「二文字のコトバ」11

以前は言葉に出来ていた『好き』と言う言葉。今は気持ちが大きくなりすぎてお互い

言葉にできない。それぞれ大人になり新たな壁にぶつかる二人。社会人の二人のパラ

レルです。最終回は特に視点を定めず。二人のラブラブをお楽しみ下さい。


同僚に呼ばれてきた店で風早の本音を立ち聞きした爽子は・・・?最終回です。


『二文字のコトバ』 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 の続きです。






























二人はそのまま近くの公園に場所を移した。まばらな電灯と月明かりがベンチに座っ

ている二人の顔を照らす。ぎこちない様子のまましばらく沈黙が続いた後、最初に口

火を切ったのは風早だった。真剣な顔で爽子に向き合う。


「一ヶ月もの間、何も連絡しなくてごめん」

「わ・・・私もごめんなさい・・・っ」

「爽子が謝ることなんて・・・何もない。俺が全部悪いんだ」


爽子はびっくりしたように目を見開くと、ぶんぶんと首を横に振った。

風早は苦しそうに顔を歪めた。


「まさか・・・あの場に居たなんて」

「・・・・」

「俺、言い訳はしたくない。でも彼女とはなんでもない。俺はただ・・不安だった

 だけ」

「不安・・・?」


爽子が力のない声で聞き返すと風早は苦笑いをしてせつない表情で爽子を見つめた。


「爽子の気持ちが離れていくかもしれない・・・という不安」

「!!」


唖然というしている爽子に風早は自分の気持ちを正直に話した。


「爽子が俺の知らない世界にいくたびに不安になった。いい男が周りにいっぱいいる

 かもしれない。もっと爽子を幸せにする奴が現れるかもしれないって・・・」


爽子の目はさらに驚きに満ちていて、ぽかんっと口さえ開いている。


「その不安から逃げるように俺はコントロールを始めたんだ。人とそれなりに時間を

 共有し、俺の中の嫌な感情に蓋をした。それが同僚には思わせぶりな行動に見えた

 のかもしれない・・・ごめん」

「・・・・」

「だから・・・俺が悪いんだ」


するとしばらくの間、俯いていた爽子がぼそっと何か呟いた。


「え?」

「−かっ」

「え?」

「ばか・・ばかばかっ・・・翔太くんのばかっ」

「!!」


爽子は泣きながら風早の胸をぽかぽか叩いた。思わず目が点になる風早。今まで長く

付き合ってきたが爽子から「ばか」という言葉は聞いたことがない。


「すごく・・ショックだった。すごく悲しかったの」

「・・・っ」


風早は苦しそうに唇を噛むと、たまらず爽子を抱きしめた。手に力が籠る。


「−めん・・・ごめんっ・・・爽子を悲しませてごめん」


爽子は大粒の涙を流してとぎゅっと抱きしめ返した。


「・・・絶対・・・もう、あんなことしちゃ嫌っ」

「/////・・・うん。絶対しない」


(こんな時なのに・・・やばいっ・・・かわいすぎる///)


一ヶ月ぶりの爽子・・・・結局、どんなに不安になってもがいても、会ったらすぐに

もってかれんだ。ほんとかなわないって思う。


風早は思いっきり照れた後、今度は自己嫌悪に陥るように大きなため息をついた。


「俺、爽子と付き合い始めてすぐのデートで”分かんなくなったらちゃんとまた言うから”

 って言っといて全然だよな・・・情けない」

「!」


すると爽子はごしごしっと目を擦った後決心したように風早に見つめると、静かに首

を横に振った。そして今まで言いたくて言えなかった想いを伝える。


「私も・・・私も言えなくなったの」

「爽子・・・」

「・・一ヶ月じゃなくって、この数か月ずっと勇気が出せなかったの。翔太くんの周

 りには素敵な女の人が沢山いて、爽やかでドキドキするような笑顔を向けられると

 みんな風早くんのことが好きになるって・・・。だから言えなくなっていった。

 二文字の言葉」

「二文字の・・コトバ?」


風早は驚いたように爽子を見つめると、こくんと瞳に涙を浮かべて頷く。


「好きすぎて・・・自分だけが気持ちが膨れ上がっていくことが怖かった。もし翔太

 くんが同じ気持じゃなかったらどうしようって」


風早は愛おしそうに爽子を見つめると、指触りの良い長い髪に触れながら言った。


「同じ・・・だったんだね」

「う、うんっ」

「じゃ・・・一緒に言おうか。二文字の言葉。もう怖くないよね。お互い」

「・・・うんっ」


二人はドキドキしながら見つめ合う。そして”せ〜〜〜のっ”と声を合せて叫んだ。


「「す・・・き」」


目の前に居るのは本当の自分自身。もう何も偽る必要も制御する必要もない。二人は

顔を見合わせて思いっきり笑った。そして自然に唇を合わせる。


「・・・翔太くんじゃないとダメなの・・・どんな翔太くんも好きだから」


風早は爽子の言葉に顔が熱くなるのを感じた。そして思い浮かべるあの人物。爽子を

抱きしめながらせつない目をして言った。


「嫉妬でいっぱいの俺でも?」

「え??」

「俺、妬いてたよ。今野さんに。いや・・そんな権利今回はないよな。あの人がいな

 かったらこうやって爽子と向き合えなかったかもしれないし・・・」

「私も・・・あの時の女の人に妬いてたよ。ものすごくっ///」


手をグーにして顔を赤くしながら一生懸命に気持ちを伝えてくれる爽子に、想わず笑

みが零れる。たまらないほど愛しいって・・・・思う。


「でも、今野さんはいつも翔太くんとの幸せを願ってくれてたの。いつも相談に乗っ

 てくれて・・・」

「えっ・・・相談??」


風早はハッとした。気が付いたら爽子に攻め寄っていた。結局自分の方が好きすぎるのだ。

風早は”あ”〜〜っ”と唸って手で顔を覆うとその場にくしゃっとしゃがみこんだ。


(・・・やっぱコントロールした方がいいかも)


すると風早はふわっといい匂いと柔らかい感覚を背中に感じた。


「!」

「翔太くん・・・大好き」


背中に抱きつかれた風早はかぁぁっと全身を熱くした。


「爽子・・・そ〜〜いうの反則!!」

「え?え?」


わはは〜〜っ





ふと、言えなくなった”好き”という二文字。お互い分からなくなったら気持ちを素直

に伝えればいいと思っていた。しかし、想いが深くなりすぎて、お互いを想いすぎて

言えなくなった。これからも色々なことがあるだろう。いつ恋愛の神様から裏切られ

るか分からない。でもこれからは何があっても気持ちを言葉にしよう。



二文字の大切な言葉で・・・。



夜空に浮かぶ満月に照らされながら、二つの影はいつまでもいつまでも離れなかった。




<おわり>

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あとがき↓

いつも拍手をありがとうございます。過去の話にも頂いて嬉しいですヽ(´▽`)/
話の中で爽子の”ばかっ・・”というセリフは確かツイッターで二次の巨匠が呟いて
たのが頭に残っていたような気がします。爽子は風早だけには甘えると!うんうん
そうだ〜〜って。だって”うそつき”ですもんね。爽子らしくないセリフに萌えます。
番外編はそんな爽子の甘えを書いてみたいと思います。全部読んで下さった方あり
がとうございました!
ところで・・いよいよ明日です。ネタバレは読まないようにしている今回は。あぁ
おかしくなりそう!!明日感想書きますね。いつも大したことない感想だけど。