「瞳は知っている」17 

※ 前書きから読んでください。こちら⇒前書き
※ 風早×爽子カップルではありません。オリキャラ登場します。


このお話は 「瞳は知っている」         10 11 12 13  14 15 16 の続きです。

あらすじ*ハルとのわだかまりが取れた風早はあの懐かしの海へ向かった。最終話です。
それでは以下からどうぞ↓











「瞳は知っている」 episode 17 The last episode











ザ――ッ


大学1回生の夏、皆で泊ったホテルが見えた。


「うわっ懐かし・・・・」


風早はそのホテルの後ろから差し込む夕日に手を翳しながら懐かしそうにホテルを

見上げた。


ガサッガサッ


砂浜を歩きながらハルと語り合った夜を思い出す。


”『翔太さ・・・あの海、帰国してから行ったか?』

 『ああ・・・あの海?・・・行ってないけど?』

 『久々に行ってみろよ。変わらへんで。相変わらず夕日がきれいやしな〜』

 『・・・ああ、そうだな』”


それ以上、ハルは言わなかった。ケラケラ笑いながら・・・でもその目は優しかった。

こうやって穏やかな気持ちでこの海に来れるなんて、あの時は思えなかった。そして、

この海がつらい思い出だけで終わるのが嫌だった。


だから・・・・1年以上来れなかったんだ。


ザザ――ッ


「ハル・・・・来たよ。海」


風早はどかっと砂浜に座った。そこは皆で花火をした場所。

砂を握りしめては落としながら懐かしい記憶を頭に浮かべた。


懐かしい・・・。あの夏、初めての恋心に気付いた。そしてその想いが深くなれば深くなる

ほど、胸が切り裂かれるほどの苦しさを覚えた。あんなつらい想いは初めてだった。

ハルと全て洗い流した夜。あんな日がいつかくることを願いながら彼女にサヨナラしたっけ・・・・。

あの時、彼女の瞳に気付いたからこそサヨナラするしかなかった。


俺は、どちらも選べなかった。偽善者と言われようと。友情も愛情も深すぎて。


彼女は元気だろうか・・・・。ハルは何も言わなかったけど、まだ俺に気をつかってるかと

思うと、なぜだかあいつがすごく愛しくなった。もう、すっかり終わった想いなのに。


すっかり終わった想いなのに・・・・。


風早は、砂を握りしめてはさらさらと下に落としていた手が止まった。


何度、自分の心の中から追い出そうとしても追い出すことのできなかった彼女。

すでに想い出に出来ているのか・・・? 過去に出来ているのか?

