「Half moon」番外編 ➏ 「プロポーズ」前編

こちらは「Half moon」の番外編で、二人の結婚にあたって、風早が改めてプロポーズを
した話です。この話を知らなくても普通の短編として読めます。以下からどうぞ↓


光平からプロポーズを誘導された風早はあんな形で大事なことを確認してしまい、釈然と
しない想いを抱えていた。そして改めて想いを伝えようと思った。




























秋の北海道は短い。そしてすぐに冬がくる。だからこそ長い冬の後の春を心待ちにする。

そして誰より春を待っているのは俺かもしれない。爽子と遠恋になって3度目の春を。

風早は春に満開になる桜の木を切なそうに見上げる。


(桜の季節だったら良かったな・・・)


風早はそんなことを考えふっと苦笑いをした。そして胸をぎゅっと押さえる。

さっきからずっとドキドキが止まらない。いやさっきからではなかった。昼間に、仙台を

発った時からずっと・・・・。もうすぐ彼女が来る。


皆の前でプロポーズまがいなことをした時、彼女の気持ちは分かった。まるで天にも登

るような気持ちだったけど、やっぱりちゃんとしたかった。この日は平日だが、爽子が休日

の振り替えで休んでいることを知っていた。突然のことに彼女に用事があったらどうしよう

・・・と心配したけど、大丈夫だった。電話した後、思わずホッと胸を撫で下ろす。


さらさらさら


風早は心地よい風を肌に感じながら、側の壁にもたれかかって桜の木を眺める。


自分にとって彼女ほど大切なものはない。だからこそ一生の記念日にしたい。

色々考えた。どんなプロポーズにしようかと。海辺で夕陽を見ながら?・・・・とか、自分の

アパートでそれとなく?それとも、高級レストランで指輪をストレートに渡す?・・・いろいろ

考え過ぎた。でもやはり同じところに考えが戻る。俺達の原点で彼女に伝えたい。俺達が

初めて出会ったこの場所から新たな一歩を踏み出す。未来に向かって・・・。


彼女の答えは聞いているのに、なんでだろう・・・・不安でいっぱいになる。

ちゃんと受け止めてもらえるだろうか。そして自分の気持ちを全部言えるのだろうか・・・と。


(こんなに緊張してんの、爽子の家に初めて行った時以来かも・・・)


「翔太・・・くん?」


ドッキ〜〜〜〜〜ンッ


風早はいきなり聞こえた愛しの人の声に大袈裟に反応する。その姿におろおろする爽子が

後ろに立っていた。


「ご、ごめんなさいっ・・・驚かせてしまいましたっ!!」

「はっ早いねっ。いや、違うんだ!ごめんな・・・突然こんな場所に呼び出して」

「ううん・・・びっくりしたけれど・・。でも・・・どうしたの?」


思わず声が裏返る。風早は焦ったように取り繕った。


夕方、家の用事をしていた爽子にいきなり風早からメールが入った。それも仙台に居るはず

の風早からこの場所への呼び出し。爽子はとりあえず訳も分からず家を飛び出した。


「いや・・・その・・・・」


すぐに言うわけにもいかず風早が返答に困っていると、爽子が不安そうな表情を風早に向けた。

風早はその表情に慌てて言葉を添える。


「あっ・・・爽子がどうとかじゃないからっ」

「な・・・何でも言ってくださいっ!!私、何かしたかな・・・?」

「え・・・・・」


深刻な表情の爽子に緊張気味だった風早は少し気持ちを和らげた。茜色の夕陽が二人を赤く

照らす。風早は、爽子を不安にさせたことを反省するかのように自分の頭をこつんっと叩くと、

爽子を見てにっこりと笑った。


いきなり北海道に帰ってきて、この場所に呼び出しじゃ驚くに決まってる。そう、この場所とは・・・・。


「ごめん、驚かせたね。違うんだ。この場所が懐かしくなってさ・・・二人で来たかったんだ」


爽子は風早の視線の先にある桜の木を見上げる。この場所とは、高校の入学式の日に初めて

二人が出会った、桜の木の下だった。


「翔太くん・・・お仕事で何かあったの?」


風早は心配そうにしている爽子の頭をぽんぽんと優しくなでた。先週、婚約会を仙台の仲間達

に開いてもらってから一週間。爽子と離れてたった一週間しか経っていない。いつもなら1ヶ月

に1回しか会えないというのにこうして会うと、一週間も会えてなかったのかと思える。どんだけ

恋しいんだろって思う。そしてどんだけ我慢してんだって・・・・。


風早は爽子を愛しそうに見つめる。その風早の瞳に爽子は思わず頬を赤らめた。


(翔太くんの目だ・・・・)


