんでっ!」


一同し〜んとしてきょとんっ・・となった。ハルはぎこちない様子でさっと座った。


「違うねん。取るとか取られたとかそんなんちゃうねん。そんなしょーもないこと

 ちゃうねん」

「なんやねん?」

「・・・・」


ハルはそう聞かれると、ゆっくりと目を瞑って穏やかな笑みを浮かべた。


「出会えて良かった・・・。それだけや」

「はぁ?」


そう・・・その時素直にそう思った。爽子にも翔太にも出会えて良かった。三角関係

がどうとか、関係が変わったとかどうでもいい。複雑に考える必要なんかない。その

ことにこだわっている方がもったいないような気がした。どんなカタチになろうと、

この世に生まれて出会えただけで奇跡なんじゃないだろうか?周囲に言われて分かる

なんて・・・・。


俺は勝手に身体が動いていた。この一分一秒、もったいない。


「−え?ハルっ!?」

「俺、ちょっと外すわ」


さらに呆気に取られるクラスメイトを俺は愛おしく眺めながら席を立った。

伝えないといけないことがある。


がちゃんっっ


「あ・・・・」


ハルが店のドアを開けると、そこには神様からのプレゼントが待っていた。


「爽子・・・・翔太」

「ハル」


翔太と彼女が立っていた。そしてすでに彼女は涙でボロボロだ。


「も・・・しかして聞いてたん?」

「悪ぃ・・・入ろうと思ったらハルの声が聞こえて・・・」


申し訳なさそうに言う翔太を見て羞恥に見舞われたが、なんだがたまらなく会えたこ

とが嬉しくなった。その感情が全てなんだ。


「俺、ずっと二人に言いたかってん。さっき言ったこと。・・・二人に会えて良かっ

 たって。例え、関係のカタチが変わったとしてもその気持ちは同じや」

「ハル・・・」

「だから、今までごめんな」


きょとんとする二人に俺は改めて頭を下げた。


「二人のことが分かってたのに固執してごめん。恋愛とか友達とかそんなことより大事

 なことがあることに気付いたんや」



” 二人に出会えて良かった ”



ハルはそう言ってにかっと笑った。爽子はさらに涙を流しながら一生懸命言葉を紡ぎ出す。


「あ・・りがとうっ」

「爽子〜〜相変わらず泣き虫やなぁっ!今度3人であそぼーなっ」

「ハル・・・ありがとう」


翔太はそう言って会った時から変わらない真っ直ぐな目を俺に向けた。俺だけじゃない。

やっぱりこの二人も同じ想いでいたのだと思った。あの海で再会した二人はきっと俺に

心のどこかで遠慮しながら1年過ごしてきたのだろう。こんな二人だから大好きなんだ。


「ほらっよく北海道から来たな。入れよ。みんな〜〜〜〜爽子と彼氏登場やでっ!!」


一同うわぁぁ〜〜っと湧いた。


俺に会うために二人はここに来てくれたんだ。それは自分たちが前に進むためだけじゃ

ない。俺を大切に思ってくれているから・・・。


色々あった。長い人生これからも様々なことがあるだろう。


でも、3人の関係は変わらない。お互いが出会った奇跡を大切に思っている限り・・・。




俺は二人の笑顔を清々しい気持ちで眺めながら、心からそう思った。




<おわり>

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あとがき↓

Time goes by〜」という話を書いた時に頂いたリクエストをずっと書かずにこんな
に遅くなってしまいました(-_-X)リクエストは「ハルが爽子と別れてから二人に再会
した話、二人に初めて向き合った話」でした。b様リクエストありがとうございまし
た。満足いただけたか分かりませんが、私はハルが二人に向き合う時には新しい出会
いというより本当に大切なものは何なのかと考えられる時なのかと思いました。そし
て爽風も付き合ったものの絶対ハルのことが気になっているだろうと思いました。そ
れから「Time・・・」ではやっと爽子の想いがふっきれたような感じで書いてますが、
この話で大切なものに気付きながらも想いはいろいろですよね。そんなことも含めて
間にこのような話を入れてみました。いががだったでしょうか?
私のオリキャラの中で特に大好きなキャラの話を読んでいただいた皆様ありがとうご
ざいました。