風早は一点を見つめたまま、固まっていた。


がさっ


その時だった、向こうから聞こえた、砂を踏む音に風早は振り向いた。そして、まるで

夢かと思う光景に目を疑った。


「・・・・・!」

「あ・・・・っ」



夕日の向こうに長い黒髪が揺れていた。



*********



「か・・・ぜはやくん・・?」


俺は思わず何も言えず、その場に立ちすくんだ。そこには昔とは変わらない面影で、少し

大人っぽくなった黒沼がいた。


ワンワンッ


「あっ、マルちゃん、ちょっと待って・・・」


飼い主のヒモを必死で引っ張ってマルちゃんと呼ばれるマルチーズは元気に飛び回った。

俺はやっと言葉を発することができた。


「黒沼?・・・・どうしてここに?」

「あ・・・・この近くに職場があるので・・・」

「え?ハルと一緒に大阪にいるんじゃ・・・」

「あ・・・・」


黒沼はそう呟くと、マルチーズを近くにあった切り株に結び付けて、俺の方に来た。

彼女が近づいて来ると、俺の心臓は早鐘を打ち始めた。


「か、風早くん・・・おかえりなさい」


彼女が恥ずかしそうに笑った。表情は固かった。

ああ・・・・帰ってきたんだ。彼女に会ってそう思うなんて。帰って1年も経つのに。

例えハルの彼女でもやっぱり会いたくて・・・会いたくて・・・。

俺はつらかった留学先での想いを思い出した。消そうと思っても消えなかった心の中

の彼女。そうだ・・・今も想い出になんかなってない。

ただ、あのつらい想いを忘れたいだけなのだと。


彼女に会って気付くなんて・・・・。


「ただいま・・・」


ワンワンッ


犬の鳴き声に二人は一斉にそちらを見た。


「黒沼の・・・犬?」

「あ・・・ううん。職場で飼っているの」

「職場って・・・!?」


訳の分からないという表情の風早を爽子はそっと見上げて、緊張している面持ちで拳を

握りしてめて風早の隣に静かに座った。その行動をただ茫然と見ていた風早。


「あの・・・風早くん・・・どうしてここへ?」

「あっ、俺?俺、北海道に帰ってて、市内の方で仕事してんだ。それで・・・」


俺を見つめる彼女。


どくん・・・どくん


何だよ・・・全然終わってなんかなかった。俺・・・・本当にしつこいかも。

7年前と同じじゃないか・・・。あの想いをまた繰り返すのか!?


「ハルが・・・・」

「・・・・・!」

「ハルに久々に会ってさ・・・それで、なんか海へ行けとか言うもんだから・・・」


風早と爽子は見つめ合った。お互いの瞳がぶつかる。この瞳は・・・・・!?


「く・・・ろぬま?」


どくんっ


彼女は俺を見つめた後、すぐに目を伏せて俯いた。そして・・・小さな肩を震わせている。

泣いて・・・る?


「・・・どうしたの? 黒沼・・・?」


どくん・・どくん


横に彼女がいる感覚に夢をみているようでまだ現実感がない。でもそこにはやっぱりリアルに

彼女がいて、夢にまで見た黒沼がいて・・・・・。


気がついたら手を伸ばしていた。震える彼女を強く・・・強く抱きしめていた。

そうしないと消えてしまいそうだったから。またどこかへ行きそうだったから・・・・。

いや・・・ただ自分の気持ちが抑えられなかった。


風早はその瞬間全てを忘れた。ただ彼女を抱きしめていた。



(・・・はっ!!)



「ご、ごごごめんっ〜〜〜〜!!!」


我に返った風早は、慌てて首に回していた手を離そうとすると、自分の胸の部分に当てていた

彼女の手がぎゅっと俺の服を掴んだ。


(・・・え?)


「か・・ぜはやくん・・・」


そう言って彼女は大きな瞳に涙を浮かべて俺を見上げた。その顔は紅潮していて・・・・。


(な・・・なんて顔してんの!?/////)


ドクン ドクン


「私の・・・話を聞いてください」

「う、うんっ」


ドクン ドクン


そういうと、彼女は俺から離れて涙をごしごしと拭った後、真っ直ぐ俺を見た。


「ず・・ずっと好きでした。・・・今も好きで・・・・・好きで、好きで・・・やっぱり

 忘れられなくって・・・・出会った時からずっと、風早くんが・・・好きで・・す」

「・・・・・・」


彼女の後ろから夕日が差し込んできれいな黒髪が揺れている。やっぱり夢なんじゃないか!?


