「Half moon」(81)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

仙台に帰った沙穂が会いに行った人物とは?そしてあれから美穂は?
今回は爽子は出てきません〜〜。

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それではどうぞ↓
































***********


カランッ


沙穂は仙台に戻ると、その足である待ち合わせ場所に向かった。


「秋山さん」


先に来ていた風早が向こうの席で手を上げた。沙穂は店をぐるっと見渡す。ここは風早

があの夜飲んでいた場所・・・。


北海道から電話をした時、”もう一度会いたい”と言った私に風早はこの日を指定した。

こんなにすぐに会えると思ってなかったから正直驚いた。


「ごめんね・・・待たせた?」

「いや、俺も今来たところ。仕事中だからあんま時間ないけど」

「うん・・・分かってる。この店・・・昼間はカフェなんだね」

「うん。そうなんだ」

「−らっしゃい」


そこに店に従業員がオーダーを取りに来た。そして二人を交互に見た。


「あ・・・・」


沙穂は覚えていた。あの時の従業員だと。風早の行きつけの店だと後で知った。だから

あの時、自分のことを訝しげに見ていたのだ。


「私、彼女じゃないから」

「え・・・・?」


従業員の男性と風早はびっくりしたように沙穂を見た。


「彼の彼女・・・知ってるんですよね?」

「あ・・・はい。長い黒髪の・・・」

「秋山さん・・・・」


風早は沙穂をじっと眺めた。従業員はにっこり笑ってオーダーを聞くと去っていった。


「秋山さん・・・」


沙穂は深刻そうな風早の顔を見て、くすっと笑った。


「・・・もう、風早そんな顔しないで」


そして、気持ちを落ち着かせるように大きく息を吸い込むと、ゆっくりと風早に目を向けた。


「・・・北海道の職員旅行から今日帰ってきたの・・・」

「そうなんだ」

「・・・爽子ちゃんに会ったよ」

「!」


風早は沙穂の言葉に大きく目を見開いた。


「風早さ・・・私のこと爽子ちゃんに聞いてなかったの?」

「え?」

「姉のこと・・・」

「あ・・・うん。爽子からは何も聞いてない」


沙穂はそのことを聞くと、少し驚いた顔をした後ふっと寂しそうに笑みを浮かべた。

爽子と会った沙穂はその事実を素直に受け止めることができた。素直に彼女らしいと思った。

しかしそれが二人の仲をこじらせたということを知ったのはずっと後のこと。そしてそのことを

決して言わなかった爽子の人間性の本質が分かった時、初めて沙穂は自分のしたことの重

さを知ることになる。


だが今の沙穂が分かることは一つだけ。


「そう・・・」


無言になった沙穂を風早は不思議そうに見つめた。しばらくして沙穂は呟くように言った。


「・・・そんなとこなんだね」

「え?」


自分に対しても相手に対しても誠実で正直な彼女。風早はそんな彼女が好きだということ。


沙穂は風早に視線を移すと、にっこりと笑った。

風早は今までの沙穂と違った感じに少し戸惑っていた。


沙穂はいつも好きになった人に自分を良く見せようとしていることに気付いた。自分を良く

見せたいのは当たり前だ。でも、彼女は違う。黒沼爽子。


「あんな人っているんだ。あんなんで生きていけるのかなって思うけど。あはは・・・」

「え?あんな人?」


困惑した表情の風早を見ると、頭を深々と下げた。


「風早・・・・ごめんなさい」

「・・・・・」

「あの夜、風早にいっぱい飲ませて、家に連れ込んだの・・・好きだったから・・・。」

「・・・・・」

「でも・・・・でも、何もなかったから」

「秋山さん・・・」


ゆっくりと顔を上げると、沙穂は目に涙を浮かべて言った。


「こんな気持ちになったのも初めてで・・・。自分のことを好きになって欲しくて・・・」


風早は沙穂を真剣な目で見つめた。


「でも、全然無理だったね。あの夜風早、爽子ちゃんのことばっかり呼んでたよ・・・」

「えっ・・・/////」

「それから、携帯拾ったというのは嘘だったの・・・ごめん」


沙穂はあの時の一連の話をした。風早は全て納得した顔で聞いていた。


「もしかして知ってたの?」

「いや・・・」

「驚かないの?」

「爽子が・・・嘘をつくことに絶対理由があったのに・・・何で信じきれなかったんだろうっ

 て・・・。後から思った。そんな自分に悔しい」


風早はそう言うとせつない表情をした。でももう、以前の風早の目ではない。


「風早・・・もう大丈夫なんだね」

「・・・うん。もう何があっても爽子と向き合おうと決めたんだ。正直に全部話す」

「光平のこと・・・知ってるんでしょ?」


風早は光平の言葉を聞いても動揺することはなく冷静な目で沙穂を見て言った。


「うん・・・はっきりと言われた。爽子が好きだって。」

「いいの?・・・ずっと側にいるのに」

「・・・いいことはないけど、今の俺は田口に嫉妬とかする権利はないから」


沙穂は風早をじっと見つめると、少し寂しい目をして言った。


「もうすぐ・・・彼女に会いに行くの・・・?」

