「Half moon」(86)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

蓮に異様に執着する美穂、そんな時、雷に反応するように本当の美穂が姿を現した。

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それではどうぞ↓
































ヒューヒュー ピカッ


強い風と激しい雨が窓に打ち付けられ、外は嵐となっていた。雷が鳴るたびに恐怖の悲鳴

を上げていた美穂の表情が変わっていく。あどけない少女から妖艶な女へ


蓮は夢か現実か分からないまま、微動一つせず目の前の光景を見ていた。雷の光に照ら

された美穂は妖しく笑っているように見えた。いや、笑っていた。


「ね?蓮、うそだよね?別れようなんて」

「・・・・・」


美穂の言葉にデジャヴを覚える。この光景はあの事故の前と同じだった。蓮は思った。

元に戻ったのだろうか・・・?


蓮の美穂の肩に置かれた手が震えた。美穂は蓮の手の上に自分の手を重ねた。その手は

ひんやりと冷たかった。その温度に現実に引き戻される。

蓮は落ち着いた様子で美穂を見つめると、ゆっくり美穂の手から自分の手を離した。


「美穂、俺はあの時別れを告げたんだ。確かに恋人同士の関係を止めようと・・・言った」


蓮は真っ直ぐ美穂を見た。美穂の目が揺らぎ始める。

こんなに早くこの時がやってくるとは思わなかった。しかし、夢ではない現実だ。もう

逃げないと決めた。美穂からも自分からも・・・。


「別れようと言ったんだ」


ピカッゴロゴロ〜〜ッ


美穂の表情が段々と崩れていく。美穂は震えながら言った。


「・・・好きな人ができたの?」

「ちがう」

「さわこって子のこと好きになったの?」

「え・・・?」

「あの人のこと好きになったんでしょ?」

「何言ってるんだ?美穂?」


あまりの想定外の言葉に蓮は思いっきり顔を歪ませた。蓮を見る美穂の目が狂気に染まっ

ていく。しばらくの沈黙の後、美穂はくるっと後ろを向いて、側の書籍棚に手をかけた。


「・・・美穂?」


美穂は何も耳に入らない様子で一心不乱に引き出しの中をごそごそっと探り始めた。それ

ぞれがその行動を呆気に取られて見ている中、美穂が取り出したものにハッとしたように

目を向けた。


「美穂っ!!」


母が思わず絶叫する。美穂は中からカッターを取り出すと、自分の手首に当てた。


「・・・何してんだよっ」

「来ないで。・・・来たら切るから」


ピカッゴロゴロ―ッ


その時、ひと際大きな雷の音に美穂が一瞬怯んだ。蓮はそれを見逃さず、さっと美穂に方

に行くと腕をぽんっと叩いた。


からん〜〜〜っ


「いいかげんにしろよ」


沙穂と母はほっとしたように息をついた。そして、沙穂はさっとカッターを拾い上げた。

美穂はしばらく茫然とした後、身体全身で泣き崩れた。


「何よっ・・・私が死んだほうがいいんじゃない。その方が蓮も・・・・っうあぁ〜〜っ!!」

「美穂!!」


蓮が大きな声を出すと、掴んでいた美穂の手がするっと力を失った。


「「美穂!」」


美穂は気を失った。二人が介抱する中、蓮は無機質な目でその光景を見ていた。そして窓

に視線を移す。嵐はさらに激しさを増していた。



**********


ザーザー ヒューヒュー


蓮はカーテンを開けて窓に激しく打ち付けられる雨を虚ろな瞳で見ていた。この日はこの

家に泊まらせてもらうことになった。さすがにこのまま帰るわけにはいかなかった。


蓮は疲れきった顔を窓に映すと、ソファーにどさっと座り、腕の中に顔を埋めた。


「―蓮」


リビングに居た蓮に沙穂が声を掛けた。


「・・・美穂は?」

「大丈夫。そのまま眠ってる」

「そっか・・・」


