「Once in a blue moon」(6)


※ こちらは「Half moon」という話のオリキャラ(蓮)が中心となった話で未来話です。
  爽風も出ますが、主人公ではないので受け入れられる方以外はゴーバックで。

★「Half moon」は 目次 から。こちらは「Once in a blue moon」      の続きです。 


☆ 北海道生活が始まった蓮は順調に仕事も生活にも慣れていったが、ある時
   同僚に聞いた話が頭から離れず・・・。しぃません・・暗いです(;ω;)
















・‥…━━━☆ Once in a blue moon 6 ‥…━━━☆














蓮が北海道に来て3ヶ月の月日が過ぎた。

めまぐるしい毎日の中、蓮は本社に移って不安な気持ちより自分を試したいという挑戦

する気持ちの方が強かった。本社の方が様々な人材がいて、頑張る分だけ手ごたえが

返ってくる。そういう意味では充実した生活を送っていた。そして光平のように段々と

北海道生活にも慣れ、すっかりこの地が気に入っていた。



ある日のこと、蓮は部署の同僚に聞いた話に愕然とする。


蓮には先に仙台から本社転勤になった先輩の同僚がいた。ずっと北海道に来てから、

姿が見えないことが気になっていた。


何気なく前からいる部署の同僚に聞いてみる。


「あれ・・知らなかった?川嶋くん。葛西さん病気で治療中なんだよ」

「え・・・?」


葛西は仙台で同じ部署の先輩だった。新入社員の蓮に丁寧に根気強く教えてくれ、

何かと面倒を見てくれたのだ。


病気・・・・?


精神的な病だという。うつ症状が悪化し、今は精神病院の隔離病棟にいるそうだ。


葛西さんが・・・?



* * *



蓮は仕事を終えて家路に向かう。その間もずっと頭から離れない今日の話。そして

自然に浮かんでくる今も残っている古傷。



あれから5年・・・美穂に会うことはなかった。病気が完治することはないが、かなり

良くなっていることは沙穂から聞いていた。


あの頃の記憶はどんな風に残っているのだろうか・・・?



蓮はたまたま沙穂の家に招かれたとき、元美穂の主治医の沙穂の夫と二人で話す

機会があった。他の皆は酔い潰れて寝ていたり、それぞれ話し込んだりしている。

蓮は皆の様子をちらっと見ると、躊躇しながらも言葉を発した。


『先生・・・ちょっと聞いていいですか?』

『先生は止めて欲しいですけどね・・・何ですか?』


もちろん蓮が美穂の前の相手だということを先生は知っていた。


『美穂は・・・あの時の記憶はあるんでしょうか?』

『あの時?・・・ああ・・・あの時ね』


蓮にとって仙台の仲間達は大事ではあったが、時に気持ちが”重い”と感じることが

あった。心配してくれているのは分かるが結局、心配してもらってもどうなるもので

はないのだ。沙穂が頑張ってくれたことは嬉しかった。しかし、永久に消えることの

ない傷は自分自身が抱えていくしかないと分かっていたからだ。


そんな中で沙穂の旦那は専門的に話を聞いてもらえるので、唯一蓮が相談する相手

だった。医者という職業柄、絶対に守秘義務を貫くところも蓮が信用できるところだった。


『爽子さんに対しての思いは全て覚えてないみたいですね。あれは本能だったんじゃ

 ないでしょうか?』

『・・・・・・』

「蓮さんへの想いが強すぎたんでしょう』

『・・・・そうですか』

『今は元気ですよ。でも会わない方がいいかもしれませんね。この病気は想いが深けれ

 ば深いほど、ちょっとしたことが引き金にになりますから』

『・・・分かってます』


結局分かりあうことはないのだ。所詮男と女なのだから分かりあえないまま別れること

なんて世の中にはいっぱいある。


『蓮さんが救われないですね。美穂さんとのことを忘れろと言われても無理ですからね」

『俺、あいつに同情とかは今はないですよ』

『そういう意味ではないですよ。蓮さんがしんどいという話です。蓮さんが自分を肯定でき
 なければずっとこのままだと思います』


自分を肯定・・・・?



『蓮さんが肯定できるような相手に・・・巡り合いますように』



その時先生が言った言葉の意味はよく分からなかった。



* * *



「ふぅ〜〜〜〜」


蓮は滅多に吸わないたばこを吸ってみると、口からため息と一緒に煙を吐き出す。

今夜は吸わずにはいられなかった。

夜空には満点の星と、少し欠けた月が輝いている。


蓮はベンチにどかっと腰かけると、せつない目をして夜空を見上げた。


あのころの俺はこの月を無機質で表情がない目できっと眺めていた。それでもいいと

思ってた。今の状態を受け入れるしかなかったのだから。

でも、心の中は飢餓感でいっぱいだった。何をやっても満たされない枯渇している心。

受け入れるといいながら俺は苦しんでいたのだ。あいつの重さに。

枯渇していることにさえ気づいていなかった。気づいたのは水を注がれたから。


あの夜、一気に感情があふれた。


今までどんな水を注がれてもすぐに乾いて、焼け石に水だったのに、なぜだろう。


あの瞬間・・・。


「!」


ーバッッ


蓮は自分の髪をくしゃくしゃっとすると、頭に浮かんだものを必死で消し去った。

今夜は自分自身が落ちている。こんな夜もあるだろう。でなければこんなことを

考えることもしないのに。


蓮はいつもの自分に戻ろうと全てを消し去るかのように、大きな煙を吐き出した。

白い煙が風にふわっと舞う。



”『蓮さんが肯定できるような相手に・・・巡り合いますように』”



「・・・ふっ・・・巡り合いなんて、先生意外とロマンチストだよな」


蓮はひとり言を呟いて少し口角を上げると、美穂のことを思い浮かべた。長らく考える

ことさえ止めていた。そして、葛西のことも頭に残る。


自分の手で救えるものなんてこの世にない。そんなちっぽけな自分を受け止めること、

自分を肯定することが出来る日がくるのだろうか。それはきっと Blue moon に出合

うぐらい、奇跡に近い。


もし、巡り合ったとしたら、先生の言った言葉の意味が分かるのだろうか・・・?



ブルームーンを見ることは自分が生きている間にないだろう。


それでも心のどこかで探し続けている。たった一つの奇跡を・・・。


”once in a blue moon ”









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あとがき↓

本当にいつもマニアックですんません・・・。この話面白くないと思うのですが・・・書く!
ところで、明日じゃないですか??いよいよ。でも連載が始まると終わりが近づくの
でいやだ!長く続けて欲しいなぁ。明日はいつもながら感想を! ( ̄ー ̄)ニヤ
あっと、この話次回からオリキャラ主人公で目線がそちらに移ります・・・。