「はつこい」30

※ パラレル、オールメンバーは同じ。もちろんオリキャラ沢山出ます( ̄ー ̄)ニヤリ
※ 爽子と千鶴、あやねは同じクラス。風早は別クラスで交流がなかったという設定。
※ 爽子は高2の時に東京に転校してしまう。
※ 登場人物紹介は「17話」を見て下さい。


永遠の気持ちに応えられないことがつらいと思っていた爽子は、「ちゃんと言って欲

しい」と永遠に言われ、風早が好きなことを思いきって告白するが・・・?



こちらは 「はつこい」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 1819 2021 22
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興味のある方は以下からどうぞ↓




























爽子はぎゅっと目を瞑ったまま、永遠の顔を見れなかった。店の中は周りの喧噪が聞

こえるだけで、永遠の声は聞こえない。爽子は堪らなくなり、そろ〜〜っと目を開ける。


ズキンッ


爽子は永遠の目を見て、胸の奥が痛んだ。


目の前の永遠は頬杖をつきながら思いに耽るように一点を見つめていた。そして、視線

を爽子に向けると、苦笑いをして言った。


「・・・”ちゃんと言って”と言っておきながら情けないな」

「・・・・」

「分かってたけど、やっぱ痛いわ」

「え?」


永遠はそう言うと、胸をとんとんと押さえた。その動作だけで爽子は永遠の気持ちが

分かったような気がした。翔太に失恋を自覚した時に胸がどうしようもなく痛んだ。いや、

今も考えただけで痛む。それは”好き”だからだ。永遠も自分と同じ気持ちでいることを

実感し、さらにせつない思いが胸の中に広がった。


つらそうに眉を顰めている爽子を永遠は悲しそうに見つめると、切り替えるように無理

に笑って見せた。


「申し訳ないとか思ってるんだったら、翔太なんかやめて俺と付き合う?」

「えっ!?」


永遠の予想外の発言におののく爽子を見て、永遠はくすっと笑う。


「ね?できないでしょ?だから爽子ちゃんは正直でいいよ。で、翔太に想いは伝えた?」

「う、ううんっ・・・風早くんは他に好きな人が・・・」


”「風早の好きな子はあの子じゃないわよっ」”


爽子は大和のことを頭に霞めながら言った。


「は?」


永遠は暗い顔で言う爽子をじっと見つめると、ふっと笑った。


「・・・ま、いっか。それぐらい意地悪させて」

「え?」

「爽子ちゃん・・・はっきり言ってくれてありがとう。でもしばらくの間普通にでき

 ないと思うけど、ごめんね」

「・・・そ、そんなっ」

「・・・・」


永遠はそう言うとすくっと立ち上がって、もう一度笑いかけた。爽子はその笑顔を

見ると、感情がこみ上げそうになった。


「じゃあね」


からんっ


爽子は何も言えなかった。俯いていた爽子の目から手の甲に一滴の涙が零れ落ちる。


泣いてはいけない。でも喉が痛くて苦しくて・・・。


「うぅっ・・・っ」


こんな時でさえ、笑顔を向けてくれる。普通に話してくれる柏木くんがすごいと思った。

私なら・・・できるのだろうか?

最初からずっと優しく助けてくれた人。人に好意を持たれるなんて信じられなかった。

気持ちを知った時、すごくびっくりしたし、ドキドキもした。そして好きになってもらって

嬉しかった。でも・・・私は風早くんが好きで、風早くんに好きな人がいても気持ちを

変えられなくて。それが正直な気持ち。


「くっ・・・ぐすっ」


”「恋愛は両想いになる以外の人は傷つけることになるのは仕方ないんだよ。友達じゃ

 ないんだし」”


あやねちゃん・・・つらいよ。こんなにつらいなんて思ってもみなかった。

行き場のない想いはどこに向かうのだろう? 

一方通行の気持ちをどう抱えていけばいいのだろう・・・。


爽子は永遠が出て行った後、初めて味わった苦しい気持ちを抱えながらいつまでも

その場に佇んでいた。



* * *


わいわい、がやがや


「いらっしゃいっ!」

「翔太!よっ」


店のドアのところできょろきょろしている翔太を見つけると、シンが手を振った。

お馴染みの居酒屋にシンは翔太を呼び出した。


「シンさん・・・だから未成年だって」

「じゃ、酒飲まなきゃいいじゃん」

「うぅ・・・できないから言ってんでしょ」

「ははっ、ま〜〜飲みなって。俺が許す」


翔太は訝しげにシンを見ながらも苦笑いをしてグラスを傾けてビールを注いでもらう。

シンはビールを一気に飲み干す翔太を見ながらぼそっと聞いた。


「そ〜いや、前ん時、翔太の”はつこい”話しは聞いてなかったよな?」


ぶっっ


翔太は思わず吹き出す。


「な、なんだよっ。いきなり」

「お〜〜動揺してかわいいね。しょーちゃんは」

「/////べ、べつにいーじゃん」


シンは何も言わずに翔太を見つめる。翔太は分かっていた。シンが心配してくれてい

ることを。あまり分かりやすい表現はしないが、兄のように親身になってくれる。あの

旅行であったことを直球で聞いてこない心遣いに、翔太は優しい気持ちになった。


「実は・・・黒沼なんだ」

「え?」


翔太は高校に入ってすぐに会った爽子のことを大切な思い出を語るようにゆっくりと

語った。いつも人が嫌がる仕事をする爽子の姿、学校の花壇の花をいつも嬉しそう

に世話をしていた姿。今も目を瞑ると浮かんでくる高校生の爽子。


シンは嬉しそうに語る翔太を見ると、優しく微笑んだ。


「そっか、最初からそうだったんだな。どーりで」


翔太はシンに含み笑いされると、照れたように俯く。シンはぐいっとビールを飲み干

すと、思いに耽るように遠い目をした。


「はつこい・・・か」


ばんっっ


その時、大きな音に二人はびくっとして身体を向ける。店のドアが勢いよく開けられ

ていた。


「びっくりした。な、シンさん・・・シ?」


横のシンは驚いた表情でドアを見たまま固まっている。


そこには激しく肩で息をしながら、こちらを睨んでいる女性がいた。





「はつこい」 31 へ












あとがき↓

33話でまとまると思っていたけど、34話でなんとか。ってどんどん長くなるな。
素人なのでお許しくださいっ!拍手コメントを頂いている方、なかなかお返事を書
けなくてすみません。このお話が終わったらお返事書きますね。いつもありがとう
ございます。