風早はそのまま固まってしまった。爽子はそんな風早の姿を見てはっとした顔をした。


「あ・・・ご、ごめんなさい!!突然こんなこと・・・本当にごめんなさいっ!!」


彼女は返答がない俺に向かって必死で頭をぺこぺこ下げている。

俺はただ夢でないことを確かめたくて、もう一度彼女の手を引っ張ってこっちを向かせる。


とにかく確かめたくて・・・・彼女の顔を見つめた。でも、恥ずかしそうな彼女を見れば見るほど、

触れている身体を感じれば感じるほどリアルで、これは夢じゃないと実感した。


「黒沼!」


いきなり大きな声で呼ばれた爽子はさっと顔を上げた。


「俺も・・・俺も好きだよ!!ずっと好きだった!!会った時からずっと・・・向こうへ行っても

 やっぱり忘れられなくて・・・・黒沼と・・・同じ・・」


今まで口に出来なかった想いを思いっきり大きな声で口にした瞬間、心からの喜びが全身に溢れた。

彼女は驚いたように大きく目を見開き、大きな瞳から大粒の涙が次から次に流れた。

想いは同じだと彼女の瞳は語っていた。


7年前伝えられなかった想い。風早はもう一度強く彼女を抱きしめて、一粒の涙を流した。



*********


ザバ――ンっ


「・・・そっか・・ハルの奴」

「うん・・・」


風早と爽子は波打ち際のテトラポットに座りながら、今までの話を始めた。


「俺・・・7年前、ずっと思ってた。”違う時、違う場所で出逢えていたなら”って・・・・。

 どうしてもあの時、自分の気持ちを優先できなかったんだ」


風早の言葉をしっかり受け止めるように聞いていた爽子が静かに言った。


「・・・私もだよ。でも別れる時、ハルくんに言われたの・・・」



”「爽子が理性を優先すればするほど、人を傷つけることもあるんや。このままでいることが

  本当に爽子にとっても、俺にとっても幸せか考えてみ。答えは出るやろ」”



話しながら、また彼女の瞳からは涙が溢れた。


ハルと別れる時どんなにつらかったんだろう。

ハルもどんなにつらかったんだろう。


”もう、ええんや・・・”


そして、彼女の背中をハルがそっと押したことを知ったのはその後のこと。


「ハルくんに・・・・出会えて良かった」

「うん・・・俺も」


風早は爽子の手を取って、その場に立たせた。向き合う二人。真っ直ぐな風早の目は

爽子のきれいな瞳を捉える。


「・・俺と付き合ってください!」

「・・・・・・っ!」

「ずっと・・・ずっと大切にするから」


爽子は大粒の涙を流した後、風早が大好きな笑顔で嬉しそうに微笑んだ。


「・・・・・・はい」


そして・・・風早が爽子に顔を近づけると、爽子のかかとがそっと上がった。

夕日に照らされた二つの影はいつまでもいつまでも離れなかった。


あの時の自分の選択が正しかったのか間違っていたのか・・・分からない。ただこれだけは言える。

あの時、俺と同じ重さでハルも彼女のことを想っていた。だから大切にしていく。

ハルの想いも一緒に・・・・。



”いつか良かったと思える日がきっと来る”



風早は爽子の背後の海に目を向けた。そして次の季節に想いを馳せながら、

腕の中の宝物をもう一度、強く抱きしめた。



<END>

 







あとがき↓

そして、二人の姿をマルだけは見ていたと・・・・!
長らくお待たせしてすみません(大した内容じゃないのに)一応、補足としては、爽子は
海の近くで働いていて、職場の犬をボランティアで必ず夕方に散歩連れていくということ
をハルは知っていたという設定。だから海で会えるかどうかは風早の運次第という感じで
言ったという風にしました。でも運命の二人だからきっと出会えると、ハルは信じていた
のだと思います。後、ハルの心理として、はっきり”翔太のところへ行け!”と言わなか
ったのは自然に再会して欲しかったという設定にしました。それも優しさということで。
だから風早から爽子と想いが通じたことを伝えた時、「あっそ〜なんや!良かったやん」
なんて軽く言うと思います。自分は何もしてないという感じで。あんまり「ハルのおか
げ」とか思われるのが嫌いな人です。照れ屋なんで。ただ、風早のことはすごく好きで、
風早だからこそ、大事な爽子を渡すんや!!なんて心の中で思っていたりして。


な〜〜〜んて勝手な妄想を繰り広げてすみません(汗)

また、私の好きな詩とかあったらお話を妄想してしまうかもしれません。見捨てず、お付
き合い頂けたら嬉しいです。
それでは、最後まで読んで下さった方、ありがとうございました。

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