「Half moon」(95)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

沙穂はこれ以上、蓮を巻き込みたくなかった。蓮に「もうこないで」と伝える。蓮が去って
いくのを病室から見ていた美穂は・・・?

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それではどうぞ↓





























* * *



「どうして・・・蓮は帰ったの?」


沙穂が病室に戻ると、狂気の目をした美穂がいた。カーテンを閉め切って、明らかにおかし

な様子だった。


「あ・・・美穂。見てたの」

「ねぇ・・・やっぱ沙穂さぁ〜蓮が好きなんじゃない?私から奪おうと思っても無駄よ。蓮は沙穂

 のことなんか、な〜〜にも想ってないんだから」

「・・・分かってるよ。そんなこと。じゃ、美穂はどうなのよ。蓮は美穂のことも好きじゃないでしょ」


美穂の言葉にカッとなった沙穂は思わず言ってしまった言葉に”あ・・・”と口を押さえた。

美穂は狂気の目がさらに鋭くなる。


「やっぱ知ってんだね、沙穂は。蓮が爽子を好きなこと」

「あんた・・・誰?」


瞬時に変わる人格に沙穂は冷静に答える。あれからはっきりと人格が分かれるように、色々

な人格が登場する最近の美穂に慣れてしまっていた。最初はこんなに上手く演技ができる

もんだと呆れていたが、これが病気なのだから受け入れて接していく他ないのだ。そう分か

っていても美穂の言葉を真に受けてしまう自分がいる。


「私、智美だけど?」

「ああ・・・一回出たわね」

「美穂を見てたらいらいらすんだよっ!!早くとっととあいつも自分のものにすればいいのに」

「出たよ・・・。美穂の中で一番短気で凶暴な人格」

「うっさいな〜〜〜っところで爽子はどこにいんだよ」


どこまで美穂の中に爽子がいるのか分からなかったが、何人かの人格が爽子にこだわって

いた。この”智美”という人格もその一人だ。


「・・・・なんで爽子ちゃんが出んのよ。関係ないじゃん」

「蓮を見てたら分かるんだよっ!!早く蓮を連れ戻しな!!戻せ〜〜〜!!」


沙穂は美穂を見て、冷静に言った。一歩も引かなかった。


「だめだよ。絶対蓮は連れ戻さない。もうここには来させない」

「何をっ!!」


狂気に暴れる美穂を哀れな目で見ながら、沙穂は苦しそうな顔で呟くように言った。


「・・・それが私の唯一の償いだから」


ずっと狭い心で偏見を持ち続けた蓮への懺悔の気持ち・・・・。


「償いとかなんと言うけどさ〜〜〜ほんとは手に入れたいくせに!ずっと片思いだったくせに!

 美穂のことをずっと羨ましかったくせにっ!あはは〜〜〜〜っ!」


沙穂は美穂の高笑いを聞きながら、ぎゅっと拳を握りしめた。


「・・・もう昔のことよ。それに蓮は違うのよ、私達とは。だから美穂も解放してあげて。蓮を」

「何が解放だよっ!!ばっかじゃないの。自分の欲しいものを我慢しているだけじゃないか!

