「Half moon」(94)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

蓮の悲しみを知った3人はこれ以上一緒にいることができなかった。ホテルを出た3人は・・・?
そして、それからの美穂は?

こちらはHalf moon          10 11 12 13 14 15 16 17  18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29  30 31  32 33 34 35 36 37  38 39   40 41  42 43  44 45 46 47 48 49  50 51  52 53  54 55 56 57 58 59  60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83  84 85 86 87 88 89  90 91 92 93 の続きです。
それではどうぞ↓




























* * *



「・・・・」

「・・・・」


トイレに行った爽子を待つ間、二人になった光平と風早は言葉を交わさず複雑そうに壁にも

たれていた。


「・・・不思議だな。なんで3人でいるんだろ」

「じゃ・・・もう帰ったら?」


光平の言うことに風早が視線を床に向けたまま答えると、光平がぷっと吹き出した。


「・・なに?」

「いや、風早ってさ、爽やかなんだけど、相手によってはあからさまだよな」

「なっ!」


風早がぶすっとした表情で光平を睨むと、光平は壁にもたれながら天井を見つめて言った。


「俺さ・・・ずっと風早と一緒にいる彼女を見るのがつらかった」

「・・・・・」

「今も・・・好きだよ」


風早は光平の言葉にばっと身を乗り出した。そして複雑な表情で光平を見た。


「・・・なんでそんな顔すんの?いいじゃん。100%彼女の気持ちは風早にあるんだし」

「余裕なんて・・・持ったことない」

「・・・・・」


光平は風早を信じられないという表情で見た。

あれだけ彼女を笑顔にさせられるのに?自分がいくら頑張ってもあんな笑顔をさせることは

できなかった。だけど・・・そんな男だから彼女は好きなんだろうって、今はそう思ってしまう

自分が悔しかった。


「風早さ、いつか俺に言ったよね。彼女を傷つけたら許さないって」

「あ・・・うん」

「でもさ、あの時風早も傷つけたよね。何があったか知らないけど、彼女は傷ついてたよ」

「・・・・うん。もう・・・あんな想いさせない・・・絶対!」


風早は光平に向き合った。力ある目。それは真実だけを映す目のように思えた。


「爽子が好きなんだ。好きなんて言葉で表すことなんかできないぐらい・・・。その想いだけは

 誰にも負けない」

「・・・・・・」


正直な男だってずっと分かっていた。なにせ蓮が恐れるほどの男だ。あんな蓮も初めてだった。

こんな風に出会わなければ・・・・蓮みたいになれたのかな。


「まっ・・・これからもライバルかもね」

「え??」


光平は焦った様子の風早を横目で見ると、舌をちょろっと出した。


「あ・・・それから夏ん時さ、黒沼さんと美穂さんを間近で見たけど、本当に美穂さん、

 黒沼さんが好きなんだと思ったよ。だからさ・・・」

「ってる・・・。分かってる。蓮のことも信用してるから」

「・・・・だったらいいけど」


光平は自分よりもずっと付き合いが短い風早が、蓮のことを理解しているようで悔しさを

覚えた。結局、風早は自分が欲しいものを全部持っているのだ。


「くやしーけど・・・彼女の好きな相手だもんな・・・」

「へ?」


光平は穏やかな表情を浮かべると、独り言のように呟いた。


「お待たせしました・・・・っ」


彼女を見る風早の目は優しい。悔しいけど・・・お似合いだった。

いつか受け入れられる日が来るのだろうか。この二人を心から祝福出来る日が・・・。


光平は複雑な表情を浮かべると、ゆっくりと二人の後ろを歩き出した。



*************



あれから美穂は病院に入った。そして、新たな病名が判明した。”解離性人格障害”と

いう病名がついた。あの事件以来様々な人格が顔を出すようになった。精神科の管轄

