「はつこい」31

※ パラレル、オールメンバーは同じ。もちろんオリキャラ沢山出ます( ̄ー ̄)ニヤリ
※ 爽子と千鶴、あやねは同じクラス。風早は別クラスで交流がなかったという設定。
※ 爽子は高2の時に東京に転校してしまう。
※ 登場人物紹介は「17話」を見て下さい。


翔太とシンが飲んでいると、店にいきなり女性が現れて・・・!


こちらは 「はつこい」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 1819 2021 22
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興味のある方は以下からどうぞ↓

























「川田・・・・」


居酒屋の戸口のところに美しい女性が一人、怒り心頭のような様子で立っていた。

シンがその女性を見て呟く。どうも知り合いらしい。


「いい加減にしてよね、新」


”あらた”と呼ぶ女性に翔太は驚いた。シンとは一年以上の付き合いだが、シンを名前

で呼ぶ人物に会ったのは初めてだった。シンはバツが悪そうにすると”ちょっと抜ける

わ”とその女性の方に向かった。しかしその女性は引かない。


「何よ。皆の前では言えないっていうの」

「ちょっ・・・こんなとこで」


周りがざわつく。酔っぱらってる客からはヤジも飛ぶ。その女性は全く周囲を気にする

ことはなく、シンだけを見ている。そして鋭く睨んで言った。


「・・・私が本城さんに取られてもいいの?」

「・・・・・」


それでも無言のシンにしびれを切らしたように、その女性は大声で泣きながら叫んだ。


「ずっと・・・ずっと私は、新のことが好きなのに??」


翔太はシンの顔を見た。すると周りの状況も忘れて呆気に取られてぽかんと口を開け

ているシン。翔太はつんっとシンを突いた。するとシンは正気に戻ったように顔を真っ赤

にした後、顔を上げた。


「でもっ・・・川田と俺は釣り合わないし、よほど本城の方がって・・・」

「そんなのっ・・本気で思ってるわけ?それで私が幸せになると思ってんのっ!?」

「・・・・・」


周囲が水を打ったようにし〜〜んとなった。

固まったように動けなくなったシンを翔太は不安そうに見つめる。


(・・・やばいよ、シンさん。てんでダメじゃんっ)


そこにはいつもの兄的なシンの姿はなく、どう考えてもダメンズだ。その女性はシン

の答えを待っている。告白までされていると言うのに動かないシンに痺れを切らすと、

翔太は真剣な顔でシンに言った。


「シンさんさ・・・また試合放棄なんだ。一体いつまでマウンドに立たないつもり?」

「・・・!」


シンは翔太を無言で睨みつける。でも翔太は一歩たりとも引かなかった。しばらくの

間の後、シンは決心したように女性に向き合った。


「俺・・・俺もずっと京香が好きだった。いや、今も好きで・・・本当はずっとっ・・・

 本城なんかに渡したくないっ!」

「新・・・・」


”川田”が”京香”になった。こんなに感情をむき出しにするシンは初めてだった。初め

てだらけのシンに驚きは隠せないが、恋愛に不器用なシンがとてもカッコよく見えた。

例え直球しか投げられなくても、そんなシンを彼女はちゃんと見ていたんだ。

翔太は顔を輝かせて笑顔で言った。


「満塁ホームランだねっ、シンさん」

「翔太・・・」


シンは照れた表情で翔太に笑いかける。そして彼女は涙目で嬉しそうに笑う。


わぁぁ〜〜〜〜っパチパチパチッ


その時、一斉に周囲から歓声が上がった。今さらながら真っ赤になる二人が微笑まし

かった。シンは翔太に遠慮しながら彼女と店を出て行く。今から沢山話をするんだろう。

その後知ったことだが、彼女とシンさんは幼馴染でシンさんの”はつこい”の相手だと

言うことが分かった。長い回り道をしながらやっと想いが通じたのだ。


「なんだ・・・シンさん、初恋が実ったんじゃん」


翔太は思わず笑みがこぼれる。上手くいかないことだらけだったろうけど、シンさん

はずっと彼女を想っていた。諦められなかったんだ。彼女に想いが届くまでは・・・・。


”翔太は翔太らしく・・・”


「俺も・・・諦めたくないっ」


がたっ


翔太はもういてもたってもいられなかった。すくっと立ち上がると、勘定を済まし、慌

てて店を飛び出した。



************


その時爽子は―


「え??爽子ちゃん」


店に現れた爽子を見て、神楽は目をまん丸くさせた。そして横でいかにも視線を逸らし

てまずそうな顔をしているアキを睨むと、ぐいっと店の隅に引っ張った。


『ちょっと・・・なんで爽子ちゃんを連れてくんのよっ』

『いや、俺もそんなつもりなかったんやけど、思わず口滑ってもうて』


こそこそと喋っている二人を爽子を不思議そうに見つめる。

実はこの日、神楽がバイトを急遽休んだため、爽子がピンチヒッターでバイトに入った。

神楽が突然休んだことに関して、夜のバイトを忘れていたことをアキはうっかり爽子に

漏らしてしまったのだ。そしてそのバイトに大和がいることも・・・・。すると爽子はアキ

に店に連れて行って欲しいと頑として引かなかった。


『こんな純情な子を夜の店に連れて来たら犯罪よっ!』

『でも、爽子ちゃんが・・・・「あ、あの〜〜〜〜」』


背後でそろ〜〜っと上目遣いでやってくる爽子を見て、二人はびくっとする。


「ちょっ・・・びっくりした」

「す、すみませんっ・・・それで大和さんは・・・?」

「あんた、オリオンちゃんのこともばらしたの?」

「ご、ごめんっでも、この店にいるって言っただけで・・・」


アキは手を合わせて、神楽に思いっきり頭を下げた。実はあの旅行で女装している

大和を見て、正体を知ってしまった。神楽は大和がまだ皆にカミングアウトする覚悟

がないことに気づいていたので、知ったアキには内緒にするように言ったのだが・・・。


「何・・・アンタ」


神楽がアキの首根っこを掴んで睨んでいると、後ろから大和が現れた。大和は明らかに

爽子を見ている。神楽もアキも二人の只ならない雰囲気を感じて固まったように動作が

止まった。





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あとがき↓

このまま毎日UPしたいのだけど・・・できるかな?いよいよラストに向かいます。