 私はそんな生き方は絶対しない。沙穂、あんた見てると反吐が出そうだよ」

「・・・・。でも・・・それでも私はあんたとは違う。いや、違う生き方をしたい。それはあの子に

 会ったから。美穂も会ったじゃない。子どもの純粋な美穂だから分かったんでしょ。自分に

 なくてあの子にあるもの」

「何言ってんだよっ!!」


沙穂は感情が溢れ出して止まらなかった。ぎゅっと唇を噛みしめると、美穂の内面を探る

ように深慮深く美穂を見つめる。


「・・・・だからあの子を選んだんじゃないの?偶然なんかじゃない・・・そうよ。美穂はあの子に

 救いを求めていたのよ。でも・・・純粋に求め続けることができなかった」

「・・・っ!!」


美穂の形相がさらに狂気に満ちて歪んでいく。


「・・・怖かったのよ、美穂は。純粋なものと向き合うことが。でも私は・・・違うっ!美穂とは違うっ!」

「・・・出てけよっ!!早くこの部屋から出てけ!!」


うわぁ〜〜〜〜〜っバンッバンッ


ベッドの上で枕を投げつけたり、ベッドに上で頭を叩きつけたり、”智美”という人格は感情を

爆発させるように暴れていた。これも美穂が生み出した人格の一つなのだ。こうなりたい自分

があったのだろう。


沙穂は興奮した自分を必死で抑えるように呼吸を整えた。

すると、暴れていた美穂がいきなり静かになった。こういう時は新たな人格が顔を出す時。


「さほちゃん・・・どうしたの?何で泣いてるの?」

「・・・・・」


沙穂は悲しみを通り越してあまりにも哀れな気持ちになった。ずっと人の真ん中にいて、

華やかだった姉。そんな姉に嫉妬していた自分。今になってやっと姉がそんな自分に悩

んでいたのだということが分かった。ずっと自信はなかったのだ。私達は”愛される”こと

にあまりにも臆病だった。そして、本当に蓮が好きだったのだ。きっとそこは私より純粋

な部分。私は風早を手に入れたいと思った。風早に愛されると、自分が自分でいられる

ように思った。


「ねぇ。美穂」

「なぁに、さほちゃん」

「まさか・・・だよね。」

「ん?」


沙穂は先ほど蓮と居る時に、浮かんだ違和感をどうしても拭い去れなかった。背筋の凍

るような違和感。蓮は慎重な男だ。考えれば考えるほど納得がいってしまう。


「まさか・・・あの事故は美穂がやったんじゃないよね?」

「・・・・・」


しばらくの沈黙の後、美穂は質問には答えず、いきなりニコニコと笑い出した。この人格

は笑うことだけしかしない人格。そして、そのまま美穂の人格に戻ることはなかった。き

っとこんな時、美穂は現れないような気がした。美穂自身が過去に向き合おうとしないと

病気は治らない。でも一瞬だったが美穂は、ほんの少し悲しげな表情をした気がした。


諦めてはだめなんだ。


それは自分への挑戦のようにも思えた。逃げたくない。

自分を受け入れることを教えてくれたのは意外な人物だった。それは風早ではなく、彼女

だった。黒沼爽子。私は彼女を受け入れることが出来た時初めて、自分自身を見つめるこ

とができたのだ。この出会いは必然だったのではないだろうか?美穂と向き合うための。


私は自分のために風早を好きになったのかもしれない。でも彼女は彼を好きな気持ちに何

の打算も計算もない。若い時の恋愛なら分かるが、長い付き合いでも同じ想いでいられる

彼女が羨ましかった。きっと彼女は風早がどんな社会的地位にいようと関係ない。

ずっと、真っ直ぐに彼を想う。


今は素直に思う。彼女は選ばれた人なのだと。私達姉妹は彼女に出会ったのだ。


沙穂は病室の窓から入る日差しに眩しそうに目を細めた。その目はしっかり前を向いていた。




*********



「風早、もう出る?これついでに出しといて」

「はい!」


風早は同僚の先輩にポストに入れる書類を渡され、いつも通り外回りに出かける。

エントランスを出ると、ぴゅーっと北風が吹き抜ける。季節はすっかり冬だった。思わず肩

に力が入る。コートの襟を立てて、首を窄めて足早に歩いて行く。歩きながら風早はある

場面を思い出していた。


”『・・・爽?』

 『・・・・・』


返事のない彼女は一緒にいる時、考え込むように窓の外を眺めていた。あの事件のこと

をあれから口にしないようにしていた。思い出させたくもなかった。でも、彼女は違った。

そんな小さな自分の考えとは違ったのだ。自分のことのように人の幸せを考える。それが

彼女だ。


『あっ・・・何か言った?ごめんっ風早くん』


風早は振り向いた爽子の頭をそっと撫でる。爽子は風早の優しい目を見て、ぽっと頬を

紅潮させた。そして、すぐに切なそうな顔をした。


『私・・・おこがましいの。』

『え?』

『・・・美穂さんにも蓮さんにも幸せになって欲しいって・・・考えれば苦しくなって』

『・・・・』


そう、彼女は事件で自分が傷ついたとかではないんだ。あれからずっと様子が変だった

のは、二人のことを自分のことのように苦しんでいたのだと分かった。


『美穂さんが苦しんでいるのが分かるから、蓮さんも苦しいんだね。そして秋山さんも・・・。』

『――っ!』


風早は肩を震わせて泣く爽子をぎゅっと抱きしめた。風早も苦しそうに目を瞑る。


『でも・・・でも俺は信じてる。蓮は絶対乗り越えられる。だってさ言うじゃん。神様は乗り越え

 られない試練なんて与えないって』

『・・・風早くん』 ”


結局、その人の人生はその人にしか動かせない。だから信じたい。その人の力を。そして、

出会いには必ず意味がある。だから蓮が美穂に出会ったのも必ず意味があることなのだと・・・。













あとがき↓

別マの興奮収まらず!すみません・・・ちょっと変になってます。いつもだけど(笑)さて、この話も
95まで来ました。100話でぴったり終わらそうと必死です(汗)いつもはだらだらと適当に書いて
ますが、初めてまとめというのをやってます。次回は時が流れ、1年半後から始まります。一気に
いきたいけど、無理かな・・・。それでは最後までよろしくお願いします。
PS:コメント欄にレスしています〜〜〜♪

Half moon 96 

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