だ。家で見ていた家族も限界になり、一時的に入院することになった。蓮はその後も変

わらず病院に通い続けていた。



「話って?」


ある時、病院に見舞いに来た蓮を沙穂は病院のカフェに呼び出した。蓮はコーヒーを一

飲みすると緊張した面持ちの沙穂を見つめた。


「うん・・・。大分前になるけど、大変だったんだってね。爽子ちゃん・・・」

「ああ・・・」

「蓮も・・・。はっきり分かったね。美穂の今までの行動が」

「うん」


今から考えたらあの幼児性もその一つだったということが分かる。沙穂はあれからドクター

にはっきりした美穂の状態を聞いた。あの事故は記憶障害を引き起こしただけで、その部

分はすっかり治っていたのだ。結局それ以前に潜在的に持っていた人格障害が顔を出した

という形になった。あの爽子の一件も病気から引き起こした行動と言わざる得ない。


沙穂はぎゅっと口を結ぶと、決心したように蓮を見上げた。


「・・・もういいの。」

「え?」

「もういいよ。蓮。もう十分だよ。ね、お母さん」


蓮は沙穂の見ている方を向くと、そこに沙穂の母が立っていた。そして頷いている。


「事故の傷は癒えてるの。後は美穂自身の病気の部分。だから後は家族が見ていく」

「沙穂・・・」

「本当にごめんね、今まで。私・・・もうちゃんと美穂に向き合える。これからは逃げたくない

 の。例え、美穂が拒んだとしてもね。それから、蓮も美穂のことが女として好きじゃないな

 ら酷だよ。もう・・・来ないで。十分蓮は償った」

「・・・・・」


複雑そうに揺れる蓮の目を見て、沙穂は蓮の気持ちを受け止めるように言った。


「心配しないで。蓮は家族じゃないんだから。新しい人生を生きて欲しい」

「でも・・・・今の美穂の状態を見て、すぐには引けないよ。」


今まで幼児の美穂と元の美穂しかいなかったが、今や、その他4人ぐらいの違う人格が

美穂の中に混在している。あまりの異常性に病気はかなり重くなっていることが分かる。


「蓮がこれ以上一緒にいると美穂はずっと期待するよ。結局それが引き金になっていること

 は確かなんだから」

「・・・・分かった」


それから沙穂は”「今までありがとうございました。」”と丁寧に頭を下げた。それは家族で

背負っていくという決意の表れのようだった。そして、自分への思いやりだと思うと蓮はつ

らい気持ちでいっぱいになった。


「蓮・・・もしかして、美穂は事故前から病気だったんじゃないの?」

「・・・・・」

「そんな美穂をずっと抱えて苦しんでたんじゃないの?」

「・・・・分からない。それは自分が判断できることじゃない」


沙穂は胸の奥が苦しくなった。ずっとそんな美穂を支えていたのは蓮ではないのか。自分

は幸せそうな美穂をうらやましくて、ただ許せなくて・・・。自分のことしかなかった。


その時だった。沙穂は頭の中で何か違和感を感じた。それは恐ろしい違和感だった。


「もしかして・・蓮・・・事故の時・・・」

「え?」


固まった様子で独り言のように呟く沙穂に蓮は不思議そうな顔をして聞き返した。

沙穂はしばらくの間の後、”何でもない”と首を横に振った。


”そんなことあるわけない”


そう思いながらも背筋が凍るような感覚を覚えた。沙穂は動揺している内面を隠すように

必死で明るく振る舞い、蓮を見送った。もうここには二度と来ることがない蓮を・・・。



* * *



蓮はいろいろな想いを抱えながらゲートを出ると、病院を見上げた。

これで全てを終われると思えたらどれだけ良いだろう。そう思おうと努力してもあまりにも

苦しみの期間が長すぎた。でも沙穂の言うことは正しかった。美穂に気持ちがない自分

がこれ以上関わることに何の意味をも持たないのだ。


蓮は割り切れない想いを持て余しながらも振り切るように病院を後にした。


そして、病院の窓からその様子を食い入るように見ている美穂の姿があった。












あとがき↓

相変わらず臭い芝居な感じ続きます(汗)修羅場はないと言ったけど、次回はある意味、
沙穂と美穂の修羅場と言えるのかな。100話で終われる予感してきました!でも別マ
発売までには終われそうにないけど。自己満足続行中ですが、それでもよければまた
遊びに来てください。

Half moon 95