沙穂は蓮にお茶を差し出すと、思い詰めた表情で近くのソファーに座った。


「・・・・そんなこと全く知らなかった」

「・・・・・」


蓮は一点を見つめたまま無言で沙穂の言葉を聞いていた。


「私・・・知らなくて・・・・蓮が苦しんでいたのにっ・・・・それなのに私・・・っ」


沙穂はそこまで言うと両手で顔を塞いでしくしくと泣き始めた。


「・・・・・」

「蓮・・・っとに・・・ごめんっ・・・ううっ」

「沙穂が謝ることじゃないだろ」

「・・・蓮っ・・・」


沙穂はしばらく泣き続けた後、ドアの方に視線を向けた。


「そして・・・美穂も苦しんでいたんだね・・・」


沙穂は自分が恥ずかしかった。自分のあまりの幼さに情けなかった。美穂と付き合った蓮

の腹いせに優位に立とうとしていたこと。そして美穂のことを全く知らなかったことを・・・。

全てを持っていると思っていた。何一つ失うものはない人だと疑わずに。


「沙穂、翔太の彼女に会ったんだって?」

「あ・・・うん。・・・え??何で知ってるの?」

「・・・まっいいじゃん」

「・・・ん・・・そうだね」

「良かったな」

「えっ・・・?」


沙穂が驚いた表情で蓮を見ると、優しく微笑んでいる蓮がいた。沙穂はその姿を見ると再

び感情が溢れだした。沙穂の中の罪悪感に蓮は気付いて”良かった”と言っていることが

分かるからだ。沙穂はこんな時でさえ、他人のことを考えられる蓮がすごいと思った。それ

は彼女と同じだ。黒沼爽子・・・。


「私っ・・・私、黒沼さんに悪いことした」

「・・・・」


蓮は泣きながら感情を露わに言う沙穂をしばらく見つめると冷静に言った。


「彼女がお前の約束をずっと守ってたこと知ってた?」

「・・・え?」

「翔太に美穂のことを黙ってて欲しいってやつ」

「あっ・・・うん。風早から聞いた」

「それで翔太は彼女を疑った。そのことで二人はこじれたんだ。」

「・・・・・っ」


ピカッゴロゴロ〜〜ッ


雷の光が驚いた表情の沙穂を照らした。


「・・・それでも彼女はその約束を守り続けた。いや、これからも言うつもりはなかっただろう」


風早に美穂の存在を知られるのが嫌だった。でもその時、それ以上に作為的なものが頭を

霞めたことを否定できない。彼女を傷つけることなんてどうでも良かった。ただ風早に振り向

いてもらいたかった。こんな気持ちになるなんて思ってもみなかった。胸が痛んだりなんかす

るはずなかったのに・・・。


「うっ・・・まさか、そんな約束を守るなんてっ・・・」


普通に考えたら分かる。普通だったら彼氏を取るに決まってる。でも彼女は違った。彼女と

会った今なら分かる。なぜ約束を守ったか・・・。


沙穂は涙が止まらなかった。この時やっと沙穂は自分のやったことの重さを理解し始めて

いた。そして爽子という人間の本質に触れ、自分とは大きくかけ離れていることを実感す

る。全く足元にも及ばないぐらい純粋だということを。


「俺も沙穂も罪背負ってるんだよ。そして美穂も・・・」

「・・・っ私・・・謝りたい・・・っ心から」


蓮は沙穂を優しい眼差しで見つめた。沙穂は今まで気付かなかった大切なことに気付くこ

とができた。そして初めて蓮と向き合うことができたのだ。物事の表面しか見れていなか

った沙穂に違う世界があることを気付かせてくれたのは紛れもなく爽子だった。


沙穂はやっと爽子を認めることができた。












あとがき↓

日が開いてしまいました( ̄○ ̄;)自己満足進行中です。しかし早い・・・4月も終わるでは
ないですか!?このお話も1年ですよ・・・。(さぼりすぎなんだけど)さて、いよいよ次回
はお待たせしました。ラブモード再開です。長かったですねここまで。それではまた明日!

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