「大切にするということ」

大切にするとはどういうことなのだろう・・・?と悩んでいる時代の風早

くんの話です。久々の高校生話。

以下からどうぞ
























時々、息ができないんじゃないかと思うことがある。

例えば、彼女が黙り込んで俺をじっと見つめている時。

ふとした仕草、自然な笑顔を見た時。

そして・・・彼女との距離が近まった時。



地球上に酸素は沢山あるはずなのに俺はいきなり酸欠になってしまうんだ。

こんな経験は今までなくて、彼女と出会ってから戸惑ってばかり。


いや、息が出来ないんじゃなくて、呼吸をするのを忘れてしまう。

でも一瞬思うんだ。たとえ息ができなくなったとしても

彼女に触れたいと。

きっとその瞬間を永遠に感じるから。



「黒沼!」

「あ・・・・風早くん」


花壇に水を遣っている彼女の元に駆け寄る。その横顔をずっと見ていたい気分にもな

る。本当に大切そうに水を遣るから。


「ごめんなさい、お待たせして」

「大丈夫だよ。手伝おっか?」

「ううんっ・・・もうすぐ終わるので」

「分かった。ゆっくりでいいよ」


俺はそう言うと、後ろのベンチで本を読むふりをして彼女を見ていた。風になびく長

い髪が太陽の光に反射してきらきら光っている。白くて華奢な手足は俺とは全然違う。

小さな手をつなぐたびに俺が守りたいって思ってしまう。そして近づきたいと。

触れたいと言う感情は罪だろうか?


「風・・・早くん?」

「!!」


息が止まった。また呼吸の仕方を忘れていた。ぼーっとしていた俺の前にいつの間に

か彼女がいた。


「ごめん・・・ぼーっとしてた。終わった?」

「うん。お待たせしました」

「じゃ、かえろっか」

「うんっっ」


今は手を繋ぐこともできない。近づいたらきっと止まらなくなる。

大切にするってなんだろう?

どうやったら彼女を大切にできるのだろう?

この触れたいと言う感情は・・・?

最近、彼女より少し前を歩きながらそんなことばかりが頭の中をぐるぐるとまわって

いる。まさに悶々と。彼女の顔を見ることもできないんだ。


「・・・・」

「・・・・」


今、どんな顔をしてるの?どんなこと考えてるの・・・?

聞きたいことは沢山あるのに何一つ言葉にできない。


二人の間には沈黙が走る。これが最近の帰り道。


バタバタバタ〜〜〜〜ッ


「!」

「さ〜〜〜〜〜わこっ!」

「わっっ!!」


するとその時、いきなり後ろから透太が爽子のお腹に手を回しぎゅっと抱きついた。


「と・・・とたくん??びっくりした〜〜」

「へへ!!やった」

「・・・・」


翔太は言葉も出ずに茫然と弟を見つめる。ふと頭に浮かんだのは弟を羨ましいと思う

気持ち。彼女に簡単に触れられるアイツがただ・・・羨ましかった。


いつもなら怒って透太を爽子から離す翔太だが、まるで夢の中にいるようにその光景

を見ていた。ぼーっとして何も言わない兄を見て、怒りの頂点なのかと思った透太は

そ〜〜っと爽子から身体を離すと、爽子の背中をぽ〜〜んと翔太の方向へ押し出した。


「ーきゃっ!!」

「と・・・とた!?」

「そんな怒るなって!!ほら、交代するから」

「え・・・」


翔太はまるでスローモーションのように爽子が自分の方に近づいてくるのを見ていた。

そして咄嗟に爽子を受け止める。


ぎゅっ


「・・・・」

「・・・・」


二人は抱き合ったまま固まる。お互いまだ状況を把握できない。


「おっしあわせに〜〜〜♪」


透太はそう言ってにやっと笑うと鼻歌を歌ってその場を去って行った。やっと現実に

戻った翔太はバッと爽子の身体を離して爽子から視線を逸し、顔を上げた。


「と、とた〜〜っ!!覚えてろ!!」


翔太が大声で叫ぶと、透太は”ひえぇ〜〜〜”っと速足で逃げて行った。


「ったく・・・ご、ごめんっ・・・」

「う、ううんっ」

「・・・・」

「・・・・」


ぎこちない二人。翔太と爽子は向かい合ったままお互い無言になった。翔太はずっと

触れたかった爽子に触れ、心臓がものすごい速さで鼓動しているのを感じた。そして

自然に湧き上がってくる好きな子に触れたいという感情が不思議に愛しく感じたのだ。


(やっぱり・・・触れたい)


「黒沼」

「は、はい」


翔太に呼ばれて爽子がそーっと顔を上げた。爽子の頬は紅潮していて目は潤んでいる。

その顔を見るだけで息をするのを忘れてしまうんだ。


ドクンッッ


好きだ・・・。この気持ちが全てだ。


翔太はもう一度、爽子にぎゅっと抱きついた。そして抱きしめながら言う。


「俺・・・やっぱり黒沼に触れたい。好きだから」

「か・・風早くんっ////」


いきなりの風早の告白に戸惑っていた爽子だが、しばらくして遠慮気味に翔太の背中

に手を伸ばした。爽子の手の感覚を感じた翔太はさらにドキドキと鼓動が高まる。


「私も・・・触れたい・・よ」


小さな声だが確かに聞こえた爽子の声。彼女は嘘は言わない。それは自分に合わせたと

かではなく、彼女の本音なのだと思った。


「うん・・・俺も」


あぁ・・・彼女の温もり、胸の鼓動、震える手・・・こうやって触れ合わなければ感

じられない。好きだから触れたいんだ。それは自然な感情なのに俺はなぜこんなに難

しく考えていたんだろう。


大切にすると言うことは、彼女を大切に想うということなんじゃないか。


「・・・はは。とたにやられたな」

「え?」

「ううん・・・なんでもない」


翔太は爽子を抱きしめながらひとり言のように言った。


大切にするというのは、一人で考えることではなく、好きな人の気持ちも大切に考え

るということだ。これからは自分の話を沢山しよう。彼女の話を沢山聞こう。


でも・・・根本にあるのは息もできないぐらい、君が好きだと言うこと。

その気持ちはこれからもずっと変わらない。

だから・・・


「・・・もう少しこのままでいさせて」


翔太はそう言うと、清々しい顔で空を見上げた。

この日の空は翔太の気持のように、雲一つない真っ青な晴天が広がっていた。




<END>

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あとがき↓

この話は本誌で風早くんが理性と戦っていた時に書いたものです。久々にこのブログ
を開いて書いていたままUPし忘れていたので記事を出します〜〜!すっかり原作で
はラブラブですけどネ!モヤモヤ時代になんとかしたいなぁと書いた補完話でした。
なんかすでに懐かしいですね。