「うん・・・今日仕事を終えたら行こうと思う。ちゃんと顔を見て話したいんだ。」

「そっか・・・・うん」


沙穂は”だからか・・・”と思った。だから今日会いたかったのだ。風早は全てを終わりに

したかったのだ。沙穂はそのことに気付くと哀しげな表情を浮かべた。


しかし、以前のような苦しさはなかった。それはきっと彼女を少しだけ知ってしまったから。

そして彼女が風早に会えることに不思議なほど安堵感を覚えた。彼女の笑顔が浮かんだ。


沙穂は横を向いて、さっと涙を拭き取った。


「秋山さん・・・ありがとな。勇気出して言ってくれて」

「え・・・・そんな」


沙穂は真っ直ぐな風早の目に少し怯んだ目を向けた。この日、責められることがあっても

まさか感謝の言葉なんか聞くことはないと思っていたのだ。それは彼女に会う前と同じ不

安な気持ち。


彼女と・・・同じ真っ直ぐな目。


「爽子ちゃん・・・天然記念物みたいな人だね」

「え・・・」

「まっ完全に・・・負けた。っていうか・・・勝ち負けじゃないんだよね。あの人」

「・・・うん。俺の憧れなんだ」

「!」


風早は嬉しそうに少し頬を染めながら言った。


「以前、話したことあったよな。”人生の目標”のこと。目標にする人がいるって。それって・・・

 爽子なんだ。なんか恥ずかしーけど」

「・・・・」


風早の見つめる先にいる彼女。最初から敵うわけはなかったのだ。でもきっと彼女に会わ

なかったらこんな気持ちで風早に会うことはできなかっただろう。


沙穂は風早を見つめるとゆっくりと目を瞑った。


"恋の終わり”   


風早への恋心に終わりを告げると、沙穂は明るい顔を作って風早に言った。


「風早・・・また仲間として会ってくれる?」

「・・・もちろん」


沙穂は久々に見たお日様のような風早の笑顔をぼーっと眺めた後、嬉しそうに微笑んだ。

そして、”ありがとう”と告げると立ち上がった。


「あ・・・そうだ。風早・・・爽子ちゃんの今の携帯の待ち受け知らないよね?」

「えっ?・・・今のは知らないけど・・・」


沙穂は焦ったような顔の風早をからかい気味に見つめると、耳元で呟くように言った。

そしてくすっと笑って店を去って行った。


風早はぼーっとした顔で沙穂の背中を見送った。



(え・・・/////)



”『風早の寝顔だったよ』”


”「あ〜〜〜さわこちゃんの電話のなかで寝てた人だ」”


風早は髪をくしゃっとすると火照った顔を下に向けた。そして冷たくなったエスプレッソ

を口に含んで気持ちを落ち着かせた。


彼女に会いに行く。彼女は会ってくれるだろうか・・・。


風早の瞳は不安と期待で揺れていた。


「・・・良かったです」

「え?」


風早が見上げると、前にさっきの若いウェイターが立っていた。


「髪の長い彼女とが・・・お似合いですよ」

「えっ/////」


風早はまたかっと赤くなった。そして爽子を思い浮かべるだけで煩い心臓にそっと手を当

てると、嬉しそうに店の窓から空を眺めた。



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秋山家――


「ほら、家に入って」


母親に促され、美穂は渋々1年ぶりの家に入っていく。その後ろから退院に付き添った蓮

が荷物を持って家にやってきた。

美穂はあれから発作を繰り返していたが、医師からも精神的なものが大きいと言われてい

たので、強制的に退院することになった。

沙穂は家に入ってくる美穂を見つめると緊張した面持ちで、大きく息を吐いた。

この日、北海道から帰ると祖母から美穂が帰ってくることを聞いた沙穂はいきなりの出来

事に動揺していた。しかし爽子とのやりとりを思い出すと意志を固めるように顔を上げた。


「れんっ!!つかれたよ〜〜〜っ」


まるで蓮しか見えてない様子の美穂に沙穂は明るく声を掛けた。


「美穂、お帰り!」

「さほちゃん・・・ただいま」


美穂は少し複雑そうな顔を沙穂に向けた。そして、久々の我が家をぐるっと見渡す。


「久々だもんね・・・覚えてる?美穂?」

「うん・・・・なんとなく」


美穂は沙穂から目を逸らすと、蓮の腕にまとわりついた。


「れん〜〜〜〜っ今日いっしょに寝て!ねっいいでしょ?」

「ごめん・・・明日仕事だから」

「えっ・・・やだ、不安で眠れないよぉ」

「美穂、お母さんがいるでしょ」


美穂は子どもみたいにえんえん〜〜と泣き出した。すると蓮はさっと美穂の手を取って側

のソファーに座らせた。


「美穂、これから俺が一緒に病気と闘っていくから」

「びょーき?・・・もう美穂、こんなに元気だよ」

「・・・・病気なんだ」

「ふうん・・・でもいいんだっ。びょーきならずっとれんがいてくれるでしょ?」

「・・・・・」


蓮は子どものように無邪気に笑う美穂をつらそうな表情で見つめていた。















あとがき↓

さて、いよいよ二人は会えるのか!?ここから最後までどんどん行きます。とにかく
終わらせようと思います。個人的にはゆっくり横道反れながら書くのが好きなんです
が、これ以上やきもきするのは大変ですもんね。レスも書きたいのですが、UP優先
でいきますね。よろしくお願いします。

Half moon 82