爽子もまたたった1週間だが、会えていなかった時間を惜しむかのように嬉しさがこみ上がる。

そしていつも変わらない優しい眼差しに何とも言えない安堵感を感じていた。


「で、でも・・・嬉しいな。翔太くんにまた会えた・・・」

「・・・・爽子」


風早は花がぱっと咲くような爽子の素直な笑顔に、いつも心を大きく動かされる。


どきん どきん どきん


興奮・期待・不安・・・。不思議な緊張感の中、爽子の手を引いて学校の方へ連れて行く。

風早は表情を見られないように赤くなった頬を前に向け歩き出した。


「こっち」


平日の夕方、学校では部活をしている生徒達の姿が見られる。そして何組かのカップルが

楽しそうに下校している。二人は校舎横のフェンスネットの網目から学校の様子を眺める。


「・・・懐かしいな」

「うんっ」


二人はここで出会い、恋心が芽生えた。初めての恋、初めての彼氏彼女。沢山の思い出。

二人は同じ気持ちで微笑み合った。


「ーおいっ覗きか!?」


その声にハッとしたように二人が振りかえる。するとそこに立っていたのは・・・・!!


「ピ、ピンっ!?」

「荒井先生!!」


相変わらず偉そうに仁王立ちをしているピンの姿があった。


「あれ?ピン、違う学校に赴任したんじゃなかったの?」

「まーな。でも今年からまた戻ったんだよ。ここ好きでな。ところでお前ら何やってんだよ。

 こんな平日に。まさか仕事クビになったか?」

「ちげーよっ!!・・・たまにはいーかなって思って」

「お・・・お久しぶりです」

「おう・・・相変わらずだな」


ピンはそう言って、二人をじろじろ見ると、にやっと笑う。


「あっそうかっ!しょーた。俺にけっこ・・・「ーうわぁぁ〜〜っっ」」


風早は長年の付き合いからピンの行動が予想でき、咄嗟にピンの口を押さえる。


(ーここでめちゃくちゃにされてたまるかっ!!)


「おまっ何っむぐぐっ〜〜〜」

「い〜〜から。ほらっ仕事仕事!」


ピンは、”んだよ〜〜〜〜っ!”などとぶつぶつ言いながら去っていく時、もう一度くるっと

振り向いて言った。


「しょーた、コケる・・・なよ?」

「ーっさい////」


横で??マークをチラつかせる彼女の様子にほっと胸を撫で下ろす。


(ピンが絡むとロクなことねーからな・・・)


想いが通じ合った後、打ち上げで行った海でも余計なことをしてくれた。そうだ、あの時

は高校生で、ピンが言った”結婚してください”はまるで遥か先の夢のような話だった。

それが今は現実にある。社会人として爽子を守る自信もついた。


「・・・翔太くん?」


無言の風早を爽子は不思議そうに見つめる。そして不安そうに瞳を揺らした。


「やっぱり・・・何かあった?」

「爽子・・・今度はこっち」


再び風早に手を引っ張られ、爽子は戸惑ったままついて行く。いつになく様子が違う風早

を爽子は感じていた。


数えきれないほど風早とは手をつないでいるのに胸のどきどきが止まらない。爽子は力強

い風早の手の感覚を感じると頬を紅潮させた。

二人は何とも言えない恋の始まりのような甘酸っさをを感じていた。



茜色の日差しが優しく二人を包み込む。まるで風早を後押しするかのように・・・。



<つづく>


「プロポーズ」 後編 へ













あとがき↓
タイトルはそのまま「プロポーズ」いつか短編でも書いてみたかった話。ここで書けて良
かった。長くなったので半分に区切ります。後編もよければ見て下さいね!